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5 SRPPのゲインと出力インピーダンス

SRPPの上側の真空管の動作がわかったので, 下側の真空管V1と組み合わせた動作を考えましょう.

電源電圧 Ebb からB-A間の電圧を引いたものが, 下側のプレート電圧になります.

これをグラフで表すには, 図7などのグラフの緑色の線を, 左右をひっくり返して, 原点を電源電圧のところに持っていきます.

例として,V2とV1の動作点を同じとすると, V1の静止時のプレート電圧が 150.3 V でしたので, 電源電圧は, 150.3 x 2 + 6 = 306.6 V になります. V1を自己バイアスにすると,さらに 6 V 加算する必要があります.

負荷抵抗が RL = 47 kΩ の場合のグラフは, 図11のようになります. V1のロードラインは,水色の曲線になります.

図 11: V1のロードライン
\includegraphics{figs/srpp_l1.ps}
図では, Eg0 = - 6 V のバイアスに対して,$ \pm$6V の入力を加えた場合の プレート電圧,プレート電流等を示しています.
場所 ei = - 6 V (B) ei = 0 V (O) ei = + 6 V (A)
V1プレート(対アース) 215.8 V 150.3 V 65.0 V
V2カソード(対アース) 218.7 V 156.3 V 75.3 V
V2グリッド電圧 -2.9 V -6 V -10.3 V
V2プレート電圧 87.9 V 150.3 V 231.3 V
V1プレート電流 1.89 mA 4.00 mA 6.84 mA
V2プレート電流 3.22 mA 4.00 mA 5.12 mA
出力電圧 62.4 V V -81.0 V
出力電流 1.33 mA mA -1.72 mA

5.1 V1のプレートまでのゲインを求める

V1のロードラインは,ほぼ直線で,その(交流)抵抗値は,式(22)より,

Rl = (rp2//RL)(1 + gm2Rk2) + Rk2 (27)
です. したがって,図12の回路と見なすことができます.
図 12: V1のプレートまでのゲインを求める回路
\begin{figure}\input{figs/srpp4}
\end{figure}
V1のプレートまでのゲイン AP を求めるには, 通常のカソード接地増幅回路のゲインを求める式の プレート負荷抵抗として Rl を使えばよく,

AP = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_l}}{{r_{p1} + R_l}}}$ (28)
となります.rp1 は,V1の内部抵抗です.

5.2 V2のカソードまでのゲインを求める

V2のカソードから出力を取り出した場合は, 図13の回路と見なすことができます.
図 13: V2のカソードまでのゲインを求める回路
\begin{figure}\input{figs/srpp5}
\end{figure}
図のように, Rl' = Rl - Rk2 とおけば, この回路のゲインは,プレートまでのゲイン APRk2Rl' で分圧したものになります. したがってSRPPのゲイン A は,
A = AP$\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{R_{k2}+R_l'}}}$  
  = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_l}}{{r_{p1} + R_l}}}$ . $\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{R_l}}}$  
  = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{r_{p1}+R_l}}}$  
  = - μ1$\displaystyle {\frac{{(r_{p2}//R_L)(1+g_{m2}R_{k2})}}{{r_{p1}+(r_{p2}//R_L)(1+g_{m2}R_{k2})+R_{k2}}}}$  
  = - μ1$\displaystyle {\frac{{r_{p2}//R_L}}{{\frac{r_{p1}+R_{k2}}{1+g_{m2}R_{k2}}+r_{p2}//R_L}}}$ (29)

ここで, RL' = rp2//RL, rp' = (rp1 + Rk2)/(1 + gm2Rk2) とおけば,

A = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_L'}}{{r_p'+R_L'}}}$ (30)
となり,カソード接地のゲインの式と同じ形になります.

5.3 数値例

動作点 Ep0 = 150.3 V, Ip0 = 4 mA における三定数は, μ = 16.53, rp = 10.81 kΩ, gm = 1.53 mS です. これを式(30)に代入すると,
RL' = rp2//RL = 10.81//47 = 8.79 [kΩ]  
rp' = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}+R_{k2}}}{{1+g_{m2}R_{k2}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{10.81+1.5}}{{1+1.53\times1.5}}}$ = 3.74 [kΩ]  
A = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_L'}}{{r_p'+R_L'}}}$ = - 16.53$\displaystyle {\frac{{8.79}}{{3.74+8.79}}}$ = - 11.60 (31)

となります.

