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出力段

ウィリアムソン・アンプの出力段の回路は, 現在工事中,ラジオ技術などを参照してください.

特徴としては,出力トランスのインダクタンスの低下を防ぐための,精密なDCバランス回路を備えている, そのため,無信号時のグリッドの電位はプラスとなっている, 自己バイアス抵抗がバイパスされていない,などがあります.

ロードラインの求め方

カソード抵抗が高抵抗(理想的には定電流源)であれば, 信号は2本の出力管に対称に流れ,各球の負荷インピーダンスは Zpp/2 となります. しかし,ウィリアムソン・アンプの場合は, Rk $ \approx$ 300 Ω のため, とても高抵抗とは言えず,対称の動作をするわけではありません. 通常のプッシュプルと同様に,各球の負荷が一定ではありません.

これまで,通常のプッシュプル出力段と差動出力段のロードラインを求めるプログラムをRで作成してきましたが, これらの関数ではウィリアムソン・アンプの出力段をうまく扱えません.

通常のプッシュプルと比べて,注意すべき点は以下のようになります. カソードの電位が入力信号によって変動するので, 正味のグリッド電圧の変化が2本の球で対称ではなくなります. したがって,通常のプッシュプルとは異なり,合成プレート特性が一意に定まりません. そこで,仮にカソードの電位が Ek になったと仮定し, 所定の入力を加えた合成プレート特性を作成し, それと Zpp/4 の合成ロードラインとの交点を求め, プレート電圧とプレート電流を確定させます. プレート電流(とグリッド電流)から2管のカソード電流(Ik)がわかりますから, EkIkRk を比較し,両者の差がなくなる Ek を求めます.

ウィリアムソン・アンプのロードライン

Williamson氏が作成した出力トランスの一次巻線抵抗は 250 Ω です. 電源電圧は 450 V で,プレート電流は1管あたり 62.5 mA ですから, 0.0625 x 125 = 7.8125 V の電圧降下があり, 有効なB電源供給電圧は 450 - 7.8125 = 442.1875 V になります. このとき,DCバランス調整用の可変抵抗分(25 Ω)を除いたカソード抵抗値は 302.5786 Ω で, これによるグリッドバイアスは Eg0 = - 0.125 x 302.5786 = - 37.8223 V となります. また,グリッドの電位は, Ec = 0.125 x 25 = 3.125 V となります.

Williamson氏のオリジナル回路では,カソード抵抗は,R17 R18 の並列で 50 Ω,100 Ω の可変抵抗,150 Ω の固定抵抗で構成されていますから, 可変範囲は 200 Ω から 300 Ω で,上で求めた値は調整範囲外です. Williamson氏が使用したKT-66は,エミッションが少し低かったのでしょうか? 固定抵抗を 200 Ω に増やしたほうがよさそうです.

ここで,前節で説明した方法でロードラインが引けるかどうか,試してみましょう.

入力信号として ei = 20 V を加えた状態のプレート電圧,プレート電流を求めてみます. カソードの電位を 41 V と仮定すると,プレート電圧を除く各電極の電位の関係は, 図1のようになります. プレートの電位は,図のB+を中心として,V1とV2で対称の値をとります. したがって, ep1 + ep2 = 2 x (442.1875 - 41) という関係が成り立ちます.

図 1: ウィリアムソン出力段の電圧(カソードの電位を41Vと仮定した場合,入力20V)
\begin{figure}\input{will_pot}
\end{figure}

この関係が成り立つように,プレート特性図を Ep = 401.1875 V のところで対称に貼り合わせます(図2). 入力を加えた状態の各球のグリッド電圧は,それぞれ eg1 = - 17.875 V, eg2 = - 57.875 V ですから,その特性曲線を描くと,それぞれ曲線A-A', B-B'となります. したがって,合成プレート特性曲線はC-C'となります. プレート特性曲線は,カソードを起点としたプレート電圧に対して描かれており, 対アース基準にするため,41 V 右方向に移動したものが茶色の曲線です. この曲線と合成ロードライン(Zpp/4)との交点Dが,この入力に対するプレート電圧(対アース)と合成プレート電流です. 対カソードのプレート電圧は,41 V を引いた点Eで, 各球のプレート電圧とプレート電流は,それぞれ点Fと点Gになります.

