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6 測定

6.1 無帰還時の特性

ゲインは,左チャネル38.95倍 (31.8 dB), 右チャネル39.17倍 (31.9 dB)でした.

出力対歪率特性を図10に示します. 赤い線が1kHz,青い線が90Hz,緑色の線が10kHzの特性です. 80kHzのLPFを使用しています.

図 10: 無帰還時の出力対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_io_nonfb.ps}

周波数特性を図11に示します. 赤色の線が1W,青色の線が0.1W,緑色の線が3.5Wの特性です. 茶色の線は,別の測定器による1W時の周波数特性です.

図 11: 無帰還時の周波数特性(上: 左チャネル,下: 右チャネル)
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_freq_nonfb.ps}

トランスの2次側から 4.7 kΩ の抵抗を介して負帰還を掛けた場合の ループゲインのボーデ線図を図12に示します. 赤色の線は左チャネル,青色の線は右チャネル,緑色の線はSPICEによるシミュレーションの結果です. 位相は,オシロスコープのリサージュ波形から読みとったので, それほど正確ではありません.

図 12: ループゲインのボーデ線図
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_bode.ps}

SPICEで使用したトランスのモデルでは,高域の暴れを表せませんが, 概略の特性を表せていることがわかります. ループゲインが 0 dB となるあたり( 340 kHz)で, ちょうど位相が180度遅れるので, このまま負帰還を掛けると,ほぼ発振します. ただし,シミュレーションよりは位相の遅れが少ないようです.

この状態での,10kHz方形波の波形を図13に示します. ご覧のように,発振こそ起きていませんが,激しいリンギングが生じています. 負荷を開放にすると,約1MHzで発振します.

nocomp_sqr_10kHz.jpg

図 13: 位相補償がない場合の10kHz方形波応答
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微分補償だけを施した場合の10kHz方形波の波形を図14から15に示します. 波形はずいぶんおとなしくなりますが,負荷を開放にすると約1.3MHzで発振します.

47p_sqr_10kHz.jpg

図 14: 微分補償47pFの10kHz方形波応答
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91p_sqr_10kHz.jpg

図 15: 微分補償91pFの10kHz方形波応答
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残留雑音ですが,初段のタマによって大きく異なります. 図16から19に,各種の真空管のノイズ波形を示します.

12AU7_1_L.jpg

図 16: 12AU7 (松下製)のノイズ波形
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5814_1_L_1.jpg

図 17: 5814 (Philips ECG製)のノイズ波形(1)
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5814_2_L.jpg

図 18: 5814 (Philips ECG製)のノイズ波形(2)
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6189_2_R.jpg

図 19: 6189 (Sylvania製)のノイズ波形
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6.2 位相補償その1

本機では,高域のドミナントポールは,出力段(出力トランス)にあります. ここは2次の時定数を持っているので, 帯域を狭めないためには,この段でラグリード補償をするのが合理的です. 初段で位相補償を行なうと, ドミナントポールまでに 20 dB ゲインを落さねばならぬため, 強力な補償を施す必要があり,初段のポールを 20 kHz あたりに持ってくる必要があります.

ここでは,ラグリード補償でスタガー比を10倍確保します. バタワース特性に仕上げるためには,スタガー比が20程度必要ですが, 多少のピークが生じるのは覚悟の上としました. 出力段で位相補償をするための定数は, Cc = 750 pF, Rc = 1.8 kΩ としました. このとき,ポールとゼロは,

p1 = 60 [kHz] (25)
p2 = 111 [kHz] (26)
p3 = 629 [kHz] (27)
z1 = 118 [kHz] (28)

となり,ドミナントポールは 60 kHz に移動し, セカンドポールはドライバ段の 344 kHz になります.

このポールは進相補償により p3 より上に飛ばします. 補償によるゼロの周波数 zf は,

$\displaystyle \omega_{0}^{2}$ = (1 + T0)p1p2 = (1 + 9)(2$\displaystyle \pi$60 x 103)(2$\displaystyle \pi$344 x 3443) (29)
$\displaystyle \omega_{0}^{}$ = 2854531 (30)
zf = $\displaystyle {\frac{{T_0 p_1 p_2}}{{2\zeta \omega_0 - (p1 + p2)}}}$ = $\displaystyle {\frac{{9(2\pi 60 \times 10^{3})(2\pi 344 \times 10^{3})}}{{2 \times 2854531 - 2 \pi 404 \times 10^{3}}}}$ = 2312932 [rad/s] = 368 [kHz] (31)

ここで,T0 は中域の還送比で,ここでは9, $ \zeta$ は,臨界制動特性のとき 1 となります. したがって,補償容量 Cf は,

Cf = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 \pi 368\times10^3 \times 4.7\times 10^3}}}$ = 92 [pF] (32)
となります.

