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2 イコライザー

長氏は,最近3例のNF型イコライザーを発表している. 「真空管アンプ製作自由自在」に6267-12AU7によるもの[2, p. 28]と, 12AX7-1/2 12AU7によるもの[2, p. 39]の2例, MJ 2002年6月号のプリメインアンプの12AX7-1/2 12AU7によるもの[4]がある. ロシア製の6267の評判がよくないので,入手性にすぐれた12AX7を使うことにする. 12AX7はギターアンプには必須のデバイスなので,今後も十分な供給が見込めるだろう.

図 1: イコライザー回路図
\begin{figure}\input{schematic_eq}
\end{figure}
1にイコライザーの回路図を示す. 図中の電圧は,L ch. のもので, R ch. は丸カッコで, SPICEによるシミュレーションのものは,角カッコで囲んである. C5は 2200 pF と 330 pF の並列とし, R9には入手可能な値として 1.6 MΩ を選んだ. その他の定数は,一般に入手可能な値としている. C1はデカップリングコンデンサの容量不足で超低域が不安定にならないように, 小さ目の値を選んでいる. Marantz 7などは,さらに小さな 0.015 μF を使用している.

ゲインの目標を 36 dB (63倍)とするため, V1aのカソード抵抗R2を低くし, 低域のNFBが不足しないよう裸ゲインを稼ぐため, R6を高めの 180 kΩ としているが, イコライザー素子のインピーダンスが低いため, 思ったような効果が得られないかも知れない.

図 2: イコライザー初段のロードライン
\includegraphics{eq1_ll.ps}
初段の動作点は, Ep0 = 113 V, Eg0 = - 1.11 V, Ip0 = 0.49 mA で, 三定数は, μ = 97, rp = 81 kΩ, gm = 1200 μS であるから, ゲイン A1 は,

A1 = 97$\displaystyle {\frac{{150}}{{81 + (1+97) \times 2 + 150}}}$ $\displaystyle \approx$ 34 (1)
となる. 図2にイコライザー初段のロードラインを示す.

2段目の動作点は, Ep0 = 113 V, Eg0 = - 1.07 V, Ip0 = 0.54 mA で, 三定数は, μ = 97, rp = 78 kΩ, gm = 1240 μS であり, kHz における交流負荷抵抗は(算出過程を省略するが) 73 - 41j kΩ であるので, ゲイン A2 は,

A2 = 97$\displaystyle {\frac{{73-41j}}{{78 + 73-41j}}}$ $\displaystyle \approx$ 50.3 - 12.7j (2)
となる. 図3にイコライザー2段目のロードラインを示す. 実際の交流負荷は容量性を含むので,ロードラインは楕円になる.

これより,オープンゲイン A

A = A1A2 = 34 . (50.3 - 12.7j) $\displaystyle \approx$ 1710 - 432j (3)
kHz における帰還率 $ \beta$ は,

$\displaystyle \beta$ = $\displaystyle {\frac{{2}}{{2 + 84.3-101j}}}$ = 0.00978 + 0.01145j (4)
より,クローズドループゲイン Af は,

Af = $\displaystyle \biggl\vert$$\displaystyle {\frac{{A}}{{1 + A \beta}}}$$\displaystyle \biggr\vert$ = | 42.9 - 48.1j| = 64.4 (5)
となる.
図 3: イコライザー2段目のロードライン
\includegraphics{eq2_ll.ps}

カソードフォロワ段の動作点は, Ep0 = 104.1 V, Eg0 = - 4.26 V, Ip0 = 2.51 mA で, 三定数は, μ = 16.7, rp = 12.5 kΩ, gm = 1340 μS であり, イコライザーの負荷抵抗を 47 kΩ とすると, 交流負荷抵抗は 22.4 kΩ であるので, ゲイン A は,

A = 16.7$\displaystyle {\frac{{22.4}}{{(1 + 16.7) 22.4 + 12.5}}}$ = 0.915 (6)
出力インピーダンスは,

Zo = $\displaystyle {\frac{{12.5}}{{1+16.7}}}$//47//470 = 0.695 [kΩ] (7)
となる. 図4にカソードフォロワのロードラインを示す.
図 4: カソードフォロワのロードライン
\includegraphics{eq3_ll.ps}

5はシミュレーションによるイコライザーの周波数特性であり, 図6はRIAA偏差である. ゲインは, RL = 47 kΩ 時に58.4倍(35.3 dB), RL = 10 kΩ 時に55.4倍(34.9 dB)で, 目標の 36 dB をわずかであるが下回った. C3に 2.2 μF という大きな値を使用したことにより, 10 kΩ という重い負荷を与えても, 20 Hz で -0.5 dB の偏差に収まることが期待される.

図 5: イコライザーの周波数特性(シミュレーション)
\includegraphics[scale=0.75]{sim_eq_f.ps}
図 6: イコライザーのRIAA偏差(シミュレーション)
\includegraphics[scale=0.75]{sim_eq_diff.ps}

7は,デカップリングコンデンサから電源を供給した場合の RIAA偏差である. 超低域の電源インピーダンスが高くなったことにより位相が進み, 正帰還がかかりはじめていることがわかる. これ以上C1を増やすと,超低域にピークを生じてしまう.

図 7: イコライザーのRIAA偏差(シミュレーション,デカップリングあり)
\includegraphics[scale=0.75]{sim_eqd_diff.ps}


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Ayumi Nakabayashi
平成19年7月7日