前節および前々節の測定結果は, シールド用のアルミ板の上にユニバーサル基板を載せて測定したものですが, 雑音を拾っているようで,詳細な比較ができないものでした. そこで,抵抗の差し替えによりChu MoyとA47の両方を切り替えられるアンプを作成し, 完全にシールドされたケースに封じて,測定し直しました. 今回試作した回路を,図150に示します.
増幅部のすべての抵抗,コンデンサは, ICソケットによって差し替えられるようになっています. 発振防止用としてZobelを使えるようになっています. 抵抗は,オペアンプの種類により以下値のものを使用します.
オペアンプの種類 | R1 (kΩ) | R2 (kΩ) | R3 (kΩ) |
FET入力 | 100 | 1 | 2.2 |
バイポーラ入力 | 10 | 15 | 30 |
電源は,4.5Vとしました.
33Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図152に示します.
傾向は68Ω負荷の場合と変わりません. ダブルの回路に33Ωの負荷を接続した場合と, シングルの回路に68Ωの負荷を接続した場合の歪率特性はほとんど同じで, オペアンプ一個あたりの負荷の重さが同じであれば, 歪率のカーブも同じになると言えます.混合用の抵抗には,2つのオペアンプの出力の差, すなわちボルテージフォロワの入出力の差に応じた電流が流れます. 同種のオペアンプを用いた場合, ゲインをとったアンプよりもボルテージフォロワのほうが特性がよいので, このような成分は負荷を流れるものよりも小さいはずですから, ヘッドホンのインピーダンスよりもある程度低い値を使っても差し支えないでしょう.
33Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図154に示します.
傾向は68Ω負荷の場合と変わりませんが, ダブルによる歪率の改善は,68Ω負荷の場合より少なくなっています. また,わずかながら混合用の抵抗を22ΩにしたA47のほうが, Chu Moyよりも最大出力電圧が大きくなりました.
33Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図156に示します.
この場合は,ダブルにするほうがシングルよりも最大出力電圧が上昇しますが, Chu Moyよりは小さくなってしまいます.
33Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図158に示します.
傾向は68Ω負荷の場合と変わりません.
ゲイン | R1 (kΩ) | R2 (kΩ) | R3 (kΩ) |
1 | 100 | -- | 0 |
2 | 100 | 1 | 1 |
3.2 | 100 | 1 | 2.2 |
また,ボルテージフォロワ時に歪率が悪化するのが レールトゥーレール入力に起因するのかどうか確認するため, ゲインが1の反転アンプも比較の対象としました. 入力およびフィードバック用の抵抗は10kΩとし, 非反転入力は直接グラウンドに落としました. 入力インピーダンスをある程度確保するには, 低抵抗を使えず,抵抗の熱擾乱雑音は約3.2倍に増えてしまいます.
負荷開放時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図159に示します.
ゲインが1倍のときは,0.3V以上で, ゲインが2倍のときは,0.6V以上で歪率が悪化します. どちらも入力が0.3Vのときなので, 同相入力が0.5Vを超えるあたりで, 入力のレールツーレール用の回路が切り替わるのではないかと予想されます. 反転アンプの場合は,どの周波数も右下がりの直線になり, 歪みの発生がほとんど検出できませんでした.68Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図160に示します.
負荷開放時と比較しても,それほど最大出力電圧が落ちていません. 反転アンプは,どの周波数においても最大出力付近で最も低い歪率となっています. 注目すべきは,10kHzのA=2と反転アンプの特性で, どちらもノイズゲインは2倍で, 出力が0.4Vくらいまではほぼ同じカーブを描いています. それより出力電圧が大きくなると,非反転アンプの同相入力電圧に起因する歪みが 支配的になり,両者の特性が離れてきます.33Ω負荷時の,各周波数,回路形式ごとの歪率特性を図161に示します.
10kHzの歪率が悪化していますが, それ以外の周波数ではそれほど変化がありません. やはりこの場合も,10kHzでA=2と反転アンプの特性が似た動きをしています.これらの特性を総合すると, LME49721の低歪みを生かすには, 非反転アンプよりも反転アンプのほうが向いているようです.