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8 nabe氏の高品質な低電圧ヘッドホンアンプ

ダイアモンドバッファを使用したポータブルヘッドホンアンプとして, nabe氏の作例(http://nabe.blog.abk.nu/op-dbuf)があります.

今回試作した回路を,図162に示します.

nabe_sch.png

図 162: 試作したnabeアンプの回路図
\begin{figure}.
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\end{figure}
R2, R5は抵抗の記号になっていますが,1mAの定電流ダイオードを使用します. 使用した定電流ダイオードのピンチオフ電流は,1.05mAでした.

nabe_brd.jpg

図 163: nabeアンプ基板
\begin{figure}.\hfill.\par
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\end{figure}

8.1 特性

電源は,$ \pm$1.5Vで動作させました. 出力段のアイドリング電流は約11mAでした.

8.1.1 原回路

原回路では,オペアンプの出力と, ダイアモンドバッファの出力が接続されています1

負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図164, 165に示します.

図 164: 負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_dist.ps}
図 165: 各周波数ごとの負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_dist_RL.ps}
負荷が変わっても歪みの傾向はあまり変わらず,ほぼ一定の値を示します. 負荷が33Ω以上であれば,Chu Moyのほうが歪率が低いですが, 15Ωの負荷では,nabe氏の回路のほうが歪率が低くなります.

負荷抵抗の違いによる周波数特性を図166に示します.

図 166: 負荷を変えた場合の周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_freq_RL.ps}
1MHzを超えてからの特性が乱れています.

残留雑音は,以下のとおりです.

600kHz 80kHz 30kHz A特性
11.5$ \mu$V 3.7$ \mu$V 2.5$ \mu$V 1.2$ \mu$V

負荷開放時の方形波応答を,図167に示します.

nabe_CRD.jpg

図 167: 方形波応答(左 100kHz,右 100kHz, CL=1000pF)
\begin{figure}.\hfill.\par
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\end{figure}
上下が非対称なリンギングが生じています. 2200pFまでの容量負荷に対して発振しませんでした.

8.1.2 オペアンプの出力を切り離した場合

オペアンプのフィードバックを, ダイアモンドバッファの出力から取った場合です.

負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図168, 169に示します.

図 168: 負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_cut_dist.ps}
図 169: 各周波数ごとの負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_cut_dist_RL.ps}
無負荷時の特性が非常に悪化していますが,これは発振によるものです. 10kHzの歪率が顕著に低くなっていますが, 最大出力電圧が低くなっています. エミッタフォロワ(ダイアモンドバッファ)は電源電圧まで動作させられないためです.

負荷抵抗の違いによる周波数特性を図170に示します.

図 170: 負荷を変えた場合の周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_CRD_cut_freq_RL.ps}
1MHzを超える高域にピークができています. 方形波応答を調べたところ,無負荷時には発振していました.

残留雑音は,以下のとおりです.

600kHz 80kHz 30kHz A特性
12.4$ \mu$V 4.1$ \mu$V 2.8$ \mu$V 1.4$ \mu$V

方形波応答を,図171に示します.

nabe_CRD_cut.jpg

図 171: 方形波応答(左 10kHz,負荷開放,右 100kHz, RL=68Ω,CL=1000pF)
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\end{figure}
負荷開放では発振が生じており,容量負荷にも弱いようです.

8.1.3 オペアンプのみの場合

ダイアモンドバッファを使用せずに,オペアンプから直接出力した場合です.

負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図172, 173に示します.

図 172: 負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_op_dist.ps}
図 173: 各周波数ごとの負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_op_dist_RL.ps}
最大出力電圧は,原回路よりも大きくなっており, LME49721のレールツーレール動作が非常に強力なことを示しています. また,歪率は原回路よりも低くなっており, 原回路ではダイアモンドバッファがオペアンプの負荷となって 特性を悪化させていることがわかります. ただし,10kHzの歪率だけは,ダイアモンドバッファを付けた場合の方が低くなっています.

負荷抵抗の違いによる周波数特性を図174に示します.

図 174: 負荷を変えた場合の周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_op_freq_RL.ps}
やはり高域が暴れていますが, 小容量のみを負荷した場合でも発振には至りません.

残留雑音は,以下のとおりです.

600kHz 80kHz 30kHz A特性
10.4$ \mu$V 4.1$ \mu$V 2.6$ \mu$V 1.4$ \mu$V

方形波応答を,図175に示します.

nabe_op.jpg

図 175: 方形波応答(左 10kHz, 負荷開放,CL=470pF,右 100kHz,RL=68Ω)
\begin{figure}.\hfill.\par
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\end{figure}
純容量負荷は,470pFが限界です. オーバーシュートはやはり上下非対称です.

8.1.4 まとめ

比較がしやすいように, 原回路(Original), オーバーオールのフィードバックのみ(Overall NFB only), オペアンプのみ(OPAmp only)の歪率特性を 同じグラフ上に描きました(図176177).
図 176: 回路方式による歪率の比較(RL=68Ω)
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_dist_comp_RL68.ps}
図 177: 回路方式による歪率の比較(RL=33Ω)
\includegraphics[scale=0.8]{nabe/nabe_dist_comp_RL33.ps}

負荷が68Ωの場合, 1kHzでは, 最大出力電圧まではダイアモンドバッファを使用したほうが歪率が低くなります. それを超えると原回路の歪みが低く, nabe氏の目的が達成されているようです. しかし,ダイアモンドバッファが負荷となっているため, 原回路の最大出力はオペアンプのみの場合より低くなっています. 90Hzでも,この傾向は変わりません. 10kHzでは,一貫して原回路の歪率が高くなっています.

負荷が33Ωの場合も,全体の傾向は68Ωとあまり変わりません.

8.2 位相補償

工事中.


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Ayumi Nakabayashi
平成25年12月30日