等価回路より,以下の関係が成り立ちます.
eo | = | (- μ1eg1 - μ2eg2) | (2.47) |
ep1 | = | - μ1eg1 + (μ1eg1 + μ2eg2) | (2.48) |
eg2 | = | - ep1 | (2.49) |
eg2 | = | μ1eg1 - (μ1eg1 + μ2eg2) | |
(rp1 + rp2 + RL)eg2 | = | μ1(rp1 + rp2 + RL)eg1 - (μ1eg1 + μ2eg2)rp1 | |
{(1 + μ2)rp1 + rp2 + RL}eg2 | = | μ1(rp2 + RL)eg1 | |
eg2 | = | eg1 | |
eo | = | - μ1eg1 - μ2μ1eg1 | |
= | - μ1eg11 + μ2 | ||
= | - μ1eg1 . | ||
= | - μ1eg1 | ||
A | = | - μ1(1 + μ2) | (2.50) |
ここでは,全体の等価回路から増幅度を求めましたが, カソード接地とグリッド接地に分けて, それぞれの増幅度を求めてそれらを掛け合わせることによって全体の増幅度を 求めることもできます. 2つの部分は直結されているので, カソード接地の出力インピーダンスは Zo1 = rp1, グリッド接地の入力インピーダンスは Zi2 = (rp2 + RL)/(1 + μ2) で, これがカソード接地の負荷になります. したがって,カソード接地段の増幅度 A1 は,
A1 = - μ1 = - μ1 = - μ1 | (2.51) |
A2 = (1 + μ2) | (2.52) |
A = A1A2 = - μ1(1 + μ2) = - μ1(1 + μ2) | (2.53) |
同様に考えると,カスコード接続の出力インピーダンス Zo は,
グリッド接地の場合(式(2.38))と同じですから,
Zo | = | {rp2 + (1 + μ2)rp1}//RL | (2.54) |
Zi | = | Rg | (2.55) |
A | = | -17.21421(1 + 15.94943) = - 25.41387 | |
Zi | = | 470 [kΩ] | |
Zo | = | = 20.08375 [kΩ] |
1 Cascode voltage amplifier with 12AU7 2 .INCLUDE 12AU7.lib 3 X1 1 2 0 12AU7 4 X2 3 4 1 12AU7 5 RL 3 5 22k 6 VBB 5 0 250V 7 VG2 4 0 72V 8 RG 2 0 470k 9 VI 2 0 DC -3V AC 1V 10 .NODESET V(1)=78V 11 .control 12 op 13 print v(1) v(2) v(3,1) v(4,1) v(3) i(vbb) 14 tf v(3) vi 15 print all 16 .endc 17 .END
1 2 Circuit: Cascode voltage amplifier with 12AU7 3 4 v(1) = 7.789318e+01 5 v(2) = -3.00000e+00 6 v(3,1) = 1.255705e+02 7 v(4,1) = -5.89318e+00 8 v(3) = 2.034636e+02 9 i(vbb) = -2.11529e-03 10 transfer_function = -2.54139e+01 11 output_impedance_at_v(3) = 2.008375e+04 12 vi#input_impedance = 4.700000e+05
この緑色の線が,V1のプレート電圧とプレート電流の関係, すなわちロードラインになります. このようにV1のロードラインの傾きは急であり, V2の μ が高いほどカソード電圧の変化は少なくてすむため, 垂直線に近くなります. V1はカソード接地で動作していますが, 負荷がこのように非常に低いため,電圧増幅度が非常に低くなります. では増幅をしていないかと言うとそうではなくて, 入力の変化はプレート電流の変化になっています. グリッド電圧の変化に対するプレート電流の変化は gm でしたが, gm に相当する電流増幅を行なっているのです. V2は,この電流の変化を負荷抵抗を通して電圧の変化にしているのです.
