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4 SRPPの上側の真空管の動作

SRPPの場合,上側の真空管V2のカソードに,負荷 RL がつながっています. 通常は,V2のカソードの電圧がグラウンドよりも高いため, 図6 (a)のように,カップリングコンデンサ Co を介して 負荷(次段)に接続されます.
図 6: SRPPの上側の真空管の動作
\begin{figure}\input{figs/srpp3}
\end{figure}

このままでは解析が面倒なため, 負荷 RL のグラウンド側を,静止時のV2のカソード電圧 Ek0 に結びます (図6 (b)). こうすれば,カップリングコンデンサを取り除いても, 静止時には RL の両端に電圧は掛かりません.

さらに,本来のSRPPでは,B点が電源につながっており, A点が信号によって動くのですが, 解析をわかりやすくするため,A点をグラウンドに接続し, B点が信号によって動くとして解析します. このとき,B点とともにD点も同じだけ動かします. こうすれば,A, B, Dの相対的な電圧の関係が(a)と同様に保たれるからです.

負荷を RL = 47 kΩ とし, 動作点を Ep0 = 150.3 V, Ip0 = 4 mA, Eg0 = - 6 V として, 具体的な数値で見ていきましょう. この動作点は,図7の点Oで, B-A間の電圧は,156.3 V です(点O').

図 7: SRPP上側真空管のロードラインと三定数
\includegraphics{figs/srpp_u1.ps}

静止時のグリッド電圧は Eg0 = - 6 V ですが, これが -7 V になったときのことを考えます. このとき,Rk2 の両端の電圧は 7 V で, Rk2 を流れる電流は 7/1.5 = 4.667 mA となっています. この電流は,BからCに流れたもの,すなわちプレート電流と, DからCに流れたものの合計です.

プレート電圧が 169.5 V のとき, プレート電流は 4.258 mA 流れます. このとき,D点の電圧は,C点から見て 169.5 - 150.3 = 19.2 V 上昇し, 7 + 19.2 = 26.2 V になります. したがって,RL を流れる電流は, 19.2/47 = 0.409 mA となります. この2つの電流を合計すると, 4.258 + 0.409 = 4.667 mA となり, 辻褄が合いました. 各点の電圧,電流の変化を表にまとめると, 次のようになります.

静止時 Eg = - 7 V 変化
A点 V V V
B点 156.3 V 176.5 V 20.2 V
C点 V V V
D点 V 26.2 V 20.2 V
Rk2 を流れる電流 mA 4.667 mA 0.667 mA
プレート電圧(B-C) 150.3 V 169.5 V 19.2 V
グリッド電圧(A-C) -6 V -7 V -1 V
プレート電流(i2) mA 4.258 mA 0.258 mA
負荷にかかる電圧 V 19.2 V 19.2 V
負荷を流れる電流(i3) mA 0.409 mA 0.409 mA
i2 + i3 4mA 4.667 mA 0.667 mA

4.1 図でB-A間の抵抗値を求める

これを作図により求めてみます. 負荷の両端に生じる電圧は,プレート電圧の変化と等しいことに注目します. グリッド電圧が 1 V 下がったとき, B-A間の電流は 1/Rk2 増えて 4.667 mA になります. これは,プレート特性図上では,点Sを通る水平線で表されます. 点Oから点Sへの電流の増加を,負荷とプレート電流で分け合う点を求めることになります.

まず,プレート電圧と負荷を流れる電流の関係を調べると, プレート電圧の変化分がそのまま Rk2 の両端の電圧になるので, Rk2 を流れる電流は (Ep - Ep0)/Rk2 となります. この直線は, (Ep0, 0) を通る右上がりの直線ですが, ここでは,y 軸の向きを逆にし,点Sを通る右下がりの直線で表します. 図7のオレンジ色の線がそれです.

プレート電流は, Eg = - 7 V の特性曲線(赤い色)で表されます. この2つの線の交点Qが求めるプレート電圧になります. なぜならば,直線RQがプレート電流の増加分であり, 直線QTが負荷に流れた電流であり, 両者を加えたもの(直線RT)が, Rk2 を流れた電流の増加分と一致しているからです. プレート特性曲線をそのまま使ってプレート電圧を求めるために, オレンジ色の線(負荷を流れる電流)を,Sを通る右下がりの直線としました.

このプレート電圧に対して Rk2 を流れる電流を表す点はTです. B-A間の電圧と電流の関係は,点Oや点TにC-A間の電圧( = - グリッド電圧)を加えたもので, それぞれO', T'になります.

この例の場合,B-C間の(交流)抵抗値は,

$\displaystyle {\frac{{169.5 - 150.3}}{{4.667 - 4}}}$ = 28.8 [kΩ] (12)
B-A間の(交流)抵抗値は,

$\displaystyle {\frac{{176.5 - 156.3}}{{4.667 - 4}}}$ = 30.3 [kΩ] (13)
となります.

4.2 ロードラインの傾きを三定数で表す

真空管抵抗の場合と違い,線の交点が絡んでくるので, 申し訳ありませんが未知の値 $ \Delta$Ep = OR を導入します.

