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6 考察(2003/5/31)

実験を始めてから半年近く経過してしまいました. ここで,実験当初の意図を一つづつ振り返って, 観測されたことを確認していきます.

6.0.0.1 クリップ,カットオフはどのように観測されるか? その原因は?

クリップは,カソード-グリッド間の波形をオシロスコープで観測できます. カットオフは,プレート電流の波形をオシロスコープで観測すれば確認できます. このためには, 3極間の場合はカソードに小さな抵抗を入れて両端の電圧を観測するのが簡単です. 多極管の場合はプレートに抵抗を入れなければなりませんが, オシロで観測する場合は,2つのチャネルを使って差を求めないと感電してしまいます.

差動出力段の場合は, クリップとカットオフが同時に起こるような動作点が, もっとも出力を取れます.

6.0.0.2 プッシュプルのロードラインは直線か?

各真空管のロードラインは,図45(左)のようにオシロを接続することで, 直接観測することができます. また,伝達特性も図45(右)のようにすれば直接観測できます.

A級プッシュプルの場合であっても,6CK4のように直線性の悪い球の場合は, ロードラインが大きく湾曲します. さらに,ロードラインが反り返る(インピーダンスが負になる)ことも観測されました.

6.0.0.3 A級プッシュプル,差動出力段の最適な動作点は?

A級プッシュプルの場合は,シングルの負荷の2倍よりも下げた方が得策です. 出力を上げられる割に歪率の上昇が小さいからです.

差動出力段の場合は,負荷インピーダンスを上げる必要があります. シングルの2倍の負荷で動作させたい場合は, プレート電圧を下げ,電流を増やしてやります.

6.0.0.4 A級プッシュプルの出力は,シングルの2倍か?

理論的には,2倍以上の出力が得られるはずですが, 実験では約2倍に止まりました. 2管のプレート電流の和の波形を見ると, Eg = 0 の電流がかなりアンバランスであることが伺えます. ペアのマッチ度がよくないため,理論的な出力が得られないと思われます.

6.0.0.5 差動出力段でもクリップは起こるのか?

負荷インピーダンスを高くすれば, 定電流値を使い切る前にクリップが起こることが確認されました.

6.0.0.6 アンプが意図したように動作しているかどうかは,どのように確認すべきか?

このためには,オシロスコープを使って出力端子の波形を調べるだけではなく, グリッド電圧,プレート電圧,プレート電流,(差動出力段の場合は)カソード電圧を 調べるべきと思います.

6.1 残された課題

この実験では,まずコンピュータによるシミュレーションにより 各種出力段の動作を検討し, 実作によってシミュレーションで予想された結果を確認してきました. 特に,グリッド電流が流れるような過大な入力を加えたケースでさえも, シミュレーションと実際の動作はほとんど同じといってよいくらい, 正確な結果が得られたことに驚いています.

ただ,A級プッシュプルの出力対歪率特性がかなり近かったにもかかわらず, 差動出力段の歪率は,シミュレーションで予測されたものよりもかなり 悪い結果となりました. この原因については,今後の課題としたいと思います.


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Ayumi Nakabayashi
平成19年7月7日