シングル出力段では,周期の中でプレート電流がカットオフすると, 歪が生じてしまうので,プレート電流が常時流れるA級動作しか用いられません. プッシュプルの場合は,一方の真空管のプレート電流がカットオフしても, もう一方の真空管が動作状態にあるため,大きな歪が生じません. そのため,周期の半分未満でカットオフが生じるAB級や, 周期の半分でカットオフが生じるB級の動作も用いることができます.
周期の半分以上でカットオフが生じるC級動作は, 出力にタンク回路がある無線用途では使用できますが, オーディオ用途では激しい歪が生じるため,使用できません.
プレート電圧 | 250 V |
グリッド電圧 | -45 V |
無信号時プレート電流 | 60 mA |
負荷抵抗 | 2500 Ω |
出力 | 3.5 W |
シングルの場合のロードラインは,線分EFです. シングルの最大出力は,
Po = = = 3.52 [W] | (4.38) |
プッシュプルの場合の最大出力は, トランスのP-P間に現れる電圧の実効値が
(Ebb - Ep min) x 2 x = (250 - 111.9) x 2 x = 195.3 [V] | (4.39) |
Po = = 7.63 [W] | (4.40) |
シングルとプッシュプルの出力電圧を比べてみると, プレート電圧の最小値がシングルとプッシュプルでほとんど違わないのに対し, プレート電圧の最大値はプッシュプルのほうが高くなっています. このため,2倍以上の出力が得られますが, シングルでも負帰還をかければ出力波形が対称に近くなるので, 差は小さくなります.
シングルの動作点のままプッシュプルを構成すると, 一方の球が Eg = 0 となるまで振っても, もう一方の球はカットオフしません. この例の場合,点Cが示すように 23.5 mA 流れています. 合成プレート電流はこの分だけ差し引かれてしまい, その分出力が減ってしまいます.
シングルとプッシュプルでは,ロードラインの形状が異なり, シングルと比べてプッシュプルのほうがカットオフしにくくなります. したがって,同じ負荷インピーダンスでバイアスを深くしても, ほぼ同一出力を保ったまま,無信号時のプレート損失を減らすことができます. 図4.9に, Eg0 = - 46 V とした場合の 合成プレート特性図とロードラインを示します.
この場合,点Cの電流は 15.1 mA に減っています. 無信号時のプレート損失は,14.4 W から 12.1 W に減ります. 最大出力は7.98Wです. 離散化した信号による最大出力は,7.81Wでした.また,同じ動作点のままで,負荷インピーダンスを下げて, よりカットオフに近付けることもできます. 図4.10に, Zpp = 3 kΩ とした場合の 合成プレート特性図とロードラインを示します.
最大出力は9.47Wです. 離散化した信号による最大出力は,9.26Wでした.
RCAのマニュアルによれば,動作条件は以下のとおりです.
プレート電圧 | 300 V |
グリッド電圧 | -62 V |
無信号時プレート電流(1球あたり) | 40 mA |
負荷抵抗(プレート-プレート間) | 3000 Ω |
歪率 | 2.5% |
出力 | 15 W |
フルスイング時(Eg1 = 0 )には,一方の真空管はカットオフしていますので, 合成プレート電流の最大値は Ip max = Ip1 = 203.7 mA になります. この点は,通常の1本分のプレート特性図の Eg = 0 の曲線と, 合成ロードラインの交点であり, 合成特性曲線を求める必要がありません. すなわち,AB級,B級の場合,最大出力を求めるだけであれば, 合成特性曲線は不要です. しかし,歪率等の解析をするには,合成特性曲線を求め, 伝達特性を正確に求める必要があります. AB級の伝達特性を図4.12に示します.
また,動作点Aにおける各球の負荷インピーダンスは,やはり公称インピーダンスの半分になっています.
最大出力は, トランスのP-P間に現れる電圧の実効値が
(Ebb - Ep min) x 2 x = (300 - 147.2) x 2 x = 216.1 [V] | (4.41) |
Po = = 15.6 [W] | (4.42) |
このときのプレート電圧,プレート電流,プレート損失の波形は, 図4.13のようになります.
ayumi