ゲインは,左チャネル38.95倍 (31.8 dB), 右チャネル39.17倍 (31.9 dB)でした.
出力対歪率特性を図10に示します. 赤い線が1kHz,青い線が90Hz,緑色の線が10kHzの特性です. 80kHzのLPFを使用しています.
周波数特性を図11に示します. 赤色の線が1W,青色の線が0.1W,緑色の線が3.5Wの特性です. 茶色の線は,別の測定器による1W時の周波数特性です.
トランスの2次側から 4.7 kΩ の抵抗を介して負帰還を掛けた場合の ループゲインのボーデ線図を図12に示します. 赤色の線は左チャネル,青色の線は右チャネル,緑色の線はSPICEによるシミュレーションの結果です. 位相は,オシロスコープのリサージュ波形から読みとったので, それほど正確ではありません.
SPICEで使用したトランスのモデルでは,高域の暴れを表せませんが, 概略の特性を表せていることがわかります. ループゲインが 0 dB となるあたり( 340 kHz)で, ちょうど位相が180度遅れるので, このまま負帰還を掛けると,ほぼ発振します. ただし,シミュレーションよりは位相の遅れが少ないようです.
この状態での,10kHz方形波の波形を図13に示します. ご覧のように,発振こそ起きていませんが,激しいリンギングが生じています. 負荷を開放にすると,約1MHzで発振します.
微分補償だけを施した場合の10kHz方形波の波形を図14から15に示します. 波形はずいぶんおとなしくなりますが,負荷を開放にすると約1.3MHzで発振します.
残留雑音ですが,初段のタマによって大きく異なります. 図16から19に,各種の真空管のノイズ波形を示します.
ここでは,ラグリード補償でスタガー比を10倍確保します.
バタワース特性に仕上げるためには,スタガー比が20程度必要ですが,
多少のピークが生じるのは覚悟の上としました.
出力段で位相補償をするための定数は,
Cc = 750 pF,
Rc = 1.8 kΩ としました.
このとき,ポールとゼロは,
p1 | = | 60 [kHz] | (25) |
p2 | = | 111 [kHz] | (26) |
p3 | = | 629 [kHz] | (27) |
z1 | = | 118 [kHz] | (28) |
このポールは進相補償により p3 より上に飛ばします.
補償によるゼロの周波数 zf は,
= | (1 + T0)p1p2 = (1 + 9)(260 x 103)(2344 x 3443) | (29) | |
= | 2854531 | (30) | |
zf | = | = = 2312932 [rad/s] = 368 [kHz] | (31) |
Cf = = 92 [pF] | (32) |
この位相補償を施した場合の,10kHz方形波の波形を図20に示します. 小さなリンギングがありますが,かなりきれいな方形波が再現されています.
やはり,負荷をオープンにすると約 1.3 MHz で発振してしまいます. その原因を探るために無負荷時のループゲインを測定してみると図21のようになりました. 赤い線が規定の負荷を掛けた場合, 青い線が負荷をオープンにした場合です. 400 kHz 以上でループゲインが落ちなくなっており, これが発振の原因と思われます.
今回は,16 Ω 端子に 0.22 μF と 10 Ω を入れることにしました. この定数ですと,第1ポールは約 72 kHz に, 第2ポールは 189 kHz になります. この第2のポールの影響をなくすために微分補償を入れることにすると, その容量は 130 pF となりますが,E12系列の値の 120 pF を使うことにしました.
破線が1次に位相補償をした場合, 実線が2次に位相補償をした場合です. 負荷をオープンにした青い線の場合でも,ループゲインが素直に落ちており, 発振の心配はないでしょう. 今回は,位相補償量を減らしています.
ゲインは,左チャネル3.662倍 (11.3 dB), 右チャネル3.547倍 (11.0 dB)でした. NFB量は,左チャネル 20.5 dB, 右チャネル 20.9 dB でした. 無帰還時と異なる真空管を使用しているので,NFB量は目安です.
残留雑音は,以下のとおりです.
チャネル | 補正なし | 補正あり |
L | 0.09mV | 0.018mV |
R | 0.16mV | 0.022mV |
出力対歪率特性を図23に示します. 赤い線が1kHz,青い線が90Hz,緑色の線が10kHzの特性です. 80kHzのLPFを使用しています.
残留雑音の値からすると,左右が逆のようですので,もう一度測定を行いたいと思います. 片チャネルで 10 kHz の歪率が悪くなっています.原因は不明です. 残念ながら,最低歪率が0.01%をきることができませんでした.周波数特性を図24に示します. 赤色の線が1W,青色の線が0.1W,緑色の線が3.5Wの特性です.
低域は,トランスの特性によって制約を受けているようです. 高域は 200 kHz にピークがあるようです.
より広範囲の特性をとったものが,図25です. ピークは 5 dB 程度で収まっているようです.
この200kHzのピークを0dB以下に収めるため,微分補償を270pFに増やしました. 最終的な周波数特性を図26に示します. この場合の,10kHz方形波の波形を図27に示します. 立ち上がりがゆるやかになり,リンギングが残っています.
図28にクロストーク特性を示します. 赤い線が 左右,青い線が 右左の特性です. 信号を入力していない側の入力端子は, 10 kΩ でターミネートしていますので, 高域の特性が悪いように見えます. 一方,低域は 10 Hz あたりまで特性が悪化しません.
図29にダンピングファクタの周波数特性を示します. 左チャネルの値が20を下回っていますが,十分に高い値といえます.