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2.7 カスコード接続

2.32のように, V1によるカソード接地回路のプレートをV2によるグリッド接地回路の入力に 直結することをカスコード接続(cascode)といいます. この回路では,V2のグリッド電圧が固定されており, したがってV2のカソード電圧(V1のプレート電圧)がほとんど変動しないため, V1には電圧増幅作用がほとんどなく,ミラー効果による入力容量の増加がありません. さらにV2はグリッドが接地されているため,入力と出力がシールドされ, 高周波の用途に向いています. またグリッド接地に見られた入力インピーダンスが低いという欠点(高周波回路では 必ずしも欠点ではないが)もありません. 等価回路は図2.33のようになります.
図 2.32: カスコード接続
\begin{figure}\input{figs/cascode}
\end{figure}
図 2.33: カスコード接続の等価回路
\begin{figure}\input{figs/cascode_equiv}
\end{figure}

等価回路より,以下の関係が成り立ちます.

eo = (- μ1eg1 - μ2eg2)$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$ (2.47)
ep1 = - μ1eg1 + (μ1eg1 + μ2eg2)$\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$ (2.48)
eg2 = - ep1 (2.49)

これより,
eg2 = μ1eg1 - (μ1eg1 + μ2eg2)$\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$  
(rp1 + rp2 + RL)eg2 = μ1(rp1 + rp2 + RL)eg1 - (μ1eg1 + μ2eg2)rp1  
{(1 + μ2)rp1 + rp2 + RL}eg2 = μ1(rp2 + RL)eg1  
eg2 = $\displaystyle {\frac{{\micro_1(r_{p2}+R_L)}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$eg1  
eo = $\displaystyle \biggl($ - μ1eg1 - μ2μ1$\displaystyle {\frac{{r_{p2}+R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$eg1$\displaystyle \biggr)$$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$  
  = - μ1eg1$\displaystyle \biggl($1 + μ2$\displaystyle {\frac{{r_{p2}+R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$$\displaystyle \biggr)$$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$  
  = - μ1eg1$\displaystyle {\frac{{(1+\micro_2)(r_{p1}+r_{p2}+R_L)}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$ . $\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p1} + r_{p2} + R_L}}}$  
  = - μ1eg1$\displaystyle {\frac{{(1+\micro_2)R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$  
A = - μ1(1 + μ2)$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$ (2.50)

ここでは,全体の等価回路から増幅度を求めましたが, カソード接地とグリッド接地に分けて, それぞれの増幅度を求めてそれらを掛け合わせることによって全体の増幅度を 求めることもできます. 2つの部分は直結されているので, カソード接地の出力インピーダンスは Zo1 = rp1, グリッド接地の入力インピーダンスは Zi2 = (rp2 + RL)/(1 + μ2) で, これがカソード接地の負荷になります. したがって,カソード接地段の増幅度 A1 は,

A1 = - μ1$\displaystyle {\frac{{Z_{i2}}}{{r_{p1} + Z_{i2}}}}$ = - μ1$\displaystyle {\frac{{\frac{r_{p2}+R_L}{1+\micro_2}}}{{r_{p1} + \frac{r_{p2}+R_L}{1+\micro_2}}}}$ = - μ1$\displaystyle {\frac{{r_{p2}+R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$ (2.51)
グリッド接地段の増幅度 A2 は,式(2.33)より,

A2 = (1 + μ2)$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p2} + R_L}}}$ (2.52)
ですから,全体の増幅度 A は,

A = A1A2 = - μ1$\displaystyle {\frac{{r_{p2}+R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$(1 + μ2)$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_{p2} + R_L}}}$ = - μ1(1 + μ2)$\displaystyle {\frac{{R_L}}{{(1+\micro_2)r_{p1}+r_{p2}+R_L}}}$ (2.53)
となり,式(2.50)と同じ結果が得られます.

同様に考えると,カスコード接続の出力インピーダンス Zo は, グリッド接地の場合(式(2.38))と同じですから,

Zo = {rp2 + (1 + μ2)rp1}//RL (2.54)
Zi = Rg (2.55)

となります.

2.7.1 数値例

ここでは,12AU7によるカスコード接続回路を解析します. SPICEで伝達特性を求めやすいように,固定バイアスで動作させます. 電源電圧 Ebb = 250 V, グリッド抵抗 Rg = 470 kΩ, 負荷抵抗 RL = 22 kΩ, V1のグリッドバイアス Eg1 = - 3 V, V2のグリッド電圧 Eg2 = 72 V とします. 動作点は, Ep1 = 77.89354 V, Eg1 = - 3 V, Ep2 = 125.5693 V, Eg2 = - 5.893544 V, Ip = 2.115324 mA で, この動作点における三定数は, gm1 = 1347.921 μS, rp1 = 12.77094 kΩ, μ1 = 17.21421, gm2 = 1129.799 μS, rp2 = 14.11705 kΩ, μ2 = 15.94943 です.
A = -17.21421(1 + 15.94943)$\displaystyle {\frac{{22}}{{(1 + 15.94943)12.77094 + 14.11705 + 22}}}$ = - 25.41387  
Zi = 470 [kΩ]  
Zo = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{14.11705 + (1 + 15.94943)12.77094}+\frac{1}{22}}}}$ = 20.08375 [kΩ]  

