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4 オルソンアンプの製作

4.1 回路

全回路図を,図17に示します.

図 17: 製作したステレオ・オルソンアンプの全回路図
\begin{figure}\input{figs/olson_st_sch}
\end{figure}

基本的に,原回路を忠実に踏襲しました. 何点か相違点があります.

4.2 部品の選定

電源トランスは,適切な市販品がないので, 春日無線変圧器に特注しました. 出力トランスは,ケース入りの割にリーズナブルな価格の, TANGO FE-25-5を使いました.

真空管は,オリジナル通り,6SN7-GT, 5Y3-GT以外はメタル管を使いました. 特に,6J5はメタル管を使用したほうがノイズが小さくなると思われます. 出力管は,6F6の高周波用選別品である1613を使いました.

抵抗は,オリジナルのW数ですと定格をオーバーするものがあります. 適宜2〜3Wのものに変更しているものがあります.

シャーシは,浅野 勇氏の作例にならって開孔しました. ただし,深さが40mmのものが見あたらなかったので, 50mmのものにしました. サイズは400mm x 250mmです. ウォルナットの無垢板をオイル仕上げにして,サイドウッドとしています.

製作したアンプの外観および内部を,図1822に示します.

Olson_overview.jpg

図 18: 製作したオルソンアンプの外観
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Olson_overview2.jpg

図 19: 製作したオルソンアンプの外観
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Olson_sideview.jpg

図 20: 製作したオルソンアンプの側面
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Olson_rearview.jpg

図 21: 製作したオルソンアンプの背面
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Olson_inside.jpg

図 22: 製作したオルソンアンプの内部
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4.3 測定

総合特性以外は,右チャネルの特性で代表することにします.

4.3.1 初段の特性

初段の特性は,C3とR6の接続点に, 入力インピーダンスが 1 MΩ のバッファを接続して測定しました.

入出力特性,歪率特性を,図23に示します. 2V入力時の歪率は,3%強となります. ゲインは,11.7倍でした.

図 23: 初段の入出力特性(1kHz)
\includegraphics{figs/Olson_V1_io.ps}

周波数特性を,図24に示します.

図 24: 初段の周波数特性(1V)
\includegraphics{figs/Olson_V1_freq.ps}

4.3.2 二段目までの特性

二段目までの特性は,プレートに 0.068 $ \mu$F のコンデンサを接続し, 入力インピーダンスが 1 MΩ のバッファを接続して測定しました.

入出力特性,歪率特性を,図25に示します. 同一入力電圧において,初段のみの場合より歪率が高くなっているので, 二段目のほうで大きな歪みが生じていることがわかります. 二段目までのゲインは,87.4倍でしたので, 二段目のゲインは, 87.4/(11.7/2) = 14.9 倍となります.

図 25: 二段目までの入出力特性(1kHz)
\includegraphics{figs/Olson_V2a_io.ps}

周波数特性を,図26に示します. バランスコントロールのところでインピーダンスが高くなり, シールド線の容量によって高域が下がっています.

図 26: 二段目までの周波数特性(1V)
\includegraphics{figs/Olson_V2a_freq.ps}

4.3.3 位相反転段までの特性

位相反転段までの特性は,C7, C8を出力管から外し, 入力インピーダンスが 1 MΩ のバッファの入力端子に, 888 kΩ の抵抗を並列に接続したものをつないで測定しました.

入出力特性,歪率特性を,図27に示します. プレート側の歪率が高いのは,ヒーターバイアスを加えているからです. 出力段が必要とする約25Vの出力は,結構ぎりぎりで, 歪率は1%強になっています. 位相反転段までのゲインは,76.5倍でした. 位相反転段のゲインは, 76.5/87.4 = 0.88 倍となります.

図 27: 位相反転段までの入出力特性(1kHz)
\includegraphics{figs/Olson_V2b_io.ps}

周波数特性を,図28に示します. 両相の特性が,よく揃っています.

図 28: 位相反転段までの周波数特性(1V)
\includegraphics{figs/Olson_V2b_freq.ps}

4.3.4 総合特性

消費電力は240VAです.

入出力特性を,図29に示します.

図 29: 入出力特性(1kHz)
\includegraphics{figs/io.ps}

出力対歪率特性を,図30に示します. 80kHzのローパスフィルタを使用しています. 最大出力は両チャネルとも8Wで, 左チャネルの歪率は1.1%,右チャネルの歪率は1.4%程度と, 無帰還アンプとしては優秀です. また歪みの増え方も素直で,周波数によって歪率が大きく異なることはありません.