この位相補償を施した場合の,10kHz方形波の波形を図20に示します. 小さなリンギングがありますが,かなりきれいな方形波が再現されています.

pri750p_91p_sqr_10kHz.jpg

図 20: OPT 1次に位相補償を施した場合の方形波応答
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やはり,負荷をオープンにすると約 1.3 MHz で発振してしまいます. その原因を探るために無負荷時のループゲインを測定してみると図21のようになりました. 赤い線が規定の負荷を掛けた場合, 青い線が負荷をオープンにした場合です. 400 kHz 以上でループゲインが落ちなくなっており, これが発振の原因と思われます.

図 21: OPT1次に位相補償した場合のループゲイン
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_lgpri_open.ps}

6.3 位相補償その2

負荷開放でも発振しないようにするためには, どうやらOPTの2次側で位相補正を行ったほうがよいようです. 2次側で位相補償を行う場合,相当大きな時定数にしないと, ポールとゼロで打ち消しができませんし,スタガー比も大きく取れません.

今回は,16 Ω 端子に 0.22 μF と 10 Ω を入れることにしました. この定数ですと,第1ポールは約 72 kHz に, 第2ポールは 189 kHz になります. この第2のポールの影響をなくすために微分補償を入れることにすると, その容量は 130 pF となりますが,E12系列の値の 120 pF を使うことにしました.

図 22: OPT2次に位相補償した場合のループゲイン
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_lgsec_open.ps}

破線が1次に位相補償をした場合, 実線が2次に位相補償をした場合です. 負荷をオープンにした青い線の場合でも,ループゲインが素直に落ちており, 発振の心配はないでしょう. 今回は,位相補償量を減らしています.

6.4 帰還後の特性

ゲインは,左チャネル3.662倍 (11.3 dB), 右チャネル3.547倍 (11.0 dB)でした. NFB量は,左チャネル 20.5 dB, 右チャネル 20.9 dB でした. 無帰還時と異なる真空管を使用しているので,NFB量は目安です.

残留雑音は,以下のとおりです.

チャネル 補正なし 補正あり
L 0.09mV 0.018mV
R 0.16mV 0.022mV
左チャネルは松下の12AU7, 右チャネルはSylvaniaの6189を使用しています.

出力対歪率特性を図23に示します. 赤い線が1kHz,青い線が90Hz,緑色の線が10kHzの特性です. 80kHzのLPFを使用しています.

図 23: 負帰還時の出力対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_io_nfb.ps}
残留雑音の値からすると,左右が逆のようですので,もう一度測定を行いたいと思います. 片チャネルで 10 kHz の歪率が悪くなっています.原因は不明です. 残念ながら,最低歪率が0.01%をきることができませんでした.

周波数特性を図24に示します. 赤色の線が1W,青色の線が0.1W,緑色の線が3.5Wの特性です.

図 24: 負帰還時の周波数特性(上: 左チャネル,下: 右チャネル)
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_freq_nfb.ps}

低域は,トランスの特性によって制約を受けているようです. 高域は 200 kHz にピークがあるようです.

より広範囲の特性をとったものが,図25です. ピークは 5 dB 程度で収まっているようです.

図 25: 負帰還時の周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_freq2_nfb.ps}

この200kHzのピークを0dB以下に収めるため,微分補償を270pFに増やしました. 最終的な周波数特性を図26に示します. この場合の,10kHz方形波の波形を図27に示します. 立ち上がりがゆるやかになり,リンギングが残っています.

図 26: 最終版の周波数特性(上: 左チャネル,下: 右チャネル)
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_freq_nfb_final.ps}

sec_270p_sqr_10kHz.jpg

図 27: OPT 2次に位相補償を施した場合の方形波応答
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28にクロストーク特性を示します. 赤い線が 左$ \to$右,青い線が 右$ \to$左の特性です. 信号を入力していない側の入力端子は, 10 kΩ でターミネートしていますので, 高域の特性が悪いように見えます. 一方,低域は 10 Hz あたりまで特性が悪化しません.

図 28: クロストーク特性
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_crosstalk.ps}

29にダンピングファクタの周波数特性を示します. 左チャネルの値が20を下回っていますが,十分に高い値といえます.

図 29: ダンピングファクタ周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{6DE7will_DF.ps}


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Ayumi Nakabayashi
平成19年7月1日