合成プレート特性が直線であると仮定します. V1のグリッド電圧が0Vの合成特性曲線をMPとします.
プレート電圧が Eb0 のときのプレート電流を IE0 とすると, 特性曲線は, (Eb0, IE0) (点M)を通る傾きが 1/rp の直線なので,
と表せます.この特性曲線と合成ロードラインの交点をAとします. このときのプレート電圧を epmin , プレート電流を ipmax とすれば, 出力 Po は,
Po = . = (Eb0 - epmin)ipmax | (4.44) |
epmin , ipmax は特性曲線上の点なので,
ipmax = + IE0 = - + IE0 | (4.46) |
Po | = | - + eoIE0 | |
= | - (eo2 - IE0rpeo) | ||
= | - eo - - |
Pomax = | (4.47) |
RL = = = rp | (4.48) |
プッシュプルの場合,一方の真空管がカットオフしても大きな歪が発生しないので, 常にグリッド電圧が0Vになるまで入力を加えることができます.
しかし,負荷抵抗を低くしていくと,プレート電流の尖頭値が大きくなり, プレート損失も大きくなります. したがって,プレート損失の定格により,負荷抵抗の最低値が制限されます.
図4.15に, 2A3を Ep0 = 300 V, Eg0 = - 61 Vで動作させ, 合成負荷抵抗を変化させた場合の, 出力(Po),プレート損失(Pd),歪率を示します.
負荷抵抗を高くしていくと,歪が減っていきます. 第5次高調波は非常に小さいので, 第3次高調波に注目するだけで十分です. プレート損失が15W以下になるのは, 合成負荷が650Ω 以上の場合になります. このとき,出力は15.4W程度になります.合成プレート抵抗は508Ω 程度で, それと同じ負荷抵抗のときに出力が最大値となりますが, プレート損失の制限により,そのような状況で動作させることはできません.
図4.16に, 負荷抵抗を3kΩ とした場合の入出力特性を示します.
出力が増えるにつれ,プレート電流(Ip:水色)が増え, プレート損失(Pd:青)がわずかに増えています. 歪率(THD:緑)は,出力に比例しています.
多極管の場合は,プレート抵抗と負荷抵抗がかけ離れた状態で動作させるため, 三極管のように最適負荷をプレート抵抗から求めることはできません. 出力を大きくするには,図4.14の点Aをできるだけ左上に 位置させる必要があるため, 多極管の場合に最大出力を得るには, 特性曲線のニーポイント(特性曲線が折れ曲がる点)を通るように ロードラインを引きます. これより負荷抵抗が高いと,グリッド電圧を0Vまで励振する前にクリップしてしまいます. 負荷抵抗が低いと,プレート電流の尖頭値が大きくならない一方で, 出力電圧の尖頭値が小さくなるため,出力が減ってしまいます.
図4.17に, 6L6-GCを Ep0 = 360 V, Eg20 = 270 V, Eg0 = - 22.5 Vで動作させ, 合成負荷抵抗を変化させた場合の, 出力(Po),プレート損失(Pd),歪率を示します.
点線は,Eg = 0 Vとなるまで励振した場合, 実線は, Epmin = 50 Vとなるまで励振した場合です.ニーポイントを通るロードラインの場合に,最も歪が小さくなります. ロードラインがニーポイントを外れると,急速に最大出力が下がります. 負荷抵抗を最適値より高くすると,フルスイングしたときに激しくクリップし, 歪が急増します. そのとき,スクリーングリッド損失(Pg2)が急速に増大します. 最大出力時のスクリーングリッド損失が定格を超えている場合には, スクリーン電圧を下げて設計しなおします.
負荷抵抗を6.6kΩ とした場合の特性曲線とロードラインを 図4.18に,
入出力特性を図4.19に示します.出力が増えるにつれ,プレート電流(Ip:マゼンタ)が増えますが, プレート損失(Pd:青)は減っています. スクリーングリッド電流(Ig2:黄)の増え方は, プレート電流よりも大きくなっています. プレート電圧が100Vを下回ってくると, 急速にスクリーングリッド電流が多くなるからです. 歪率(THD:緑)は,最大出力の少し手前から下がっています. ニーポイント近辺で特性曲線が曲がっているため, 縦方向に伸びていた波形の頭がわずかに潰れてくるため, 3次歪が減り,5次歪が増えているためです.
ayumi