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1 マイク測定用ヘッドアンプ

1.1 設計

アンプの電源は$ \pm$ 15V程度ですが, これからファンタム電源の48Vを作る必要があります. 昇圧型のスイッチング電源でなんとかするのが手軽ですが, 通常のICでは40Vが限界のようです. アプリケーションノートを見ると,倍電圧整流を使ったファンタム電源の例があるので, これにならうことにします.

秋月電子通商で扱っているNJW4131を使ったものは,入力電圧の範囲が広いため, この整流部分のダイオードおよびコンデンサを取り外し, 代わりに倍電圧整流を追加することにします. 改造後の回路図を図1に示します.

図 1: ファンタム電源の回路図
\includegraphics[scale=0.75]{PhantomPS-crop.ps}
電圧設定用の半固定抵抗VR1は,2倍の200k$ \ohm$ にします.

スイッチング周波数は700kHzと高速なので, オーディオ帯域にはあまり影響しないと思いますが, スイッチング電源の入力と出力にLCフィルタを追加しています(L2, L3, C10). L2は1.5Aを流せるもの,L3は100mAを流せるものであれば良いと思います. これで,50mA程度の出力が取れます.

アンプ部の回路図を,図2に示します.

図 2: ヘッドアンプの回路図
\includegraphics[scale=0.75]{MicTestSch-crop.ps}
アンプ部は簡略化して,計装アンプのLT1167を使い, ゲインは0dBから40dBまで,10dBステップで可変できるようにしました. ゲインが低いとMHz域にピークができるので, C5によって差動の高域カットオフを100kHz程度にしています. 入力インピーダンスは,差動で10k$ \ohm$ となるようにしています.

ゲインを高くすると出力にオフセットが出てくる恐れがあるので, LF411によるDCサーボを付加しました. 低域のカットオフは1Hz程度です.

1.2 特性

まずは,このヘッドアンプがマイクロホンの雑音を正しく測定できるかどうかを 確認するため,入力ショートの状態で出力される雑音を測定しました. 帯域幅を変えて測定した結果は,下表の通りです.
ゲイン 600kHz 80kHz 30kHz IHF-A
0dB 99.0$ \micro$ V 22.4$ \micro$ V 13.2$ \micro$ V 8.2$ \micro$ V
10dB 118$ \micro$ V 29.5$ \micro$ V 19.5$ \micro$ V 13.2$ \micro$ V
20dB 158$ \micro$ V 57.0$ \micro$ V 38.0$ \micro$ V 26.3$ \micro$ V
30dB 254$ \micro$ V 142$ \micro$ V 87.0$ \micro$ V 63.0$ \micro$ V
40dB 530$ \micro$ V 410$ \micro$ V 246$ \micro$ V 154$ \micro$ V

帯域幅600kHz (この帯域幅で測定することはないと思いますが)では,100dBのダイナミックレンジが取れています.

どのくらいのノイズまで測定できるかを調べるため, 上記の値を入力換算にしてグラフ化したものを図3に示します.

図 3: ヘッドアンプの入力換算ノイズ
\includegraphics{MicHeadAmpNoise.ps}
ゲイン40dB,帯域幅30kHzで,入力換算ノイズは4.1$ \micro$ Vとなりますので, 10$ \micro$ V程度のノイズは十分に検知可能と思われます.

なお,DCサーボをかけると,わずかにノイズが増えますが,グラフで見ると違いがわからない程度でした.

ゲイン0dB, 20dB, 40dBにおける周波数特性を,図4に示します.

図 4: ヘッドアンプの周波数特性
\includegraphics{MicHeadAmp_gain.ps}
20kHzまではほぼフラットで,C5による帯域制限をかけたため,それ以上の周波数ではゲインがなめらかに減少しています. ゲインが低いと高域にピークができるため,ゲインの減少が少なくなっています. ゲインが40dBでは,十分な負帰還が得られないため,ゲインの落ち込みが激しくなっています.

ゲイン0dB, 20dB, 40dBにおける出力対歪率特性を,図5に示します.

図 5: ヘッドアンプの歪率特性
\includegraphics{MicHeadAmp_dist.ps}
ゲイン40dBでは明らかに初段の負帰還が足りていないようで, 特に10kHzの歪率が悪くなっています. ゲイン0dBでは,発振器の最大出力が2.37Vで,途中までしか測定できていませんが, 歪率がゲイン20dBの場合とそれほど違わないので, この歪率は,初段ではなく後段の差動アンプによるものと思われます. 10kHzで0.04%の歪がありますので, オーディオ用のアンプとしてはやや物足りない感じがします.

ayumi
2016-12-03