図 30: 出力対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{figs/dist.ps}

周波数特性を,図31に示します. 8W時の特性も調べましたが, 1W時とほとんど変わりませんでした. -3 dB の帯域幅は, 25 Hz 40 kHz となりました. 高域は,オリジナルよりもかなり伸びました. 左右の高域の特性の違いは, バランスコントロールに接続したシールド線の長さの違いによるものと思われます. この特性は,位相反転段までのものとほぼ同じですので, 出力段は,これより広帯域になっているようです.

図 31: 周波数特性(1W)
\includegraphics{figs/freq.ps}

クロストーク特性を,図32に示します. 5kHzまでは,残留雑音のレベルを保っています. バランスコントロールを付けてあり, その部分のインピーダンスが比較的高いので,高域で悪化するのはやむを得ません. 低域では,まったく漏れていません.

図 32: クロストーク特性(4W)
\includegraphics{figs/crosstalk.ps}

出力インピーダンス特性を,図33に示します. 出力インピーダンスは,1kHzで 5.3 Ω, ダンピングファクタは,1.5です.

図 33: 出力インピーダンス特性
\includegraphics{figs/Zo.ps}

残留雑音は,以下の通りです.

チャネル A補正なし(600kHz) A補正あり
L 0.83mV 0.11mV
R 1.45mV 0.11mV
50Hzのかなり歪んだ波形で, ヒーターから拾っているようです(図34). Rチャネルが少し悪くなっていますが, 初段の6J5を選別すれば良くなるかも知れません.

Olson_hum1.jpg

図 34: 残留雑音の波形(上:左チャネル,下:右チャネル,X:5ms/div,Y:2mV/div)
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実は,当初,55V程度のヒーターバイアスを掛けていたのですが, そうすると,1W程度の出力の時に,位相反転段のプレート側だけに, 50Hzの変調が掛かってしまいました. 使用した6SN7-GTは,SOVTEK製です.

初段の6J5を差し替えてみたところ,残留雑音が減りました. 下記の値は,最良ではないが,雑音が少ないものを用いた場合です. (上記のデータの場合と6SN7を左右入れ替えたので, 雑音の大きさが逆転しています.)

チャネル A補正なし(600kHz) A補正あり
L 1.15mV 0.08mV
R 0.76mV 0.06mV

チョークを使わないと,残留雑音が大幅に増えます.

チャネル A補正なし(600kHz) A補正あり
L 4.8mV 0.59mV
R 2.15mV 0.23mV
やはり,現代の基準では,チョークが必要なようです. チョークありとなしでは,雑音の大きさが左右で逆転します. すなわち,左チャネルは出力段の上下のバランスが悪く, 電源のリプルの影響を強く受けることがわかります. 残留雑音の波形を,図35に示します. ハムの周波数が100Hzになっており, 原因がヒーターからB電源のリプルに変わったことがわかります.

Olson_hum_nochoke.jpg

図 35: チョークを使用しない場合の残留雑音波形(上:左チャネル,下:右チャネル,X:5ms/div,Y:10mV/div)
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チョークがない場合(平滑コンデンサは 94 $ \mu$F)のB電源のリプルは, 13 Vp-p, 3.73 Vrms でした. 2段目,3段目の電源のリプルは 80 mVrms 程度です. チョークを使用する(平滑コンデンサは,チョークの前後 47 $ \mu$F ずつ)と, リプルは,チョークの前で 25 Vp-p, チョークの後ろで 0.5 Vp-p でした.

6F6のプレート電流をある程度揃えると, チョークなしの残留雑音が減ります.

チャネル A補正なし(600kHz) A補正あり
L 2.6mV 0.3mV
R 2.4mV 0.25mV
ハムの波形は,図36のように比較的なめらかな100Hzであり, 2段目および位相反転段のリプルが原因のようです.

Olson_hum3.jpg

図 36: 6F6を選別した場合の残留雑音の波形(上:左チャネル,下:右チャネル,X:5ms/div,Y:5mV/div)
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4.3.5 チョークの必要性

B電源にリプルを加えて, 各部にどのような影響があるか,シミュレーションします. 回路は,図37です.

Olson_ripple_sch.png

図 37: B電源にリプルを加える
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V2により正弦波を加え,AC解析により各部に現れる交流成分の大きさを求めます. 結果は,図38のようになります.

Olson_ripple_AC.png

図 38: 各部のリプルの大きさ
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R17とC11によるフィルタによって,100Hzのリプルは1/100になります. R18とC12を経た後には,さらに1/100になるので, U2aによる増幅が10倍程度あっても,初段のハムは無視できることになります. U2bのプレートとカソードで数dBの差があり,これが出力に現れます. 出力に現れる100Hzの成分は, -66.4 dB = 0.00048 で, リプルの実効値が3.73Vのとき,出力のハムは1.8mVとなります. 出力段が完全にバランスしていても,これだけのハムが現れます.

39は, 整流回路を含めてシミュレートしたものです.