図 2: ウィリアムソン出力段のロードラインの引き方(カソードの電位 41V)
\includegraphics[]{will_ll_try1.ps}

ここで総プレート電流を求めてみると,

ip = 91.5 + 43.3 = 134.8 [mA]

となりますが,これが総カソード抵抗 Rk = 327.5786 を流れると,

0.1348 x 327.5786 = 44.1576 [V]

の電圧が生じてしまい,最初に仮定した 41 V とは異なってしまいます.

この食い違いがなくなるまで,カソードの電位を変えてみます. この場合,カソードの電位が 41.63684 V であれば,各部の電圧が矛盾なく定まります(図3).

図 3: ウィリアムソン出力段のロードラインの引き方(カソードの電位 41.63684V)
\includegraphics[]{will_ll_try2.ps}

このようにして,オリジナルの定数で求めたロードラインは, 図4のようになります1

図 4: ウィリアムソン・アンプ出力段のロードライン
\includegraphics[]{will_ll.ps}

信号は,波高値で 41.0569 V まで加えられます. ロードラインは直線に近いですが,わずかに湾曲しています. 湾曲のしかたは,差動出力段とは逆で,通常のプッシュプルと同じものです. 注目すべきは,プレート特性の湾曲部を使っていないことで, 出力は減りますが,歪率がかなり低くなっていることが予想されます.

伝達特性は,図5のようになります. ご覧のように,ほぼ直線となっています.

図 5: ウィリアムソン・アンプ出力段の伝達特性
\includegraphics[]{will_trans.ps}

プレート電流の波形は,図6のようになります.

図 6: ウィリアムソン・アンプ出力段のプレート電流波形
\includegraphics[]{will_ip.ps}

出力は 12.05 W で,歪率は 0.123% です.

差動出力段にすると

比較のため,差動出力段のロードラインを図7に示します.

図 7: 差動出力段のロードライン
\includegraphics[]{diff_ll.ps}

信号は,波高値で 42.34496 V まで加えられます.

伝達特性は,図8のようになります. ご覧のように,ほぼ直線となっています.

図 8: 差動出力段の伝達特性
\includegraphics[]{diff_trans.ps}

プレート電流の波形は,図9のようになります. 当然ですが,総プレート電流が一定となります.

図 9: 差動出力段のプレート電流波形
\includegraphics[]{diff_ip.ps}

出力は 12.50 W で,歪率は 0.400% です.

通常のプッシュプルにすると

Zpp = 10 kΩ のまま通常のプッシュプルにした場合のロードラインを図10に示します.

図 10: プッシュプル出力段のロードライン
\includegraphics[]{pp_ll.ps}

ロードラインはかなり湾曲し, 入力が負のピークとなっても無駄な電流が流れているため, 出力がかなり低くなります.

伝達特性は,図11のようになります. S字形に曲がっているのがわかります.

図 11: プッシュプル出力段の伝達特性
\includegraphics[]{pp_trans.ps}

プレート電流の波形は,図12のようになります.

図 12: プッシュプル出力段のプレート電流波形
\includegraphics[]{pp_ip.ps}

出力は 10.86 W で,歪率は 1.185% です.


これらの結果からわかるように,ウィリアムソン・アンプは,完全な差動出力段ではありませんが,歪みを差動出力段以上に低く押さえることができています. ただし,差動と異なり,総プレート電流はある程度変動してしまいます.

また,オリジナルの定数のままカソードバイパスコンデンサを加えても, ノンクリップ出力が下がってしまいます. パスコンを入れる場合は,無信号時のプレート電流を絞るか, 低い負荷を与えるかして,AB級に近い動作にすべきでしょう.


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Ayumi Nakabayashi
平成15年10月25日