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2 BM-800の特性

2.1 ツェナーダイオードから抵抗への変更

BM-800のアンプ部の回路を,図6に示します.
図 6: BM-800のアンプ部の回路図
\includegraphics[scale=0.75]{BM-800_amp-crop.ps}
回路図には,実測した電圧と計算した電流を記入してあります. ツェナーダイオードの電圧は,9.23Vでした.

Q1はソース接地のヘッドアンプで,この種の回路としては一般的な2.2k$ \ohm$ の負荷となっています. Q2はCE分割位相反転回路と,サレン・キー型のHPFを構成しています. Q2のベース電流を無視すれば,C1, C2, R6, R2とR3の並列合成値でフィルタの定数が決まります. フィルタのカットオフ周波数 f0 Q は,

f0 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2\pi \sqrt{C_1 C_2 (R_2 // R_3) R_6}}}}$ = 13.7 [Hz] (1)
Q = $\displaystyle {\frac{{\sqrt{C_1 C_2 (R_2 // R_3) R_6}}}{{(C_1 + C_2) R_6}}}$ = 2.16 (2)

となり,カットオフ周波数近辺で約6dBのピークができるようになっており, 単一指向性のマイクカプセルの低域不足を補っているようです.

ツェナーダイオードには約1.26mAが流れているので, 代わりに7.5k$ \ohm$ 程度の抵抗を使うと, ほぼ同じ電圧配分が得られます.

帯域を変えてノイズ電圧を測定した結果を,図7に示します.

図 7: BM-800のノイズ電圧
\includegraphics{BM-800_noise.ps}
ツェナーダイオードを抵抗に代えることにより, どの帯域幅においても,約5dBの改善が得られました.

2.2 ツェナーダイオードのノイズをフィルタリングする

原回路では,ツェナーダイオード D1が直接レギュレータ Q5のベースに接続されており, ノイズがそのままQ1, Q2の電源に乗ってしまいます. D1とC3の間に抵抗を入れれば,抵抗とC3で構成されるローパスフィルタにより, ツェナーダイオードのノイズが減衰されて,Q5のベースに加わるようになります. ここでは2.2k$ \ohm$ の抵抗を用いました.

帯域を変えてノイズ電圧を測定した結果を,図8に示します.

図 8: BM-800のノイズ電圧
\includegraphics{BM-800_noise2.ps}
前節で改造した基板のツェナーダイオードは捨ててしまったので, 別のマイクから取り出した基板を使っています. また,次節のソースフォロワへの変更の結果,ノイズが下がっているので, ツェナーダイオードのノイズフィルタを入れる前に ソースフォロワに変更してみて,それでもノイズが下がるかどうかも検証しました.

改造前のノイズの量ですが,図7よりもかなり低く, ノイズの量は個体によってバラつきがあるようです. ソースフォロワにしてもノイズはそれほど減りませんでした. しかし,フィルタ(抵抗)を追加することにより, ノイズはかなり減り, ツェナーダイオードの代わりに抵抗を用いた場合とほとんど同じレベルになりました.

このフィルタを追加する方法では,ファンタム電圧が低くなっても, Q1, Q2の電源電圧がある程度維持されますので, こちらの改造方法をお薦めします.

2.3 ソース接地からソースフォロワへの変更

次に,カプセルの出力を受けるFET Q1の接続方法を変えてみます. このFET 2SK596は,G-S間に100M$ \ohm$ 程度の高抵抗が入っています. ソースフォロワにした時に適切なバイアスがかかるよう, 入力信号は470pFのコンデンサを経由して加えています.

各帯域のノイズ出力は,図7のようになり, ソース接地の1/3〜1/4になりました. ゲインの低下分だけノイズも小さくなるので,S/N比が悪くなるわけではなさそうです.

入力対歪率の特性を,図9に示します.

図 9: BM-800の入力対歪率特性
\includegraphics{BM-800_dist.ps}
同じ入力電圧に対して,ソースフォロワにすると歪が1/10以下に減ります. ソース接地で歪率が10%を超える領域でも, ソースフォロワなら0.6%程度の歪で済んでいます. 明らかに,ソースフォロワのほうが耐入力が高くなります. ソースフォロワでも入力が1Vを超えると歪が急増しますが, ソースの電位が0.7V程度ですので,カットオフが生じていると思われます.

出力対歪率の特性を,図10に示します.

図 10: BM-800の出力対歪率特性
\includegraphics{BM-800_dist_vs_Vo.ps}
出力電圧が0.1〜1Vの範囲では, ソースフォロワの歪率はソース接地の約1/4となっていますが, これは両者のゲインの違い(負帰還量)に相当しています. 出力電圧が0.06V以下では,曲線の傾きが大きくなっていますが, 普通のアンプではこのような現象が起きることはありません.

周波数特性を,図11に示します.

図 11: BM-800の周波数特性
\includegraphics{BM-800_freq.ps}
ソース接地のゲインは14.6dB (5.35倍), ソースフォロワのゲインは2.4dB (1.32倍)で, 約12dB (4倍)の差があります. ヘッドアンプの特性により,20kHz以上のレスポンスが下がっています.

低域については,回路について考察したようにHPFのQが高く設定されているため, 18Hzあたりにピークができています. ソース接地のほうがピークが低くなっていますが, これは,Q1の出力インピーダンスがR1の2.2k$ \ohm$ となり, これがC1と直列になるためです. ソースフォロワの場合,出力インピーダンスは非常に低くなり, 無視できるため,計算した Q の値と近くなります.

2.4 コンデンサの交換

BM-800の信号経路には,4個の1$ \micro$ Fの積層セラミックコンデンサが使われています. このような大容量のセラミックコンデンサはピエゾ効果により振動が電気信号(ノイズ)に変換されて現れたり,歪率が悪化するなどの欠点が知られています. これを確かめてみましょう.

まずは,エミッタフォロワ出力段Q3, Q4へのカップリングコンデンサC4, C5を交換してみます. エミッタフォロワの入力インピーダンスは高いので, それほど大きな容量のコンデンサは必要ありません. シミュレーションにより,0.22$ \micro$ Fまで小さくしても特性に変化がなさそうなので,これを用いることにします.

Q1のゲートを470pFを介してグラウンドに接続し, マイクアンプに接続してC1, C2, C4, C5をセラミックドライバーで叩いてみました. C4, C5からは盛大なノイズが発生します. 特定の周波数にピークがあるわけではなく,低域ほどレベルが高いようです. C2を叩いてもほとんど音はせず,C1はC4, C5よりも低いレベルのノイズが発生します. C4, C5だけを交換するだけで,大きな効果を得ることができます.

なお,C4, C5を0.22$ \micro$ Fに交換して周波数特性や歪率特性を測ってみましたが, 交換前と違いがありませんでした.

改造後のBM-800のアンプ部の回路を,図12に示します.

図 12: 改造後のBM-800のアンプ部の回路図
\includegraphics[scale=0.75]{BM-800_amp_mod-crop.ps}

ayumi
2016-12-03