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4.3 最適負荷抵抗

4.3.1 三極管の場合

4.3.1.1 理想三極管の場合

合成プレート特性が直線であると仮定します. V1のグリッド電圧が0Vの合成特性曲線をMPとします.

図 4.14: プッシュプルの最適負荷抵抗
\begin{figure}\input{figs/pp_opt_rl}
\end{figure}

プレート電圧が Eb0 のときのプレート電流を IE0 とすると, 特性曲線は, (Eb0, IE0) (点M)を通る傾きが 1/rp の直線なので,

ib = $\displaystyle {\frac{{e_b - E_{b0}}}{{r_p}}}$ + IE0 (4.43)
と表せます.

この特性曲線と合成ロードラインの交点をAとします. このときのプレート電圧を epmin , プレート電流を ipmax とすれば, 出力 Po は,

Po = $\displaystyle {\frac{{E_{b0} - e_{p\rm min}}}{{\sqrt{2}}}}$ . $\displaystyle {\frac{{i_{p\rm max}}}{{\sqrt{2}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$(Eb0 - epmin)ipmax (4.44)
となり(四角形ANQOの面積の半分), プレート電圧の信号成分を eo = Eb0 - epmin とおけば,

Po = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$eoipmax (4.45)
となります.

epmin ipmax は特性曲線上の点なので,

ipmax = $\displaystyle {\frac{{e_{p\rm min} - E_{b0}}}{{r_p}}}$ + IE0 = - $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{r_p}}}$ + IE0 (4.46)
であるから,これを式(4.45)に代入して,
Po = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$$\displaystyle \biggl($ - $\displaystyle {\frac{{{e_o}^2}}{{r_p}}}$ + eoIE0$\displaystyle \biggr)$  
  = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 r_p}}}$(eo2 - IE0rpeo)  
  = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 r_p}}}$$\displaystyle \biggl\{$$\displaystyle \biggl($eo - $\displaystyle {\frac{{I_{E_0} r_p}}{{2}}}$$\displaystyle \biggr)^{2}_{}$ - $\displaystyle {\frac{{{I_{E_0}}^2 {r_p}^2}}{{4}}}$$\displaystyle \biggr\}$  

Po が最大になるのは, eo = IE0rp/2 のときで,

Pomax = $\displaystyle {\frac{{{I_{E_0}}^2 r_p}}{{8}}}$ (4.47)
となります. このときの合成負荷抵抗は, ipmax = - IE0/2 + IE0 = IE0/2 より,

RL$\scriptstyle \prime$ = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{i_{p\rm max}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{I_{E_0} r_p / 2}}{{I_{E_0} / 2}}}$ = rp (4.48)
となり,合成内部抵抗と等しくなります. すなわち,合成内部抵抗と等しい合成負荷のときに最大出力が得られることになります.

4.3.1.2 シミュレーション

プッシュプルの場合,一方の真空管がカットオフしても大きな歪が発生しないので, 常にグリッド電圧が0Vになるまで入力を加えることができます.

しかし,負荷抵抗を低くしていくと,プレート電流の尖頭値が大きくなり, プレート損失も大きくなります. したがって,プレート損失の定格により,負荷抵抗の最低値が制限されます.

4.15に, 2A3を Ep0 = 300 V, Eg0 = - 61 Vで動作させ, 合成負荷抵抗を変化させた場合の, 出力(Po),プレート損失(Pd),歪率を示します.

図 4.15: 三極管ppで負荷インピーダンスを変化させた場合の最大出力と歪率
\includegraphics{figs/tripp_PoK_RL.ps}
負荷抵抗を高くしていくと,歪が減っていきます. 第5次高調波は非常に小さいので, 第3次高調波に注目するだけで十分です. プレート損失が15W以下になるのは, 合成負荷が650Ω 以上の場合になります. このとき,出力は15.4W程度になります.

合成プレート抵抗は508Ω 程度で, それと同じ負荷抵抗のときに出力が最大値となりますが, プレート損失の制限により,そのような状況で動作させることはできません.

4.16に, 負荷抵抗を3kΩ とした場合の入出力特性を示します.

図 4.16: 三極管ppの入出力特性
\includegraphics{figs/tripp_PoK_IO.ps}

出力が増えるにつれ,プレート電流(Ip:水色)が増え, プレート損失(Pd:青)がわずかに増えています. 歪率(THD:緑)は,出力に比例しています.

4.3.2 多極管の場合

多極管の場合は,プレート抵抗と負荷抵抗がかけ離れた状態で動作させるため, 三極管のように最適負荷をプレート抵抗から求めることはできません. 出力を大きくするには,図4.14の点Aをできるだけ左上に 位置させる必要があるため, 多極管の場合に最大出力を得るには, 特性曲線のニーポイント(特性曲線が折れ曲がる点)を通るように ロードラインを引きます. これより負荷抵抗が高いと,グリッド電圧を0Vまで励振する前にクリップしてしまいます. 負荷抵抗が低いと,プレート電流の尖頭値が大きくならない一方で, 出力電圧の尖頭値が小さくなるため,出力が減ってしまいます.

4.17に, 6L6-GCを Ep0 = 360 V, Eg20 = 270 V, Eg0 = - 22.5 Vで動作させ, 合成負荷抵抗を変化させた場合の, 出力(Po),プレート損失(Pd),歪率を示します.

図: 6L6 AB1 級ppで負荷インピーダンスを変化させた場合の最大出力と歪率
\includegraphics{figs/beampp_PoK_RL.ps}
点線は,Eg = 0 Vとなるまで励振した場合, 実線は, Epmin = 50 Vとなるまで励振した場合です.

ニーポイントを通るロードラインの場合に,最も歪が小さくなります. ロードラインがニーポイントを外れると,急速に最大出力が下がります. 負荷抵抗を最適値より高くすると,フルスイングしたときに激しくクリップし, 歪が急増します. そのとき,スクリーングリッド損失(Pg2)が急速に増大します. 最大出力時のスクリーングリッド損失が定格を超えている場合には, スクリーン電圧を下げて設計しなおします.

負荷抵抗を6.6kΩ とした場合の特性曲線とロードラインを 図4.18に,

図: 6L6 AB1 級ppのロードライン
\includegraphics{figs/6L6ABll.ps}
入出力特性を図4.19に示します.
図: 6L6 AB1 級ppの入出力特性
\includegraphics{figs/beampp_PoK_IO.ps}

出力が増えるにつれ,プレート電流(Ip:マゼンタ)が増えますが, プレート損失(Pd:青)は減っています. スクリーングリッド電流(Ig2:黄)の増え方は, プレート電流よりも大きくなっています. プレート電圧が100Vを下回ってくると, 急速にスクリーングリッド電流が多くなるからです. 歪率(THD:緑)は,最大出力の少し手前から下がっています. ニーポイント近辺で特性曲線が曲がっているため, 縦方向に伸びていた波形の頭がわずかに潰れてくるため, 3次歪が減り,5次歪が増えているためです.

ayumi
2016-03-07