2.7.2 シミュレーション例

シミュレーション用の回路図を図2.34に示します.
図 2.34: カスコード接続増幅回路(シミュレーション用)
\begin{figure}\input{figs/cascode_spice}
\end{figure}

2.7.2.1 cascode.cir

    1 Cascode voltage amplifier with 12AU7
    2 .INCLUDE 12AU7.lib
    3 X1 1 2 0 12AU7
    4 X2 3 4 1 12AU7
    5 RL 3 5 22k
    6 VBB 5 0 250V
    7 VG2 4 0 72V
    8 RG 2 0 470k
    9 VI 2 0 DC -3V AC 1V
   10 .NODESET V(1)=78V
   11 .control
   12 op
   13 print v(1) v(2) v(3,1) v(4,1) v(3) i(vbb)
   14 tf v(3) vi
   15 print all
   16 .endc
   17 .END

2.7.2.2 結果

    1 
    2 Circuit: Cascode voltage amplifier with 12AU7
    3 
    4 v(1) = 7.789318e+01
    5 v(2) = -3.00000e+00
    6 v(3,1) = 1.255705e+02
    7 v(4,1) = -5.89318e+00
    8 v(3) = 2.034636e+02
    9 i(vbb) = -2.11529e-03
   10 transfer_function = -2.54139e+01
   11 output_impedance_at_v(3) = 2.008375e+04
   12 vi#input_impedance = 4.700000e+05

2.7.3 設計

カスコード接続の上側の球V2の動作はグリッド接地と同じです. ただし,グリッドの電圧が通常の0Vではなく, Eg2 ですから,仮のロードライン(図2.35のオレンジ色の線)は, Ebb - Eg2 から引きます. 実際のV2のロードラインは水色の線(A2-O2-B2)のように曲線になります. このとき,V2のカソードの対アース電圧は, 図の緑色の線(A1-O1-B1)のようになります. この線は,オレンジ色の線と水色の線との差に Eg2 を加えたものです.
図 2.35: カスコード接続のロードライン
\includegraphics{figs/cascode_design_ll.ps}

この緑色の線が,V1のプレート電圧とプレート電流の関係, すなわちロードラインになります. このようにV1のロードラインの傾きは急であり, V2の μ が高いほどカソード電圧の変化は少なくてすむため, 垂直線に近くなります. V1はカソード接地で動作していますが, 負荷がこのように非常に低いため,電圧増幅度が非常に低くなります. では増幅をしていないかと言うとそうではなくて, 入力の変化はプレート電流の変化になっています. グリッド電圧の変化に対するプレート電流の変化は gm でしたが, gm に相当する電流増幅を行なっているのです. V2は,この電流の変化を負荷抵抗を通して電圧の変化にしているのです.

動作点の決め方ですが, まず,Eg2 を決める必要があります. 仮に Eg2 を決めて,オレンジ色の線のようなV2のロードラインを引いてみます. この直線と Eg0 = 0 の交点の y 座標が, 緑色の線(V1のロードライン)の上端になります. この点が Eg0 = 1 V の特性曲線の上にこないようにします. V1は初段の場合が多いので,初速度電流の影響を受けないようにするためです. V2のほうは,グリッド接地なので,グリッド電流を考慮することなく, Eg0 = 0 までフルスイングして構わないでしょう. V1は,gmei という電流増幅を行なっていますが, gm はプレート電流の0.6乗に比例するという性質があります. したがって,プレート電流を多く流してやれば,利得も大きくなります. というわけで,V1のロードラインの上端ができるだけ Eg0 = 1 V に 近くなるような Eg2 を探します.

あとは,V1の入力の大きさに応じて動作点Oを決めます. ここでは, 4 Vp-p の入力が入るとしたので, Eg1 = - 3 V としました. この場合,プレート電流は Eg = - 3 V と緑色の線の交点O1で決まり, 2.12 mA となります. V2の(対カソード)プレート電圧は,O1を通る水平線と水色の線の交点O2であり, 対アースの電圧はO3の 203.5 V になります. +2 V の信号が加わったとき, プレート電流は Ip max = 5.24 mA となり(点A1), 対アースのV2のプレート電圧はA3の Eo min = 134.6 V になります. -2 V の信号が加わったとき, プレート電流は Ip min = 0.49 mA となり(点B1), 対アースのV2のプレート電圧はB3の Eo max = 239.3 V になります.

