Subsections

3.1 UL接続のプレート特性

UL接続のプレート特性は,KT-88や7591などを除いては発表されていません. また,プレート特性が発表されていても, 特定のプレート電圧でなければ活用できません. この節では,発表されている多極管接続や三極管接続のプレート特性図から UL接続のプレート特性図を作成する方法を考えます.

ウルトラリニア接続(以下UL接続とします)の回路を,図3.1に示します. 出力トランスの一次巻線のうち, 電源側から $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ の位置にスクリーングリッドのタップがあるとします. $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ は,通常0.4から0.5の間から選ばれます. $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ = 0 とすれば通常の多極管接続で, $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ = 1 とすれば三極管接続になります.

図 3.1: ウルトラリニア接続
\begin{figure}\input{figs/UL_sch}
\end{figure}

このとき,スクリーングリッドには, 静止時のスクリーン電圧に加え, プレートに現れた信号の $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ 倍の電圧がかかることになります. したがって,プレート電圧 Ep とスクリーングリッドの電圧 Eg2 の関係は, 静止時のプレート電圧(電源電圧)を Ep0 とすると,

Eg2 = Ep0 + $\displaystyle \beta_{{\rm SG}}^{}$(Ep - Ep0) (3.1)
となります.

3.1.1 スクリーン電圧を変化させたプレート特性図から求める

真空管によっては,スクリーングリッド電圧をさまざまに変化させた場合の プレート特性図が発表されています. この種の特性図では,通常コントロールグリッドの電圧は 0V です. この特性図があれば,グリッド電圧が 0V のUL接続の特性を求めることができます.

3.2は,6L6-GCのプレート特性図です. スクリーングリッドの電圧は,50V から 400V まで 50V きざみになっています. 今,静止時のプレート電圧を Ep0 = 250 V , $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ = 0.43 とすると, スクリーン電圧が Eg2 = 300 V となるのは, 式(3.1)を変形して,

Ep = Ep0 + $\displaystyle {\frac{{E_{g2}-E_{p0}}}{{\beta_{\rm SG}}}}$ (3.2)
より,

Ep = 250 + $\displaystyle {\frac{{300 - 250}}{{0.43}}}$ = 366 [V] (3.3)
となります. 同様にして,プレート電圧とスクリーングリッド電圧の関係を調べると,
Ep 17.4 134 250 366 483 599
Eg2 150 200 250 300 350 400
となります.
図 3.2: スクリーングリッドをパラメータとしたプレート特性図
Image UL_6L6_1d

これらのプレート電圧のところに対応するスクリーングリッド電圧を記入し, 垂線を引きます.例では青い字と線で表しています. これらの垂線と,対応するスクリーングリッド電圧の特性曲線の交点をつないでいくと, UL接続時のプレート特性が描けます.例では赤い曲線で示しています.

3.1.2 スクリーン電圧の異なる複数のプレート特性図から求める

3.3に,スクリーングリッド電圧が250Vと400Vのプレート特性図を示します. 左側のグラフから,プレート電圧が250V (電源電圧)のときのプレート電流を読みとります. グリッド電圧が V , -20 V , -40 V のプレート電流を読みとると,

Eg (V) 0 -20 -40
Ip (mA) 188 41 1
となります. これらの点は,図のA, B, Cです. これらの点を右側のグラフに写します. 写した点はA' , B' , C' です.
図 3.3: スクリーングリッド電圧が異なるプレート特性図
Image UL_6L6_2d

前節の表より,UL接続の場合,スクリーングリッド電圧が400Vになるのは, プレート電圧が599Vの時です. 右のグラフで,このプレート電圧における 各グリッド電圧に対応したプレート電流を求めます(点D, E, F). これらを線で結ぶと,UL接続のプレート特性が求まります.

この方法では,多くの点についてのデータを取れないので, プレート特性の曲がり方がほとんどわかりません. ここでは,二つの点を単に直線で結んでいます.

3.1.3 三極管接続のプレート特性図から求める

三極管接続時は,プレートとスクリーングリッドの電圧が同じなので, さまざまなスクリーングリッド電圧の情報が入っています. 多極管では内部抵抗が高いので, スクリーングリッド電圧を一定にしてプレート電圧を変えても, プレート電流はそれほど変化しません.

3.4の点Aは, Eg = - 20 V , Ep = Eg2 = 300 V のプレート電流です. UL接続時に Eg2 = 300 V となるプレート電圧は366Vですが, この時のプレート電流はAとほとんどかわらないはずで, これは点A' で表されます. 同様にして, Ep = Eg2 = 200 V の電流(点B)を Ep = 134 V に記します(点B' ). このようにして写していった点を結ぶと赤い線となり,これがUL接続時のプレート特性です.

図 3.4: 三極管接続のプレート特性図
Image UL_6L6_3d

実際は,内部抵抗が無限大ではありませんので, 図の赤い細い線は右上がりになります. また,三極管接続時のプレート電流には, スクリーングリッドの電流も含まれていますので, それを補正(差し引く)したほうがより正しい値に近くなるでしょう.

3.1.4 UL接続時のスクリーングリッド電流

出力トランスのP-SG間にはプレートに生じた信号電流のみが流れますが, SG-B間にはプレート電流に加えスクリーングリッド電流が流れます. このような場合には,プッシュプルの出力トランスの場合と同様に, P-SG間のインピーダンスとSG-B間のインピーダンスは一定ではなくなります.

3.5の(a)にこの様子を示します. 一次側に加えられた電力は,各巻線の電圧と電流の積の和になります. 図でいうと,四角形の面積の和です. これと同じ電力が生じるようにP-B間に一定の信号電流を流すと,(b)のようになり, その電流は ip + $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ig2 となります. この状態では一次巻線に流れる電流が一定なので,SGタップを無視することができ, 通常のトランスと同じように一次インピーダンスが一定と考えることができます. すなわち,UL接続のプレート特性図で出力などを検討する場合, プレート電流に $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ig2 を加えた特性図を描き, 一次定格インピーダンスのロードラインを引けばよいことになります.

図 3.5: UL接続の出力トランスの動作
\begin{figure}\input{figs/UL_OPT}
\end{figure}

3.6に,6L6-GCの, Ep0 = 250 V , $ \beta_{{\rm SG}}^{}$ = 0.43 のプレート特性図を示します. 赤い実線はプレート電流,緑の実線はスクリーングリッド電流です. 赤い破線は,スクリーングリッド電流を加味したプレート電流です.

図 3.6: 6L6-GCのUL接続プレート特性
\includegraphics{figs/UL_6L6_4.ps}

また,三定数の一つ gm に関してですが, スクリーングリッド電圧を一定とすると, グリッド電圧を変えてもプレート電流とスクリーングリッド電流の比率は ほとんど変わらず,一定という性質があります. これより,スクリーングリッドの伝達コンダクタンス gmg2 は,

gmg2 $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{I_{g20}}}{{I_{p0}}}}$gm (3.4)
と表すことができ, これより,UL接続時の実効的な相互コンダクタンス gm(UL) は,

gm(UL) = gm + $\displaystyle \beta_{{\rm SG}}^{}$gmg2 = gm$\displaystyle \Bigl($1 + $\displaystyle \beta_{{\rm SG}}^{}$$\displaystyle {\frac{{I_{g20}}}{{I_{p0}}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (3.5)
となります.

ayumi
2016-03-07