2 グラフによる解析

初段の動作点をOとします. 動作点のプレート電圧を Ep0 , グリッド電圧を Eg0 , プレート電流を Ip0 とします. ここに入力電圧 ei を加えた場合を考えます. プレート特性図を図3に示します.

図 3: ハイゲインPK分割位相反転初段のプレート特性図
\includegraphics{figs/higpk_plate.ps}

初段の出力電圧を eo , 位相反転のカソード側出力を eok とします. 位相反転段のゲインを A2 とすれば,

eok = A2eo (18)
という関係が成り立ちます.

この電圧が,ブートストラップ用のコンデンサを通じてプレート負荷抵抗に加えられるため, Rp1 の下側の電圧は,無信号時よりも | eok| だけ低くなります. したがって,ロードラインは左側に | eok| だけずれた状態になります. このずれたロードラインと, Eg = Eg0 + ei のプレート特性曲線が交わったところ(点C)が,信号 ei を加えたときのプレート電圧とプレート電流になります.

この時のプレート電流の変化を ip とすると,図より,

DA = ipRp1 (19)
BD = iprp1 (20)

となります. また,図より,
eo + DA = A2eo (21)
- $\displaystyle \mu$ei + BD = eo (22)

が成り立つので,
DA = - (1 - A2)eo (23)
BD = $\displaystyle \mu$ei + eo (24)

これらを式(20), (19)に代入すると,
- (1 - A2)eo = ipRp1 (25)
$\displaystyle \mu$ei + eo = iprp1 (26)

となり,これらから ip を消去して,
$\displaystyle {\frac{{-(1 - A_2) e_o}}{{R_{p1}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\mu e_i + e_o}}{{r_{p1}}}}$  
$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{1 - A_2}}{{R_{p1}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{r_{p1}}}}$$\displaystyle \Bigr)$eo = $\displaystyle {\frac{{-\mu e_i}}{{r_{p1}}}}$  
$\displaystyle {\frac{{(1 - A_2) r_{p1} + R_{p1}}}{{r_{p1} R_{p1}}}}$eo = - $\displaystyle {\frac{{\mu e_i}}{{r_{p1}}}}$  
{(1 - A2)rp1 + Rp1}eo = - $\displaystyle \mu$Rp1ei  
eo = $\displaystyle {\frac{{-\mu R_{p1}}}{{(1 - A_2) r_{p1} + R_{p1}}}}$ei  
A1 = $\displaystyle {\frac{{-\mu R_{p1}}}{{(1 - A_2) r_{p1} + R_{p1}}}}$ (27)

実質的なロードラインOCの負荷抵抗値 Rp1' は,
ip = $\displaystyle {\frac{{\rm DA}}{{R_{p1}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\rm DO}}{{R_{p1}'}}}$  
$\displaystyle {\frac{{-(1 - A_2) e_o}}{{R_{p1}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{-e_o}}{{R_{p1}'}}}$  
Rp1' = $\displaystyle {\frac{{R_{p1}}}{{1 - A_2}}}$ (28)

となります. 一般に A2 は0.9$ \sim$ 0.95ですから, Rp1' Rp1 の10倍から20倍になり, ゲインは初段の $ \mu$ とほとんど等しくなります. このように,ハイゲインPK分割位相反転回路では, ブートストラップにより初段の実質的な負荷抵抗が非常に高くなることで, 大きなゲインを得ています. 負荷抵抗が高くなることで,歪率も下がり,最大出力電圧も大きくなります. そのかわり,負荷抵抗による出力インピーダンスの低下が期待できないので, 初段に多極管を使った場合は,高域特性が悪くなります.

次に,位相反転段のゲインの求め方ですが, 正確にはブートストラップコンデンサを経由して 初段から流れてくる電流(ip )も考慮しなければならないのですが, グラフでわかるように,みかけのインピーダンスが非常に高くなっており, 仮に Rp1 = Rk2' としても,ip ip2 よりも一桁以上小さいため, 無視してゲインを計算してもよいでしょう.

ayumi
2015-10-25