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2 AC 100V版

回路は,ぺるけさんの原回路(http://www2.famille.ne.jp/˜teddy/pre/pre6.htm)と全く同じです(図16).

AC100V_sch.png

図 16: AC 100V版の回路図
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出力コンデンサは940$ \mu$F,電源のコンデンサは2000$ \mu$Fです. FETは, ドレイン電流が1.2mAのときのゲート電圧が近いものをペアにして使いました. この場合,ソース側にバランス調整用の半固定抵抗を使わずとも, ドレイン電圧の差が0.5V以内に収まりました. 写真では半固定抵抗が付いていますが,基板裏側でショートしてあります.

ケースはタカチのHEN110420にしました. 電源トランスは,ノグチトランスのPM18X02を使いました. トランスと増幅部の距離が取れないので, 念のためにショートリングを付けました.

電源部はユニバーサル基板に組みましたが, 横着をしてサイズを切りつめなかったため, ピンジャックと干渉して取付が困難となり, 3本のネジで固定しています. 写真では電源部のパワートランジスタに放熱器が付いていませんが, 動作時にかなり熱くなるため,小型の放熱器を取り付けました.

HPA_AC100V_outer.jpg

図 17: AC 100V版の外観
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HPA_AC100V_inner.jpg

図 18: AC 100V版の内部
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2.1 シミュレーション

負荷を開放したときの, 無帰還とゲインを9dBに調整した場合の周波数特性を 図19に示します.

AC100V_sim_ac_1.png

図 19: 帰還ありとなしの周波数特性(シミュレーション)
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無帰還時のゲインは,25.9dB (19.7倍)です.

負荷抵抗を変化させた場合の周波数特性を 図20に示します.

AC100V_sim_ac_2.png

図 20: 負荷抵抗を変化させた場合の周波数特性(シミュレーション)
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RL = 15 Ωの低域のカットオフ周波数は,2Hz程度です.

68Ωの負荷に1V出力時の波形を図21に示します.

AC100V_sim_tran.png

図 21: 1V出力時の波形(シミュレーション)
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歪率は,0.0306%です.

出力インピーダンスの特性を図22に示します.

AC100V_sim_Zo.png

図 22: 出力インピーダンス特性(シミュレーション)
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中域の出力インピーダンスは,0.84Ωです.

2.2 特性

負荷開放時のゲインを9dB (2.83倍)に調整した時の特性です. 消費電流は,発光ダイオードの電流を除いて91mAでした.

負荷開放時の出力電圧対歪率特性を図23に示します.

図 23: 負荷開放時の出力電圧対歪率特性(左:左チャネル,右:右チャネル)
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/dist_RLinf.ps}
無帰還時の特性は,後述のマイナス電源の改造後のものです.

負荷抵抗の違いによる出力電圧対歪率特性を図24に示します.

図 24: 負荷抵抗を変化させた場合の出力電圧対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/vo_dist_RL.ps}
この回路の場合,アイドル電流が実測で約31mAですから, 実効値で22mAまでA級動作します. その時の出力電圧は,
負荷(Ω) 15 22 33 47 68
出力電圧(V) 0.329 0.482 0.723 1.03 1.49
となりますが, AB級に移行しても歪率特性に顕著な違いは見られません.

負荷抵抗の違いによる出力電力対歪率特性を図25に示します.

図 25: 負荷抵抗を変化させた場合の出力電力対歪率特性
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/po_dist_RL.ps}

負荷抵抗の違いによる周波数特性を図26に示します.

図 26: 負荷抵抗を変化させた場合の周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/freq_RL.ps}
無帰還時のゲインは20.2倍(26.1dB)で,負帰還量は17.1dBです.

出力インピーダンスの周波数特性を図27に示します.

図 27: 出力インピーダンスの周波数特性
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/Zo.ps}
中域における出力インピーダンスは,約0.8Ωです.

1V出力時のクロストーク特性を図28に示します.

図 28: クロストーク特性
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/crosstalk.ps}
低域は測定限界以下であり,高域も問題ありません.

残留雑音は,以下の通りです.

チャネル 600kHz 80kHz 30kHz A特性
L 27.5$ \mu$V 13.0$ \mu$V 10.2$ \mu$V 4.2$ \mu$V
R 26.6$ \mu$V 10.6$ \mu$V 6.8$ \mu$V 4.0$ \mu$V

68Ωを負荷にしたときの方形波応答を, 図29に示します.

AC_RL68.jpg

図 29: 方形波応答(左 10kHz,右 100kHz)
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オーバーシュートもなく,素直な波形です.

2.3 改造

本機では,2V以下の出力で歪みが急増しています. ぺるけさんの作例では,2V程度まで低歪みで出力できるようです. この歪みがどこで発生しているのか,シミュレータで調べてみました.

歪みは差動段で発生しています. 負帰還が入力の逆側に掛かっているので, 負帰還の量が多いと,大きな同相入力が加わり, 定電流回路が正しく動作しなくなります. Q3のエミッタは,Q4の VBE (約0.62V)だけマイナス電源より高く, それにQ3の飽和電圧(約0.2V)を加えた0.8Vが, 回路が正常に働くのに必要な電圧になります. 私がマイナス電源用に使用したダイオード1N4007 2本では, マイナス電圧が約-1.28Vであり, 初段のFETのバイアスが-0.26Vなので, 同相入力範囲は 1.28 + 0.26 - 0.8 = 0.74Vが限界となります. したがって,入力電圧が 0.74/$ \sqrt{{2}}$ = 0.52Vを超えると 歪みが発生します.

差動段の出力側,および出力段にはまだ余裕がありますから, マイナス電源を高くすれば,この問題を回避できます. ダイオード1本あたりの電圧を高くするため, 小信号用のダイオード1N4148に変更し,4本直列で使用しました.

改造後の負荷抵抗の違いによる出力電圧対歪率特性を図30に示します.

図 30: 負荷抵抗を変化させた場合の出力電圧対歪率特性(改造後)
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/mod_vo_dist_RL.ps}
負荷開放では3Vを超える出力が得られています.

改造後の負荷抵抗の違いによる出力電力対歪率特性を図31に示します.

図 31: 負荷抵抗を変化させた場合の出力電力対歪率特性(改造後)
\includegraphics[scale=0.8]{AC100V/mod_po_dist_RL.ps}
すべての負荷抵抗において,100mWの出力が1%以下の歪みで得られています.
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Ayumi Nakabayashi
平成25年12月30日