直線OPは μ ですから, V2の内部抵抗 rp2 の定義より,

rp2 = $\displaystyle {\frac{{\rm PR}}{{\rm RQ}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p - \micro_2}}{{\rm RQ}}}$ (14)
これを RQ について解くと,

RQ = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p - \micro_2}}{{r_{p2}}}}$ (15)

また,負荷を流れる電流について考えると,

QT = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p}}{{R_L}}}$ (16)
RT = RQ + QT より,

$\displaystyle {\frac{{1}}{{R_{k2}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p - \micro_2}}{{r_{p2}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p}}{{R_L}}}$
(17)
これを $ \Delta$Ep について解くと,
$\displaystyle \Delta$Ep$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{1}}{{r_{p2}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{R_L}}}$$\displaystyle \Bigr)$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{R_{k2}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{\micro_2}}{{r_{p2}}}}$ (18)
$\displaystyle \Delta$Ep = $\displaystyle {\frac{{\frac{1}{R_{k2}}+g_{m2}}}{{\frac{1}{r_{p2}}+\frac{1}{R_L}}}}$ (19)
  = (rp2//RL)$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{1}}{{R_{k2}}}}$ + gm2$\displaystyle \Bigr)$ (20)

これより, 上側の真空管V2のロードライン(青い線)の抵抗値 Ru は, 傾きが通常のロードラインとは逆なことに注意して,

Ru = - $\displaystyle {\frac{{\rm OR}}{{\rm RQ}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p r_{p2}}}{{\micro_2-\Delta E_p}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{\micro_2}{\Delta E_p r_{p2}}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{\micro_2/r_{p2}}{(r_{p2}//R_L)(1/R_{k2}+g_{m2})}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{(\frac{1}{r_{p2}}+\frac{1}{R_L})\frac{g_{m2}}{1/R_{k2}+g_{m2}}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{(\frac{1}{r_{p2}}+\frac{1}{R_L})\frac{g_{m2}R_{k2}}{1+g_{m2}R_{k2}}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{(\frac{1}{r_{p2}}+\frac{1}{R_L})g_{m2}R_{k2}-\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{\frac{g_{m2}R_{k2}}{R_L}+\frac{g_{m2}R_{k2}}{r_{p2}}-\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{r_{p2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{\frac{g_{m2}R_{k2}}{R_L}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$ (21)

B-A間の抵抗値 Rl は,
Rl = $\displaystyle {\frac{{{\rm OR}+1}}{{\rm RT}}}$  
  = ($\displaystyle \Delta$Ep +1)Rk2  
  = (rp2//RL)$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{1}}{{R_{k2}}}}$ + gm2$\displaystyle \Bigr)$Rk2 + Rk2  
  = (rp2//RL)(1 + gm2Rk2) + Rk2 (22)

4.3 数値例

上側の真空管のロードラインの抵抗値 Ru は,

Ru = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{\frac{1}{r_{p2}}-\frac{g_{m2}R_{k2}}{R_L}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1+1.53\times1.5}}{{\frac{1.53\times1.5}{47}-\frac{1}{10.8}}}}$ = - 75.3 [kΩ] (23)
図から求めると,

Ru = - $\displaystyle {\frac{{\rm OR}}{{\rm RQ}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{169.5-150.3}}{{4.258-4}}}$ = - 74.4 [kΩ] (24)
となります.

B-A間の抵抗値 Rl は,

Rl = (rp2//RL)(1 + gm2Rk2) + Rk2 = (10.8//47)(1 + 1.53 x 1.5) + 1.5 = 30.4 [kΩ] (25)
図から求めると,

Rl = $\displaystyle {\frac{{{\rm OR}+1}}{{\rm RT}}}$ = $\displaystyle {\frac{{169.5-150.3+1}}{{4.667-4}}}$ = 30.3 [kΩ] (26)
となります.

4.4 負荷の大きさを変えてみると

4.4.1 RL = μ2Rk2 となった場合

この状態をプレート特性図に示すと,図8のようになります. 点P, Qは一致し,上側の真空管のロードライン(青い線)は水平になり,定電流動作になります. B-A間の抵抗は,真空管に信号電流が流れませんので, RL + Rk2 になります. 図8の例の場合, RL = 16.53 x 1.5 = 24.8 [kΩ] です.
図: RL = μ2Rk2 の場合
\includegraphics{figs/srpp_u2.ps}

4.4.2 RL < μ2Rk2 の場合

この場合,点Qは点Pより下にきます. つまり,B-A間の電圧を上げると,真空管を流れる電流が減ります. したがって,B-A間を流れる電流の変化よりも,RL を流れる電流のほうが大きくなります. 図9の例は, RL = 10 kΩ の場合です.
図: RL < μ2Rk2 の場合
\includegraphics{figs/srpp_u3.ps}

4.5 グリッド電流が流れない限界

B-A間の電圧を下げていくと,Rk2 を流れる電流が減っていき, V2のグリッド電圧は次第に 0 V に近づいていきます. Rk2 を流れる電流が 0 となったとき,V2のグリッド電圧が 0 V になります. このとき,真空管を流れた電流は,すべて RL を通り,Rk2 には流れません.

このときのプレート電圧は,点S (Ep0, 0) を通り,傾きが -1/RL の直線と, Eg = 0 の特性曲線が交わった点Qから求めることができます. 図10は, RL = 15 kΩ の例で, 点Qは, Ep = 58.9 V, Ip = 6.1 mA となります. この点の電圧は,SRPPの最大出力電圧を制約する条件の一つとなりますので,重要です.

図 10: B-A間の最小の電圧
\includegraphics{figs/srpp_u4.ps}


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平成16年5月14日