カスコード接続の伝達特性を求めるRの関数 trans.cascode を以下に示します.

2.7.3.0.1 trans_cascode.r

    1 "trans.cascode" <-
    2 function(p1, ei, Ebb, Eg1, Eg2, RL, Rk=0, p2=p1)
    3 {
    4     # カスコード接続の伝達関数を求める
    5     # p1: V1のパラメータ
    6     # p2: V2のパラメータ
    7     # ei: 入力電圧
    8     # Ebb: 電源電圧
    9     # Eg1: V1グリッド電圧(対アース)
   10     # Eg2: V2グリッド電圧
   11     # RL: 負荷抵抗
   12     # Rk: V1カソード抵抗
   13     # 返値
   14     # $Ip: プレート電流
   15     # $Eo: 出力電圧(対アースV2プレート電圧)
   16     # $Eg1: 対カソードV1グリッド電圧
   17     # $Ep1: 対カソードV1プレート電圧
   18     # $Eg2: 対カソードV2グリッド電圧
   19     # $Ep2: 対カソードV2プレート電圧
   20 
   21     get.ek2 <- function(ip) {
   22         # プレート電流が ip となるときの
   23         # V2の対アースカソード電圧を求める
   24         if (ip == 0)                # V2がカットオフする場合は
   25             return(Ek2max)          # これ以上のカソード電圧にならないはず?
   26         ep2 <- Ebb - ip * RL        # 対アースV2プレート電圧
   27         if (ep2 <= 0)
   28             return(0)
   29         uniroot(function(ek) Ip(p2, ep2-ek, Eg2-ek) - ip,
   30                 c(0, Ek2max), tol=1e-8)$root
   31     }
   32 
   33     f <- function(ip) {
   34         ep1 <- get.ek2(ip)      # 対アースV1プレート電圧
   35         ek1 <- ip * Rk          # 対アースV1カソード電圧
   36         ip1 <- Ip(p1, ep1-ek1, eg-ek1)
   37         ip - ip1
   38     }
   39 
   40     # V2がカットオフ(Ip=1nA)する対アースカソード電圧を求める
   41     Ek2max <- uniroot(function(ek) Ip(p2, Ebb-ek, Eg2-ek) - 1e-9,
   42             c(Eg2, Ebb))$root
   43     cat("Ek2max=", Ek2max, "\n", sep="")
   44     Eg <- ei + Eg1
   45     ip <- ek2 <- rep(0, length(Eg))
   46     for (i in seq(along=Eg)) {
   47         eg <- Eg[i]
   48         cat(eg, "")
   49         ip[i] <- if(Ip(p1, Ek2max, eg) <= 1e-9) 0
   50                 else uniroot(f, c(0, (Ebb-Eg2)/RL), tol=1e-8)$root
   51         ek2[i] <- get.ek2(ip[i])
   52     }
   53     cat("\n")
   54     eo <- Ebb - ip * RL
   55     ep2 <- eo - ek2
   56     eg2 <- Eg2 - ek2
   57     ep1 <- ek2 - ip * Rk
   58     eg1 <- Eg - ip * Rk
   59     list(Ip=ip, Eo=eo, Ep1=ep1, Eg1=eg1, Ep2=ep2, Eg2=eg2)
   60 }

この関数を使って,カスコード接続の動作を調べます.

> trans.cascode(t12AU7, ei=c(0, 2, -2), Ebb=250, Eg1=-3, Eg2=72, RL=22e3)
Ek2max=85.30461
-3 -1 -5 
$Ip
[1] 0.0021153245 0.0052434383 0.0004876885
$Eo                             # 出力ポイント(V2のプレート)の電圧
[1] 203.4629 134.6444 239.2709
$Ep1
[1] 77.89354 72.50324 82.12975
$Eg1
[1] -3 -1 -5
$Ep2
[1] 125.56932  62.14111 157.14110
$Eg2
[1]  -5.8935443  -0.5032431 -10.1297507

伝達特性のグラフは,次のようにして作成します.

> eg <- seq(-7, 0, by=0.25)
> ip <- trans.cascode(t12AU7, ei=0, Ebb=250, Eg1=eg, Eg2=72, RL=22e3)$Ip
Ek2max=85.30461
-7 -6.75 ...
... -0.75 -0.5 -0.25 0 
> plot(eg, ip, type="l")
2.36のようなグラフが作成されます. カスコード接続では gm による電流増幅を利用しているため, 入力電圧が大きいと, gm の変化(プレート電流の0.6乗に比例)に起因する増幅度の変化により, 歪みが大きくなります. 伝達特性の曲線が大きく曲がっているのはこのためです.
図 2.36: カスコード接続の伝達特性
\includegraphics{figs/cascode_design_dynamic.ps}


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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日