このままでは解析が面倒なため, 負荷 RL のグラウンド側を,静止時のV2のカソード電圧 Ek0 に結びます (図6 (b)). こうすれば,カップリングコンデンサを取り除いても, 静止時には RL の両端に電圧は掛かりません.
さらに,本来のSRPPでは,B点が電源につながっており, A点が信号によって動くのですが, 解析をわかりやすくするため,A点をグラウンドに接続し, B点が信号によって動くとして解析します. このとき,B点とともにD点も同じだけ動かします. こうすれば,A, B, Dの相対的な電圧の関係が(a)と同様に保たれるからです.
負荷を RL = 47 kΩ とし, 動作点を Ep0 = 150.3 V, Ip0 = 4 mA, Eg0 = - 6 V として, 具体的な数値で見ていきましょう. この動作点は,図7の点Oで, B-A間の電圧は,156.3 V です(点O').
静止時のグリッド電圧は Eg0 = - 6 V ですが, これが -7 V になったときのことを考えます. このとき,Rk2 の両端の電圧は 7 V で, Rk2 を流れる電流は 7/1.5 = 4.667 mA となっています. この電流は,BからCに流れたもの,すなわちプレート電流と, DからCに流れたものの合計です.
プレート電圧が 169.5 V のとき, プレート電流は 4.258 mA 流れます. このとき,D点の電圧は,C点から見て 169.5 - 150.3 = 19.2 V 上昇し, 7 + 19.2 = 26.2 V になります. したがって,RL を流れる電流は, 19.2/47 = 0.409 mA となります. この2つの電流を合計すると, 4.258 + 0.409 = 4.667 mA となり, 辻褄が合いました. 各点の電圧,電流の変化を表にまとめると, 次のようになります.
静止時 | Eg = - 7 V | 変化 | |
A点 | 0 V | 0 V | 0 V |
B点 | 156.3 V | 176.5 V | 20.2 V |
C点 | 6 V | 7 V | 1 V |
D点 | 6 V | 26.2 V | 20.2 V |
Rk2 を流れる電流 | 4 mA | 4.667 mA | 0.667 mA |
プレート電圧(B-C) | 150.3 V | 169.5 V | 19.2 V |
グリッド電圧(A-C) | -6 V | -7 V | -1 V |
プレート電流(i2) | 4 mA | 4.258 mA | 0.258 mA |
負荷にかかる電圧 | 0 V | 19.2 V | 19.2 V |
負荷を流れる電流(i3) | 0 mA | 0.409 mA | 0.409 mA |
i2 + i3 | 4mA | 4.667 mA | 0.667 mA |
これを作図により求めてみます. 負荷の両端に生じる電圧は,プレート電圧の変化と等しいことに注目します. グリッド電圧が 1 V 下がったとき, B-A間の電流は 1/Rk2 増えて 4.667 mA になります. これは,プレート特性図上では,点Sを通る水平線で表されます. 点Oから点Sへの電流の増加を,負荷とプレート電流で分け合う点を求めることになります.
まず,プレート電圧と負荷を流れる電流の関係を調べると, プレート電圧の変化分がそのまま Rk2 の両端の電圧になるので, Rk2 を流れる電流は (Ep - Ep0)/Rk2 となります. この直線は, (Ep0, 0) を通る右上がりの直線ですが, ここでは,y 軸の向きを逆にし,点Sを通る右下がりの直線で表します. 図7のオレンジ色の線がそれです.
プレート電流は, Eg = - 7 V の特性曲線(赤い色)で表されます. この2つの線の交点Qが求めるプレート電圧になります. なぜならば,直線RQがプレート電流の増加分であり, 直線QTが負荷に流れた電流であり, 両者を加えたもの(直線RT)が, Rk2 を流れた電流の増加分と一致しているからです. プレート特性曲線をそのまま使ってプレート電圧を求めるために, オレンジ色の線(負荷を流れる電流)を,Sを通る右下がりの直線としました.
このプレート電圧に対して Rk2 を流れる電流を表す点はTです. B-A間の電圧と電流の関係は,点Oや点TにC-A間の電圧( = - グリッド電圧)を加えたもので, それぞれO', T'になります.
この例の場合,B-C間の(交流)抵抗値は,
= 28.8 [kΩ] | (12) |
= 30.3 [kΩ] | (13) |
真空管抵抗の場合と違い,線の交点が絡んでくるので, 申し訳ありませんが未知の値 Ep = OR を導入します.
直線OPは μ ですから, V2の内部抵抗 rp2 の定義より,
rp2 = = | (14) |
RQ = | (15) |
また,負荷を流れる電流について考えると,
QT = | (16) |
= +
|
(17) |
Ep + | = | + | (18) |
Ep | = | (19) | |
= | (rp2//RL) + gm2 | (20) |
これより,
上側の真空管V2のロードライン(青い線)の抵抗値 Ru は,
傾きが通常のロードラインとは逆なことに注意して,
上側の真空管のロードラインの抵抗値 Ru は,
Ru = = = - 75.3 [kΩ] | (23) |
Ru = - = - = - 74.4 [kΩ] | (24) |
B-A間の抵抗値 Rl は,
Rl = (rp2//RL)(1 + gm2Rk2) + Rk2 = (10.8//47)(1 + 1.53 x 1.5) + 1.5 = 30.4 [kΩ] | (25) |
Rl = = = 30.3 [kΩ] | (26) |
B-A間の電圧を下げていくと,Rk2 を流れる電流が減っていき, V2のグリッド電圧は次第に 0 V に近づいていきます. Rk2 を流れる電流が 0 となったとき,V2のグリッド電圧が 0 V になります. このとき,真空管を流れた電流は,すべて RL を通り,Rk2 には流れません.
このときのプレート電圧は,点S (Ep0, 0) を通り,傾きが -1/RL の直線と, Eg = 0 の特性曲線が交わった点Qから求めることができます. 図10は, RL = 15 kΩ の例で, 点Qは, Ep = 58.9 V, Ip = 6.1 mA となります. この点の電圧は,SRPPの最大出力電圧を制約する条件の一つとなりますので,重要です.