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3 真空管抵抗

SRPPは,アクティブロード(V2)を負荷とした, V1によるカソード接地増幅回路と見なすことができます. まずは,負荷 RL がない場合のV2の振る舞いを調べることにします.

3.1 ロードライン

V1のプレートより上側の回路を取り出すと,図2のようになります. この回路のB-A間の電圧と,流れる電流の関係を調べます. 真空管V2にとっては,プレート電圧はB-C間の電圧で,グリッド電圧はA-C間の電圧です.
図 2: 真空管抵抗
\begin{figure}\input{figs/srpp2}
\end{figure}

ここからは,具体的な値を使って説明していくため, 真空管は 12AU7 を使い, Rk2 = 1.5 kΩ とします. 12AU7 のプレート特性を図3に示します. このプレート特性図では,グリッド電圧が 2 V ごとに特性が示されています.

図: 12AU7 のプレート特性
\includegraphics{figs/12AU7_EpIp.ps}

仮に,グリッド電圧が Eg = - 2 V になったとします. すなわち,C-A間の電圧が 2 V です. Rk2 の両端に 2 V が生じるのは,C-A間に,

$\displaystyle {\frac{{2\,[\V]}}{{1.5\,[\kilo\ohm]}}}$ = 1.33 [mA] (1)
の電流が流れているからですが,グリッドには電流が流れていないため, この電流はプレート電流 Ip と等しいことになります. プレート特性図上では,この状態は点Pで表されます. グラフよりプレート電圧は Ep = 49.8 V で,これはB-C間の電圧です. B-A間の電圧は, 49.8 + 2 = 51.8 [V] となり,この点は P'です.

同様にして,グリッド電圧が -4 V のとき, -6 V のとき...と繰り返していくと, 次の表のような結果が得られます.

Eg (V) Ip (mA) Ep (V) B-A間の電圧(V)
0 0 0 0 O
-2 1.33 49.8 51.8 P
-4 2.67 101.8 105.8 Q
-6 4.00 150.3 156.3 R
-7 4.67 173.8 180.8
-8 5.33 197.0 205.0 S
点O, P', Q', R', S'をつないでいくと, B-A間の電圧と電流の関係が示されます. 図4では,緑色の線がそれです. ご覧のように,ほとんど直線になります.
図 4: 真空管抵抗の特性
\includegraphics{figs/tube_resistor.ps}

3.2 ロードラインの傾きを三定数で表す

ここでは,図3の点Rを基準にします. この点のプレート電圧は Ep0 = 150.3 V, グリッド電圧は Eg0 = - 6 V, プレート電流は Ip0 = 4 mA でした. 拡大図5では,この点をOとしています.
図 5: 真空管抵抗のロードラインと三定数
\includegraphics{figs/tube_res2.ps}

ロードライン(青い線)の抵抗値は, OR/RQ です. これを三定数を使って表すのが目標です.

まず,直線RQの長さについて調べます. 点Rの電流は,

Ip0 = $\displaystyle {\frac{{-E_{g0}}}{{R_{k2}}}}$ (2)
で,点Qの電流は,

IpQ = $\displaystyle {\frac{{-E_{g\rm Q}}}{{R_{k2}}}}$ (3)
です.したがって,直線RQの長さは,

RQ = IpQ - Ip0 = $\displaystyle {\frac{{-E_{g\rm Q}+E_{g0}}}{{R_{k2}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{R_{k2}}}}$ (4)
です.

OPの長さは,2本の特性曲線のグリッド電圧が 1 V 異なっていることから μ2 です. 残っているのは直線PRですが,V2の内部抵抗 rp2 の定義より,

rp2 = $\displaystyle {\frac{{\rm PR}}{{\rm RQ}}}$ (5)
ですから,

PR = rp2 . RQ = $\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{k2}}}}$ (6)
となります.

これより,ロードラインの抵抗値 Ru は,

Ru = $\displaystyle {\frac{{\rm OR}}{{\rm RQ}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{{\rm OP} + {\rm PR}}}{{\rm RQ}}}$  
  = μ2Rk2 + rp2 (7)

となります.

真空管抵抗全体の抵抗値 Rl,すなわち緑色の線の傾きは, OO'が 6 V,QQ'が 7 V なので, O'R'の長さはORの長さより 1 V 長く,

Rl = $\displaystyle {\frac{{\rm OR + 1}}{{\rm RQ}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{{\rm OP} + {\rm PR} + 1}}{{\rm RQ}}}$  
  = 2 +1)Rk2 + rp2 (8)

となります. グリッドには電流が流れないので,単にプレート-カソード間の抵抗に Rk2 を加えたものと考えても結構です.

ここで実際の値を入れて計算してみます. 動作点 Ep0 = 150.3 V, Ip0 = 4 mA における三定数は, μ = 16.53, rp = 10.81 kΩ, gm = 1.53 mS です. これらの値を式(8)に代入して, 真空管抵抗の値を求めると,

Rl = (16.53 + 1) x 1.5 + 10.81 = 37.1 [kΩ] (9)
となります.

点O'と点Q'から抵抗値を計算すると,

$\displaystyle {\frac{{180.8 - 156.3}}{{0.667}}}$ = 36.7 [kΩ] (10)
となります. 式(9)の値は,点O'における緑色の線に対する接線の傾きですので, 値が完全に一致するわけではありません.

ちなみに,点O'の直流的な抵抗を求めてみると,

$\displaystyle {\frac{{156.3}}{{4}}}$ = 39.1 [kΩ] (11)
で,点O'近傍の抵抗(交流抵抗)とほとんど変わらないことがわかります.


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平成16年5月14日