グラフからゲインを求めると,

A = $\displaystyle {\frac{{75.3-218.7}}{{0-(-12)}}}$ = - 11.95 (32)
となります. グラフから求めたものは,大振幅のゲインなので,式(30)で求めたものとは異なります.

5.4 出力インピーダンスを求める

SRPPのゲインを求める式(30)の意味するところは, 入力電圧を - μ1 倍したものを,rp' と RL' で分圧したものが出力である,ということです. これを回路図で表すと,図14のようになります.
図 14: SRPPの等価回路
\begin{figure}\input{figs/srpp6}
\end{figure}

SRPP回路の出力インピーダンス Zo は,図14のA-B間のインピーダンスですから,

Zo = rp'//RL' = rp'//rp2//RL

となります.ただし,通常出力インピーダンスというときには,回路が成立するために必要ではない外部に接続された負荷を含めませんので, RL$ \to$$ \infty$ として,

Zo = rp'//rp2 (33)
となります.

出力をV2のカソードではなく,V1のプレートからとった場合の出力インピーダンスは, 式(28)より,

Zo = rp1//Rl (34)
Rl = rp2(1 + gm2Rk2) + Rk2  

となります.

5.5 各部の信号電圧,信号電流

よく,SRPPはプッシュプルの動作をしているのか? という問題が取り上げられます. この問題を検討するには,より詳しく各部の電圧,電流の関係を調べる必要があります.

V1のグリッドに +1 V の入力を加えた場合を考えます.

図 15: V1に1Vを加えた場合
\includegraphics{figs/srpp_l2.ps}
このときグリッド電圧は Eg = Eg0 +1 = - 6 + 1 = - 5 V となり, 動作点はOから,V1のロードライン(水色の線)と Eg = - 5 V の交点Aに移動します. このときのV1のプレート電流の変化 i1 はCAで表され,
rp1 = $\displaystyle {\frac{{\rm BC}}{{\rm CA}}}$  
Rl = $\displaystyle {\frac{{\rm CO}}{{\rm CA}}}$  
μ1 = BC + CO  

より,

CA = i1 = $\displaystyle {\frac{{\micro_1}}{{r_{p1}+R_l}}}$ (35)
となります.

このとき,V2のグリッドには eg2 = - i1Rk2 の(負の)信号が加えられ, V2の動作点はOからQに移動し, V2のプレート電流の変化(i2)と負荷から吸い出した電流(io)を加えたものが, V1のプレート電流の変化と等しくなります. V2のカソードは,点O'からA'に移動し,出力電圧は eo (O'C')になります. これはまた,V2のプレート電圧の変化(向きは逆)でもあり,直線TSの長さと等しいです. O'C'から eo を求めると,

eo = - i1Rl' = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{r_{p1}+R_l}}}$ (36)
です. 出力電流 io は,

io = $\displaystyle {\frac{{-e_o}}{{R_L}}}$ = i1$\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{R_L}}}$ (37)
となり, V2の電流 i2 は,

i2 = i1 - io = i1 - i1$\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{R_L}}}$ = i1(1 - $\displaystyle {\frac{{R_l'}}{{R_L}}}$) = i1$\displaystyle {\frac{{R_L - R_l'}}{{R_L}}}$ (38)
となります. ここから逆算してV2のロードラインの抵抗値 Ru を求めると,
Ru = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{i_2}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{i_1 R_l' R_L}}{{i_1 (R_L - R_l')}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{R_l'R_L}}{{R_l'-R_L}}}$ (39)
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{R_L}-\frac{1}{R_l'}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{R_L}-\frac{1}{(r_{p2}//R_L)(1+g_{m2}R_{k2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{R_L}-\frac{r_{p2}+R_L}{r_{p2}R_L}\cdot\frac{1}{1+g_{m2}R_{k2}}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{R_L}-\frac{1}{r_{p2}}-\frac{1}{R_L}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1+g_{m2}R_{k2}}}{{\frac{g_{m2}R_{k2}}{R_L}-\frac{1}{r_{p2}}}}}$ (40)

となり,式(21)の結果と一致します. ここでは,V1, V2の電流を導きましたが, これらは入力 ei = 1 V あたりの電流ですので, 正確には電流ではなくコンダクタンスです.

