私が真空管に興味を持ったのは, 今から30年近く前の小学生の頃,初歩のラジオによってでした. もちろん,すでに真空管の全盛期は過ぎておりましたが, 近くの電子部品販売店には,まだ保守用の真空管が売られていたことを覚えています.
その当時,手に入る真空管関連の資料といえば, 誠文堂新光社の「実用真空管ハンドブック」[7]と 「真空管活用自由自在」[7]でした. どちらも,最近復刻版が出ているのは,みなさんご存じの通りです. このほかにも,各メーカーの真空管関連のハンドブックが出ていたはずですが, 小学生には手を出せない価格だったのでしょうか,記憶にありません. これらの書籍には,特性曲線が載っているタマは少なく, また,特性曲線を使った作図による設計法を 詳しく説明している文献も手に入らなかったため, 自分で自在に設計ができるまでには至りませんでした. もちろん,複素インピーダンスなどは小学生には理解不能であったでしょう.
特性曲線と作図による設計法に目を開かせてくれたのは, 長真弓氏の「真空管アンプ設計自由自在」[6]でした. また,黒川達夫氏の「デジタル時代の真空管アンプ」[3], 「現代真空管アンプ25選」[4]に見られる 現代的な低インピーダンス設計も大いに刺激になりました. しかし,設計の技法に関しては,作図と手計算という伝統から脱しておりません. これだけPCが普及しているのですから, 真空管アンプの設計にコンピュータを利用しない手はありません.
MJ誌では,Tube CADなどコンピュータを利用した設計法を紹介していますが, 回路が制限される,出力段は対象外,使用できる真空管の種類に限りがあるなど, 制約が多いものです. SPICEに代表される一般の電子回路シミュレータを利用することも考えられますが, 完成した回路のシミュレーションには適しているが, 設計という目的には必ずしも適当でない, 真空管のモデルに適切なものがない, フリーウェアのバージョンでは精度が悪いというバグがあるなど, これもあまりうまくありません.
ここでは,主にRというソフトウェアを使って真空管の特性を表現し,
さまざまな分析を行っていきます.
Rは,統計・グラフィクスのための環境(言語)であり,フリーウェアです.
Windowsだけでなく,各種UNIX,Linuxなどでもまったく同じように動作します.
Rは,
http://www.cran.r-project.org/ より入手できます.
また,実際の回路の動作については,SPICEを使って確認していきます.
私はLinuxを使っており,
SPICEとしてはバークレー版のバージョン3f5を使用していますが,
Windows上ではほかにも多くのバージョンが使えるでしょう.
Web上では紙数の制限がないので, 式の導出やプログラムについては, できるだけ詳しく載せるつもりです. 数式を多く使っていますが,内容は高校の数学レベルですので, 気軽に読んでください. また,数値例の有効数字も約6桁程度載せていますが, これは算出結果が合っているかどうか, シミュレーションの精度はどれくらいかを確認するためで, 実用的には精度よく計算することにあまり意味がないことを 承知の上でこのようにしています. PDFバージョンはこちら(1.6Mbytes)からどうぞ.