このアンプは, ぺるけさんの掲示板(http://6403.teacup.com/teddy/bbs)で発言された, mk701さんの製作を代行したものです. mk701さんとのやりとりについては, mk701さんのヘッドホンアンプ製作記をご覧ください.
回路は,ぺるけさんの原回路(http://www2.famille.ne.jp/˜teddy/pre/pre6.htm)どおりです(図32).
半導体,CR類は,ぺるけさんから配賦していただきました.
トランジスタの hFE,FETの Idss, Vgs@2mAは, 以下の通りで,非常によく揃っていました.
2SK170 Idss | 7.75mA | 7.65mA | 7.66mA | 7.80mA |
2SK170 Vgs | -0.205V | -0.207V | -0.206V | -0.208V |
2SC1815-Y | 139 | 140 | 145 | 145 |
2SA1015-GR | 226 | 222 | -- | |
2SC1815-GR | 262 | 259 | -- | |
2SA1358-Y | 218 | 222 | -- | |
2SC3421-Y | 181 | 186 | -- |
ケースはタカチのKC5-13-20にしました. このケースの前面・後面のパネルはプラスチック製であり, シールド効果はなく,ボリュームの軸がアースされません. また,ケースのその他の部分はアルマイト加工されており, 組み立てても導通が取れません. 最初,何の対策もせずに組み立てたところ, ボリュームのノブに触れたり, 天板に手を触れたりするとノイズを拾いました.
そこで,標準ジャックとボリュームを接続するアルミ板を入れ, さらにそのアルミ板を斜めに曲げて天板と導通するようにしました(図34). 天板の接触する部分は,布ペーパーによりアルマイトを落としてあります(図35).
この対策により,最もインピーダンスが高くなる ボリュームを電気的中点にした場合でも, 残留雑音が入力ショート時とほぼ変わらなくなりました. ノイズの大きさは,測定した状況によって変わるので, シールドの効果を正確に指摘することはできませんが, 最大17dB程度はノイズが小さくなりました.
無帰還時のゲインは,24.0dB (15.8倍)です.
負荷抵抗を変化させた場合の周波数特性を 図37に示します.
RL = 15 Ωの低域のカットオフ周波数は,2Hz程度です.
68Ωの負荷に1V出力時の波形を図38に示します.
歪率は,0.0338%です.
出力インピーダンスの特性を図39に示します.
中域の出力インピーダンスは,1.11Ωです.
負荷開放時の出力電圧対歪率特性を図40に示します.
負荷抵抗の違いによる出力電圧対歪率特性を図41に示します.
負荷抵抗の違いによる出力電力対歪率特性を図42に示します.
負荷抵抗の違いによる周波数特性を図43に示します.
無帰還時のゲインは16.8倍(24.5dB),負帰還量は15.5dBです. 負荷開放時に8.5MHz近辺に大きなピークが出ています. ラグ板による配線のためでしょうか.出力インピーダンスの周波数特性を図44に示します.
中域における出力インピーダンスは,約1Ωです.1V出力時のクロストーク特性を図45に示します.
AC 100V版と違い,低域で少し漏れています. トランジスタによる定電圧電源がないため, 電源のインピーダンスが高くなっているからでしょうか. 高域は,左から右へ少し漏れています.残留雑音は,以下の通りです.
チャネル | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
L | 26.2V | 10.8V | 6.9V | 3.9V |
R | 25.8V | 10.6V | 6.7V | 3.9V |
比較として, 定電圧電源 菊水7025と, 317を使用して作成した電源を使います. 317を使用した電源の回路図を,図47に示します. 317のadj端子には22Fの電解コンデンサを付加して, リプルを減らしています.
スイッチング電源の高周波ノイズを低減するのに使用するノイズフィルタの回路図を, 図48に示します.
コンデンサは,すべて100Fの電解コンデンサと 0.1Fの積層セラミックコンデンサの並列です.
L1, L2はコモンモードチョークで, 鈴商で売っていたTOKIN製の2A, 1mHのものです. コモンモードチョークは漏れインダクタンスが大きく, ノーマルモードのチョークの役割も多少果たしますが, この部品の場合,結合係数は0.998で, 漏れインダクタンスは6.4H程度となり, 10kHz域に効果が出てきます.