5.6 プッシュプルとなる条件

さて,プッシュプルとなる条件としては,
  1. 各球の入力電圧が等しい
  2. 各球の出力電流が等しい
などが考えられますが,ここでは,2の出力電流が等しくなる条件を調べます. 式(38)より,
-1 = $\displaystyle {\frac{{R_L - R_l'}}{{R_L}}}$  
2RL = Rl'  
  = (rp2//RL)(1 + gm2Rk2)  
$\displaystyle {\frac{{2R_L}}{{r_{p2}//R_L}}}$ = 1 + gm2Rk2  
$\displaystyle {\frac{{2R_L(r_{p2}+R_L)}}{{r_{p2}R_L}}}$ = 1 + gm2Rk2  
2rp2 +2RL = (1 + gm2Rk2)rp2  
2rp2 +2RL = rp2 + μ2Rk2  
2RL = μ2Rk2 - rp2  
RL = $\displaystyle {\frac{{\micro_2R_{k2}-r_{p2}}}{{2}}}$ (41)

これまでと同様の動作点でこの状況を示すと, RL = 6993 Ω となり,図16のようになります.

図 16: プシュプル動作
\includegraphics{figs/srpp_l3.ps}

このときのV2の入力電圧 eg2 は,

eg2 = - μ1$\displaystyle {\frac{{R_{k2}}}{{r_{p1}+R_l}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+(r_{p2}//R_L)(1+g_{m2}R_{k2})+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{\frac{1}{r_{p2}}+\frac{1}{R_L}}+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{\frac{1}{r_{p2}}+\frac{2}{\micro_2R_{k2}-r_{p2}}}+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+\frac{1+g_{m2}R_{k2}}{\frac{\micro_2R_{k2}-r_{p2}+2r_{p2}}{r_{p2}(\micro_2R_{k2}-r_{p2})}}+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+\frac{r_{p2}+\micro_2R_{k2}}{\frac{\micro_2R_{k2}+r_{p2}}{\micro_2R_{k2}-r_{p2}}}+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}+\micro_2R_{k2}-r_{p2}+R_{k2}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{-\micro_1 R_{k2}}}{{r_{p1}-r_{p2}+(\micro_2+1)R_{k2}}}}$  

V1, V2の動作点を同じ場合には, μ1 = μ2 = μ, rp1 = rp2 = rp とおけ,

eg2 = - $\displaystyle {\frac{{\micro R_{k2}}}{{(\micro +1)}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\micro}}{{\micro+1}}}$ (42)
となります.μ が大きいときは, eg1 $ \approx$ | eg2| とみなせます.

5.7 負荷を変えた場合の各部の電流,電圧

RL を変えた時の,入力 1 V あたりの i1, i2, eg2 の大きさをグラフに描くと,図17のようになります.
図 17: 負荷を変えた場合の各部の電流,電圧
\includegraphics{figs/srpp_ac_RL.ps}

RL = μ2Rk2 の場合,V2には信号電流が流れなくなります(i2 = 0).

i1 = - i2 となったときに,V1とV2には逆相の電流が流れることになり, プッシュプル動作をしているといえます. わかりやすいように,グラフでは - i2 を点線で示してあります. i1 の赤い線と - i2 の青い点線の交点がプッシュプル動作をしている点で, RL = (μ2Rk2 - rp2)/2 のときです.

このとき,V2の入力電圧 | eg2| はV1の入力電圧(1 V)をわずかに下回っています.

次に,V1とV2の負荷の大きさをグラフで示してみました(図18).

図 18: 負荷を変えた場合の各球の負荷
\includegraphics{figs/srpp_RL1.ps}

V1の交流的な負荷 Rl は,負荷 RL が低くなると, RL の45度線よりも大きくなります. 通常のカソード接地回路では,交流的な負荷は Rp//RL なので, 必ず RL より小さくなります(Rp はプレート負荷抵抗). これにより,SRPPでは重い負荷に対するゲインの低下が小さくなります. RL が大きくなると,Rl rp2 + (μ2 +1)Rk2 に近づいていきます.

V2の交流的な負荷 Ru は,RL が大きいうちは正で, RL が小さくなると負になります. グラフでは,負の値を青い点線で示しています. プッシュプル動作をしているときは,Rl' = Ru となります.


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平成16年5月14日