今回試作した回路を,図84に示します.
原回路では,ゲインが11倍となっていますが, これでは通常の用途には高すぎるため, 今回は3.2倍としました. また,仮想グラウンドを作成するコンデンサは, 手持ちの関係で220Fではなく,330Fを使用しています.
OPA134以外のオペアンプを使う場合は, 諸定数を変更する必要があります.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | -1.62m | 4.776 | -4.265 | 5.7% |
22 | -1.62m | 4.587 | -4.243 | 3.9% |
33 | -1.62m | 4.528 | -4.304 | 2.5% |
47 | -1.62m | 4.493 | -4.339 | 1.7% |
68 | -1.62m | 4.467 | -4.364 | 1.2% |
-1.62m | 4.410 | -4.421 | -0.1% |
x 100 | (1) |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図87, 88に示します.
負荷が小さくなるにしたがい,まず10kHzの歪率が悪化し, 22Ω以下では,90Hzの歪率も悪化します. 15Ω負荷では,1kHzで0.4Vまでしか出力できません. これは,ポータブル版よりも小さい値です.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図89に示します.
負荷開放時には,3.3MHzに1dB程度のピークが生じています. 負荷が重くなるにつれ,高域のカットオフ周波数が下がります.出力インピーダンスの周波数特性を図90に示します.
中域では0.07Ω程度です.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
21.4V | 9.9V | 7.7V | 3V |
負荷開放時の方形波応答を,図91に示します.
負荷開放時のほうが容量負荷に弱く,22nFを超えると発振します. 22nFの場合でも,激しいリンギングが生じています. 1000pF程度の容量では,ごくわずかなオーバーシュートが生じるだけで, 実用的にはまったく問題ないと言えます.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | -5.62m | 5.36 | -3.613 | 19.5% |
22 | -5.62m | 5.083 | -3.897 | 13.2% |
33 | -5.62m | 4.884 | -4.095 | 8.8% |
47 | -5.62m | 4.761 | -4.217 | 6.1% |
68 | -5.62m | 4.676 | -4.302 | 4.2% |
-5.62m | 4.483 | -4.495 | -0.1% |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図92, 93に示します.
負帰還量が少なくなっているので,歪率が悪化しています. ゲインが3倍のときは, 負荷抵抗が22Ω以下とそれ以上で明確に分かれていましたが, ゲインが11倍のときは, 負荷抵抗の大きさに応じて, 残留雑音を示す右下がりの線からきれいに離れていっています.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図94に示します.
負荷開放時にもピークはなく,たいへんすなおな特性です.出力インピーダンスの周波数特性を図95に示します.
中域では0.09Ω程度で,負帰還が減ったため上昇しています.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
47V | 25.5V | 16.2V | 9.9V |
方形波応答を,図96に示します.
ゲインが3倍の時より大きな47nFを付けても, リンギングは軽くなっており,安定度が高くなっています. 1000pF程度の容量では,オーバーシュートも生じず, きれいな100kHzの波形になっています.
出力オフセット電圧と,仮想グラウンドのアンバランスは,以下の通りです.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | -19.0m | 7.49 | -1.494 | 66.7% |
22 | -27.72m | 7.48 | -1.503 | 66.5% |
33 | -41.09m | 7.47 | -1.518 | 66.2% |
47 | -56.3m | 7.45 | -1.538 | 65.8% |
68 | -8.8m | 7.42 | -1.566 | 65.1% |
-295.6m | 4.627 | -4.362 | 2.9% |
この状態での残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
70V | 20.6V | 14.8V | 7.2V |
ここで,R1を10kΩに下げてみます. これでもオペアンプの両入力に接続されている直流抵抗はアンバランスなので, バイアス電流によるオフセットが生じますが, R1が100kΩの場合よりは緩和されるはずです. C1とR1により構成されるHPFのカットオフ周波数が10倍に上がるので, C1を2.2Fの無極性電解コンデンサに変更しました.
出力オフセット電圧と,仮想グラウンドのアンバランスは,以下の通りです.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | -14.68m | 6.85 | -2.135 | 52.5% |
22 | -14.88m | 6.15 | -2.844 | 36.8% |
33 | -15.01m | 5.64 | -3.358 | 25.4% |
47 | -15.10m | 5.32 | -3.677 | 18.3% |
68 | -15.16m | 5.087 | -3.906 | 13.1% |
-15.3m | 4.566 | -4.425 | 1.6% |
この状態での残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
70V | 18.4V | 11.3V | 7.2V |
入力バイアス電流によるオフセットを消すため, 帰還回路のインピーダンスを上げてみます. R2を10kΩ,R3を100kΩとしました. R2//R3の熱擾乱雑音が約3倍に増え,S/N比的には不利になります. ここで生じる雑音 vn は,帯域幅を600kHzとすると,
vn = = = 9.5 [V] | (2) |
出力オフセット電圧と,仮想グラウンドのアンバランスは,以下の通りです.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | 11.38m | 2.780 | -6.18 | -37.9% |
22 | 11.44m | 3.340 | -5.64 | -25.6% |
33 | 11.46m | 3.745 | -5.243 | -16.7% |
47 | 11.50m | 3.989 | -4.997 | -11.2% |
68 | 11.50m | 4.161 | -4.822 | -7.4% |
11.54m | 4.557 | -4.427 | 1.44% |
この状態での残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
127V | 42V | 26V | 16.2V |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図97, 98に示します.