L3は通常のフェライトコアのチョークで,2mH, 0.16Aの定格です. このフィルタによるカットオフ周波数は350Hz程度で, 数10kHz以上のスイッチング周波数に対して, 十分な減衰が期待できます.
作成したノイズフィルタの外観を図49に示します.
以下の出力電流対出力電圧のグラフで, 点線は,前述のノイズフィルタを付加した特性です. 以下の出力電流対ノイズ電圧のグラフで, 赤は,帯域幅600kHz,緑は帯域幅80kHz,青は帯域幅30kHzです. 赤の点線は,前述のノイズフィルタを付加した特性です.
帯域幅600kHz, 80kHz, 30kHzであまり違いがないことから, ノイズの成分がかなり低い周波数にあることが予想されます.
100mA出力時の波形を図51に示します.
100Hzのリプルに高周波が乗っています. スイッチング周波数は240kHz程度です. 電流が増えるにつれ,360kHzから100kHz程度まで下がっていきます.
ノイズフィルタを接続した場合の, 100mA出力時の波形を図52に示します.
高周波成分が減り,波形がすっきりとしています.
帯域幅30kHzでノイズが大幅に下がっていることから, ほとんどの成分は30〜80kHzの間に分布しており, ノイズフィルタの効果が非常によく表れると予想されます.
100mA出力時の波形を図54に示します.
スイッチング周波数は47kHz程度です. 電流が増えるにつれ,スイッチング周波数は高くなります.
このACアダプタは,電流が少ない(20mA以下)ときに不安定になり, 600Hzのリプルが発生します(図55).
ノイズフィルタを接続すると,高周波成分が抑圧されて, オシロで確認できなくなります.
電流が増えるにつれ 帯域幅80kHz, 30kHzのノイズ電圧が増えていくことから, 次第に周波数の低い成分が増えていることが予想されます.
100mA出力時の波形を図57に示します.
スイッチング周波数は114kHz程度です.
このACアダプタは,電流が少ない(5〜32mA)ときに不安定になり, 230〜520Hzのリプルが発生します(図58).
ノイズ電圧は出力電流にほとんど依存せず,非常に低い値です. 1A出力時のノイズ波形を図60に示しますが, 110kHzのノイズはわが家で定常的に観測されるもので, 電源から出ているものではないようです.
ノイズ電圧は出力電流にほとんど依存せず, 菊水の電源に比べると多少大きいですが,非常に低い値です. 80mA出力時のノイズ波形を図62に示します.
図63に, 出力電流対出力電圧,出力電流対ノイズ電圧特性を示します.
内部抵抗は,0.2Ωです.ノイズ電圧は出力電流に伴って大きくなっていきます. ヘッドホンアンプで使用する電流(100mA以下)では, 他のシリーズレギュレータと同程度のノイズとなりますが, それ以上の電流を取り出すと,リプルが目立ってきます. 400mA出力時のリプル波形を図64に示します.
入力のリプルがピークトゥピークで1.2V, 出力のリプルがピークトゥピークで0.6mV程度ですから, リプル抑圧比は66dBです.
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 3.70mV | 2.42mV | 2.42mV | -- |
B+ | 0.41mV | 0.40mV | 0.40mV | -- |
残留雑音L | 68.5V | 11.2V | 7.3V | 7.0V |
残留雑音R | 43.5V | 11.2V | 7.5V | 5.3V |
電源のノイズ波形を図65に,B+のノイズ波形を図66に示します.
電源のノイズは,100Hzのリプルに高周波が乗っています. 高周波の周波数は,283kHzです. B+には,100Hzのリプルが残っています.
ノイズフィルタを挿入した場合の各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 1.79mV | 1.79mV | 1.79mV | -- |
B+ | 0.30mV | 0.298mV | 0.295mV | -- |
残留雑音L | 49.0V | 11.2V | 7.3V | 3.9V |
残留雑音R | 32.4V | 11.2V | 7.4V | 4.0V |
電源のノイズ波形を図67に,B+のノイズ波形を図68に示します.
電源のノイズから高周波が取り除かれており, 100Hzの波形がはっきりと見えます.
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 5.2mV | 4.5mV | 1.4mV | -- |
B+ | 84V | 70V | 34V | -- |
残留雑音L | 64V | 18.5V | 7.2V | 4.4V |
残留雑音R | 46.5V | 15.8V | 7.0V | 4.2V |
電源のノイズ波形を図69に,B+のノイズ波形を図70に示します.