Olson_with_PS_sch.png

図 39: 電源も含めてシミュレートする
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チョークを使用しない場合(L1とR22をショートする)の結果は, 図40のようになります.

Olson_ripple_nochoke_tran.png

図 40: チョークがない場合
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B電源のリプルは,約 16 Vp-p であり, 実機よりも大きくなっています. 実際の電灯線の波形は上下が潰れているため, 整流管の導通角が広くなるため, また平滑コンデンサの容量が公称値よりも大きいためのようです. 出力に現れるハムの実効値は,2.5mV程度となります.

チョークを使用した場合の結果は, 図41のようになります.

Olson_ripple_choke_tran.png

図 41: チョークがある場合
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B電源のリプルは,約 0.15 Vp-p となり, 出力に現れるハムの実効値は,0.026mV程度となります.

これらの結果から,出力段が完全にバランスしているなら, 1H程度のチョークを使うか, R17を分割してもう一段コンデンサを入れれば, 前段に由来するハムを十分(0.5mV以下)に減らすことができます.

是枝重治氏の作例[5]で, 「6F6を選別すると,残留雑音が0.8mVになった」とありますが, 本当にチョークなしで残留雑音が0.8mVになったとしたら, 前段のハムを打ち消すよう,出力段のバランスが崩れているか, 雑音測定の際にA補正がかけられているのでしょう.

4.3.6 ヒーターバイアス

Electro Harmonics, Sovtek, TEN, 東芝の4種類の6SN7について, ヒーターバイアスありなしの出力対歪率特性を調べました(図42).
図 42: ヒーターバイアスの有無と歪率(左上:Electro Harminics,右上:Sovtek,左下:TEN,右下:東芝)
\includegraphics{figs/heater_bias.ps}
現行品のElectro Harmonics,Sovtekは, ヒーターバイアスをかけると低出力で歪率が増加します. Electro Harmonicsは単純にハムが出ているようですが, Sovtekは複雑な挙動をしています. TENは,ヒーターバイアスの有無によって大きく歪率が変わることがありません. 東芝の場合は,ヒーターバイアスをかけたほうが雑音が低くなるようです.

4.3.7 ACバランス

位相反転段のプレート側の負荷抵抗R13の値を変えて, 2W, 7W出力時の歪率の変化を調べた結果を,図43に示します.

図 43: R13と歪率の関係
\includegraphics{figs/Olson_AC_balance.ps}
シミュレーションでは, 33 kΩ 近辺で歪率が最低になりましたが, 実機では 35 kΩ 近辺で歪率が最低となり, 原回路定数の場合の半分以下の歪みになります.

Electro Harmonics 2本, Sovtek 2本, TEN, 東芝の6種類の6SN7について, 7W時の歪率が最小になるようにR13を調節し, 出力対歪率特性をとったものが,図44です.

図 44: 真空管による歪率の違い
\includegraphics{figs/AC_balance_by_tube.ps}
それぞれのR13の値は,以下のとおりです.
真空管 R13 (Ω)
Electro Harmonics 1 34.27k
Electro Harmonics 2 34.10k
Sovtek 1 33.70k
Sovtek 2 34.75k
TEN 35.43k
東芝 35.91k
原論文にあるように,6Wで0.4%以下の歪率にすることも可能なようです. ただし,最大出力は,7W程度に下がってしまいます. 原論文でも,出力が7Wを超えると, 急激に歪率が増えるので,このような調整を行った可能性があります.

4.3.8 前段での歪みの打ち消し

今回は,浅野氏の作例にならって,初段の前にボリュームを, 初段と2段目の間にバランスを入れました. このため,測定はバランスをセンターにして, 原回路でいうとフルボリュームの状態で測定を行いましたが, 片チャネルだけならバランスを調整して, 同じ出力でも初段に加える入力の大きさを変えることができます. バランスを絞って,初段の入力を大きくすると, 初段で発生する歪みが多くなり,2段目との間で打ち消しが起こります.

このようにして出力を7Wに保ったときに最も歪みの小さくなる バランスの位置を探ると,機械的に約28%の位置でした. この時の出力対歪率特性を,図45に示します. 6W出力時の歪率は0.43%で, 原論文に近い値となっています.

図 45: 歪み打ち消しの効果
\includegraphics{figs/minTHD_dist.ps}
(バランスによる歪み打ち消しの場合のみ400Hzのローカットフィルタを 使用しています.zw)

入出力特性は図46のようになり, 電気的にはオリジナルの31%にバランスを絞ったときに歪みが最小になります. すなわち,V1の出力を15.5%にして2段目に渡したときに歪みが最小となります.

図 46: 歪み打ち消しを行った場合の入出力特性
\includegraphics{figs/minTHD_io.ps}


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平成20年3月2日