3.3 カソード帰還の内部抵抗

三極管シングルの出力段にカソード帰還をかけた場合の回路を図3.8に示します. カソード-プレート間の巻数に対する,カソード帰還巻線の割合を $ \beta_{{\rm K}}^{}$ とします.

図 3.8: カソード帰還
\begin{figure}\input{figs/KF_sch}
\end{figure}

内部抵抗を求めるため,仮にカソード-プレート間の電圧が $ \Delta$Ep だけ上昇したと仮定します. このとき,カソード帰還巻線には $ \beta_{{\rm K}}^{}$$ \Delta$Ep の電圧が生じ, アースを基準とすると,カソードの電位は $ \beta_{{\rm K}}^{}$$ \Delta$Ep 下がります. これはグリッドに $ \beta_{{\rm K}}^{}$$ \Delta$Ep の入力が加えられたことと同じですから, プレート電流は, gm$ \beta_{{\rm K}}^{}$$ \Delta$Ep 増えます. また,真空管の内部抵抗により,グリッド電圧が変わらなくても $ \Delta$Ep/rp だけプレート電流が増えます. したがって,プレート電流の総増分 $ \Delta$Ip(KF) は,

$\displaystyle \Delta$Ip(KF) = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p}}{{r_p}}}$ + gm$\displaystyle \beta_{{\rm K}}^{}$$\displaystyle \Delta$Ep (3.17)
となり,内部抵抗 rp(KF) は,

rp(KF) = $\displaystyle {\frac{{\Delta E_p}}{{\Delta I_{p\rm (KF)}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{r_p} + g_m \beta_{\rm K}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{r_p}}{{1 + \micro \beta_{\rm K}}}}$ (3.18)
となります. この式は,次のようにも変形できます.

rp(KF) = rp//$\displaystyle {\frac{{1}}{{g_m \beta_{\rm K}}}}$ $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{1}}{{g_m \beta_{\rm K}}}}$ (3.19)

さきほどと同じ6L6-GCの例で見てみましょう. プレート特性図を図3.9に示します. 負荷インピーダンスは kΩ とし, 16 Ω の巻線でカソード帰還をかけることにします. 巻数比は $ \sqrt{{5000}}$ : $ \sqrt{{16}}$ = 17.68 ですから, $ \beta_{{\rm K}}^{}$ = 1/(17.68 + 1) = 0.05354 となります.

図 3.9: カソード帰還の内部抵抗
\includegraphics{figs/KF_6L6plate.ps}

プレート電圧の変化を $ \Delta$Ep = 10 V とすると, カソード帰還巻線に生じる電圧は, $ \beta_{{\rm K}}^{}$$ \Delta$Ep = 0.05354 x 10 = 0.5354 V で,これがグリッドに加えられます. これによるプレート電流の増分ACは, gm = 3.873 mS なので, gm$ \Delta$Eg = 3.873 x 0.5354 = 2.07 mA となり, 内部抵抗 rp(KF) は,

rp(KF) = $\displaystyle {\frac{{10}}{{0.178 + 3.873 \times 0.05354 \times 10}}}$ = 4.44 [kΩ] (3.20)
となります.

式(3.18)から求めると, rp = 56.2 kΩ , gm = 3.873 mS より, μ = 217.7 ですから,

rp(KF) = $\displaystyle {\frac{{56.2}}{{1 + 217.7 \times 0.05354}}}$ = 4.44 [kΩ] (3.21)
となり,先ほどの結果と一致します.

ここで6L6-GCの数値例を示しましたが, 多極管の場合,実際にはアースに対してカソードの電位が変動する一方, スクリーングリッドの電圧は一定なので, カソードを基準とするとスクリーングリッドの電圧が変動することになり, ごく弱いUL接続になっていることがわかります. ここでは,この影響を無視しています.

ayumi
2016-03-07