スイッチング周波数は44kHzのようです. B+にはスイッチング周波数の成分が漏れているようです.
ノイズフィルタを挿入した場合の各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 90V | 86V | 84V | -- |
B+ | 23.5V | 14.5V | 12V | -- |
残留雑音L | 36.0V | 14.1V | 6.8V | 4.1V |
残留雑音R | 29.5V | 12.8V | 6.7V | 4.1V |
電源のノイズ波形を図71に,B+のノイズ波形を図72に示します.
電源およびB+にはスイッチング周波数の成分がわずかに残っています.
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 1.36mV | 0.135mV | 0.13mV | -- |
B+ | 36V | 22V | 22V | -- |
残留雑音L | 32.5V | 10.6V | 6.7V | 4.1V |
残留雑音R | 26.95V | 10.48V | 6.5V | 4.0V |
電源のノイズ波形を図73に,B+のノイズ波形を図74に示します.
スイッチング周波数は216kHzのようです. B+には,わずかに100Hzのリプル成分が見えます.
ノイズフィルタを挿入した場合の各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 105V | 92V | 92V | -- |
B+ | 22V | 17V | 17V | -- |
残留雑音L | 29.5V | 10.6V | 6.6V | 4.0V |
残留雑音R | 27.3V | 10.5V | 6.6V | 4.0V |
電源のノイズ波形を図75に,B+のノイズ波形を図76に示します.
スイッチング周波数が高いため,ノイズフィルタがよく効き, スイッチング周波数の成分が見られません.
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
電源出力 | 35V | 30V | 29V | -- |
B+ | 13V | 4V | 3V | -- |
残留雑音L | 26.2V | 10.5V | 6.6V | 3.9V |
残留雑音R | 25.9V | 10.3V | 6.4V | 3.9V |
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
電源出力 | 80V | 50V | 34V | -- |
B+ | 13V | 3.5V | 2.5V | -- |
残留雑音L | 25.7V | 10.4V | 6.3V | 3.9V |
残留雑音R | 25.9V | 10.9V | 7.0V | 4.1V |
次に優秀なのは,12V, 1Aの大型で, ノイズフィルタを挿入すれば, シリーズレギュレータの10%増し程度のノイズになります. ノイズフィルタがなくても,25%増し程度ですので, 十分に許容できると思います.
12V, 1Aの小型は,ノイズフィルタの効きがよく, シリーズレギュレータの40%増し程度のノイズになります. ノイズフィルタがない場合は,2.5倍程度となり,少し問題があるかも知れません.
12V, 0.4Aには,100Hzのリプルが含まれているため, ノイズフィルタがよく効かず, シリーズレギュレータの1.9倍程度のノイズになります. ノイズフィルタがない場合は,2.6倍程度となります.
内部をよく検討すると, 以下の点に問題がありそうです.
DCジャックからの線については,少し切りつめ,撚るようにしました(図77). またラグ板同士をつないでいる電源のラインは短くし, DCジャックから離れるようにしました. 電源スイッチ近辺については, 0.5tのアルミ板でシールドしました(図78). 電源スイッチとDCジャックをつなぐ線については, 試験的にシールド板を入れてみましたが,効果がないようでした.
これらの改良により,帯域幅600kHzのノイズが 68.5Vから51.5Vに, ノイズフィルタを併用すると, 49Vから43Vに下がりました.
さらに,12V, 0.4Aの100Hzのリプルを低減するため, 2200Fを4.7Ωの後ろとC-の間に追加しました.
各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
電源出力 | 3.29mV | 2.14mV | 2.14mV | -- |
B+ | 105V | 82.5V | 82.5V | -- |
残留雑音L | 52V | 11.2V | 7.4V | 6.1V |
残留雑音R | 30.4V | 11.1V | 7.2V | 5.6V |
電源のノイズ波形を図79に,B+のノイズ波形を図80に示します.
ノイズフィルタを挿入した場合の各部のノイズ電圧は,以下のとおりです.
測定箇所 | 600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
ACアダプタ出力 | 1.38mV | 1.38mV | 1.38mV | -- |
B+ | 61V | 55V | 54.5V | -- |
残留雑音L | 42.0V | 10.7V | 6.8V | 4.2V |
残留雑音R | 28.2V | 10.7V | 6.8V | 4.2V |