どの周波数も歪みの傾向が良く揃っています. 無負荷時の歪率は,OPA2134のほうが少し優れていますが, 5532は負荷が重くなっても10kHzの歪みが悪化しません.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図99に示します.
700kHzあたりに2dBくらいのピークが生じています. 特に負荷が68Ωの場合にピークが高くなります. R3と並列に数pFのコンデンサを入れた方がよさそうです.負荷開放時の方形波応答を,図100に示します.
周波数特性から予想されるように, 容量負荷がなくてもオーバーシュートが生じており, 4700pFを接続すると発振してしまいます.
出力オフセット電圧と,仮想グラウンドのアンバランスは,以下の通りです.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | 8.73m | 3.192 | -5.79 | -28.9% |
22 | 8.73m | 3.626 | -5.36 | -19.3% |
33 | 8.73m | 3.934 | -5.049 | -12.4% |
47 | 8.73m | 4.123 | -4.860 | -8.2% |
68 | 8.73m | 4.256 | -4.726 | -5.2% |
8.73m | 4.556 | -4.427 | 1.4% |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図101, 102に示します.
負帰還量が増え,全体的に歪率が下がっています. 周波数による違いもほとんどありません.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図103に示します.
1MHz近辺に大きなピークが生じています. 位相補償を行う必要があります.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
30.3V | 17.6V | 11.6V | 6.4V |
負荷開放時の方形波応答を,図104に示します.
容量負荷がなくても激しいリンギングが生じており, わずか1000pFを接続するだけで発振してしまいます.
ピークを取るため,R3と並列に5pFのコンデンサを入れました. 負荷抵抗の違いによる周波数特性を図105に示します.
ピークは完全に消えていますが, 位相補償が強すぎ,高域が少し下がっています.方形波応答を,図106に示します.
負荷開放時には,リンギングやオーバーシュートがなくなり, 1000pF負荷の場合でも,ごくわずかなリンギングが残る程度になりました.
出力オフセット電圧と,仮想グラウンドのアンバランスは,以下の通りです.
RL | オフセット | Vdd | Vss | アンバランス |
15 | -1.70m | 4.759 | -4.237 | 5.8% |
22 | -1.70m | 4.676 | -4.320 | 4.0% |
33 | -1.71m | 4.615 | -4.379 | 2.6% |
47 | -1.71m | 4.581 | -4.416 | 8.2% |
68 | -1.72m | 4.554 | -4.442 | 1.8% |
-1.72m | 4.494 | -4.501 | -0.1% |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図107, 108に示します.
負荷抵抗の違いによる周波数特性を図109に示します.
R3が小さくなったことにより微分補償が軽くなり,高域が伸びています.出力インピーダンスの周波数特性を図110に示します.
中域では0.09Ω程度です.1V出力時のクロストーク特性を図111に示します.
低域は測定限界以下であり,高域は10kHzあたりから悪化していますが, まあ合格でしょう.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
34V | 12.6V | 7.9V | 4.7V |
68Ω負荷時の方形波応答を,図112に示します.
わずかにオーバーシュートがありますが, これは周波数特性にピークがあるからではなく, 高域の減衰傾度が-6dB/oct.を超えているためです.
音声信号を加えたときの,仮想グラウンドの揺れを調べてみました.
ヘッドホンを接続し,いつも聴いている程度の音量に設定して, 出力電圧と,グラウンド-Vcc間の電圧を表示したものが, 図113です. 10mV程度,グラウンドが揺れています.
音声信号では判りづらいので, 40Hzと100Hzの正弦波を加えたものを, 図114に示します.
40Hzでは,振幅が140mVの信号に対して12mV程度のグラウンドの揺れが生じています. 周波数が100Hzでは,3.5mV程度のグラウンドの揺れが生じています. 周波数が高くなると振幅が小さくなるので, 電源のコンデンサを強化すれば揺れは小さくなるでしょう.
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図115, 116に示します.
1kHzと90Hzの歪率はよく揃っており, それに比べると,10kHzの歪率はやや悪くなっています.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図117に示します.
負荷開放時に11dB強のピークが生じています.負荷開放時の方形波応答を,図118に示します.
純容量負荷は,470pFが限界でした.
6pFをR3に並列にすることにより,ピークがなくなりました. このときの周波数特性を図119に示します.
68Ω負荷時の方形波応答を,図120に示します.
わずかにオーバーシュートがありますが,問題ない範囲といえます. 2200pFまで安定に動作します.
出力インピーダンスの周波数特性を図121に示します.
中域では0.09Ω程度です.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
39V | 13.1V | 8.2V | 4.8V |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図122, 123に示します.
1kHzと90Hzの歪率はよく揃っており, それに比べると,10kHzの歪率はやや悪くなっています.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図124に示します.
負荷開放時に約10dBのピークが生じています.負荷開放時の方形波応答を,図125に示します.
わずか1000pFの純容量負荷で,発振寸前となっています.
6pFをR3に並列にすることにより,ピークがほとんどなくなりました. このときの周波数特性を図126に示します.
68Ω負荷時の方形波応答を,図127に示します.
負荷開放時よりも68Ω負荷時のほうがオーバーシュートが大きくなっていますが, まず問題のない波形となっています.
出力インピーダンスの周波数特性を図128に示します.
中域では0.07Ω程度です.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
37V | 12.1V | 7.7V | 4.5V |
負荷を変えた場合の出力電圧対歪率特性を,図129, 130に示します.
低電圧動作をうたっていないだけあって, 最大出力電圧が低くなっています. また,ややソフトディストーションの傾向があります. 電池動作のヘッドホンアンプには向いていないようです.負荷抵抗の違いによる周波数特性を図131に示します.
約6dBのピークが生じています.負荷開放時の方形波応答を,図132に示します.
少々容量性の負荷に弱そうです.
おそらく,47pF程度をR3と並列に接続すればピークが消えると思いますが, 手持ちの関係で,100pFを使用したところ,ピークがなくなり, 高域がやや下がるようになりました. このときの周波数特性を図133に示します.
68Ω負荷時の方形波応答を,図134に示します.
1000pFの容量を付加した場合の波形が乱れていますが, 方形波の周波数が100kHzだから目立っているのであって, 10kHzではほとんど見えなくなってしまいます.
出力インピーダンスの周波数特性を図135に示します.
中域では0.08Ω程度です.残留雑音は,以下のとおりです.
600kHz | 80kHz | 30kHz | A特性 |
32.2V | 16.1V | 12.7V | 3.6V |
負荷が68Ωの場合, 1kHzではOPA2134とNJM4580の歪率が低く, NJM5532とNJM2114がこれに次いでいます. OPA2604は最大出力電圧が低く,不利になっています. 90Hzでもこの傾向は変わりませんが,OPA2604の歪率が低くなっています. 10kHzでは,OPA2134の歪率が大幅に悪化し, それよりもOPA2604の歪率が大きくなっています. NJM5532の歪率は1kHzとそれほど変わらないのに対し, NJM2114は悪化しています. NJM4580は,NJM5532と傾向が似ており,低い値を維持しています.
負荷が33Ωの場合でも傾向はあまり変わりませんが, 他のオペアンプの最大出力が下がってしまう中で, NJM2114は最大出力電圧の下がり方が少なくなっています.
5532では,ゲインを大きく取っても,超高域にピークが生じました. 4558などの帯域が狭いオペアンプの代わりに, 安易に5532などを差し替えると,特性が暴れることがあります. 当然,方形波応答には大きなリンギングが生じるようになります.
逆に,5532用に位相補償を行った回路に OPA2134などを差し替えると,補償過多になり, 超高域の特性が悪化することになります. オペアンプの性能を生かすには, 個々のオペアンプに合わせた回路が必要であり, ピン接続が同じでも安易に差し替えはできないということになります.
Chu Moyアンプにバイポーラ入力のオペアンプを使う場合は, 入力バイアス電流によるオフセットが現れるのを考慮しなければなりません. 帰還回路網の合成抵抗が10kΩ程度で, ゲインを欲張らなければ,残留雑音はそれほど大きな値にはなりません. 今回は,オペアンプの両入力の直流抵抗を揃えることで オフセット電圧の低減を図りましたが, スペースが許せば,シングルのオペアンプを使い, オフセット調整を行った方が効果的といえます. そのほうが,帰還回路網の抵抗値の選択の幅が広くできます. また,部品点数が増えますが,R2のグラウンド側にコンデンサを入れ, 直流的には100%負帰還が掛かるようにすることも効果的です.
今回の仮想グラウンドのバランスは, 片チャネルのみに負荷を与えて測定したので, ステレオではアンバランスが2倍になる可能性があります. 電源の中点分割抵抗の値を半分にすれば, ステレオでもこの結果に近くなるでしょう.