動作点の決め方ですが, まず,Eg2 を決める必要があります. 仮に Eg2 を決めて,オレンジ色の線のようなV2のロードラインを引いてみます. この直線と Eg0 = 0 の交点の y 座標が, 緑色の線(V1のロードライン)の上端になります. この点が Eg0 = 1 V の特性曲線の上にこないようにします. V1は初段の場合が多いので,初速度電流の影響を受けないようにするためです. V2のほうは,グリッド接地なので,グリッド電流を考慮することなく, Eg0 = 0 までフルスイングして構わないでしょう. V1は,gmei という電流増幅を行なっていますが, gm はプレート電流の0.6乗に比例するという性質があります. したがって,プレート電流を多く流してやれば,利得も大きくなります. というわけで,V1のロードラインの上端ができるだけ Eg0 = 1 V に 近くなるような Eg2 を探します.
あとは,V1の入力の大きさに応じて動作点Oを決めます. ここでは, 4 Vp-p の入力が入るとしたので, Eg1 = - 3 V としました. この場合,プレート電流は Eg = - 3 V と緑色の線の交点O1で決まり, 2.12 mA となります. V2の(対カソード)プレート電圧は,O1を通る水平線と水色の線の交点O2であり, 対アースの電圧はO3の 203.5 V になります. +2 V の信号が加わったとき, プレート電流は Ip max = 5.24 mA となり(点A1), 対アースのV2のプレート電圧はA3の Eo min = 134.6 V になります. -2 V の信号が加わったとき, プレート電流は Ip min = 0.49 mA となり(点B1), 対アースのV2のプレート電圧はB3の Eo max = 239.3 V になります.
カスコード接続の伝達特性を求めるRの関数 trans.cascode を以下に示します.
1 "trans.cascode" <- 2 function(p1, ei, Ebb, Eg1, Eg2, RL, Rk=0, p2=p1) 3 { 4 # カスコード接続の伝達関数を求める 5 # p1: V1のパラメータ 6 # p2: V2のパラメータ 7 # ei: 入力電圧 8 # Ebb: 電源電圧 9 # Eg1: V1グリッド電圧(対アース) 10 # Eg2: V2グリッド電圧 11 # RL: 負荷抵抗 12 # Rk: V1カソード抵抗 13 # 返値 14 # $Ip: プレート電流 15 # $Eo: 出力電圧(対アースV2プレート電圧) 16 # $Eg1: 対カソードV1グリッド電圧 17 # $Ep1: 対カソードV1プレート電圧 18 # $Eg2: 対カソードV2グリッド電圧 19 # $Ep2: 対カソードV2プレート電圧 20 21 get.ek2 <- function(ip) { 22 # プレート電流が ip となるときの 23 # V2の対アースカソード電圧を求める 24 if (ip == 0) # V2がカットオフする場合は 25 return(Ek2max) # これ以上のカソード電圧にならないはず? 26 ep2 <- Ebb - ip * RL # 対アースV2プレート電圧 27 if (ep2 <= 0) 28 return(0) 29 uniroot(function(ek) Ip(p2, ep2-ek, Eg2-ek) - ip, 30 c(0, Ek2max), tol=1e-8)$root 31 } 32 33 f <- function(ip) { 34 ep1 <- get.ek2(ip) # 対アースV1プレート電圧 35 ek1 <- ip * Rk # 対アースV1カソード電圧 36 ip1 <- Ip(p1, ep1-ek1, eg-ek1) 37 ip - ip1 38 } 39 40 # V2がカットオフ(Ip=1nA)する対アースカソード電圧を求める 41 Ek2max <- uniroot(function(ek) Ip(p2, Ebb-ek, Eg2-ek) - 1e-9, 42 c(Eg2, Ebb))$root 43 cat("Ek2max=", Ek2max, "\n", sep="") 44 Eg <- ei + Eg1 45 ip <- ek2 <- rep(0, length(Eg)) 46 for (i in seq(along=Eg)) { 47 eg <- Eg[i] 48 cat(eg, "") 49 ip[i] <- if(Ip(p1, Ek2max, eg) <= 1e-9) 0 50 else uniroot(f, c(0, (Ebb-Eg2)/RL), tol=1e-8)$root 51 ek2[i] <- get.ek2(ip[i]) 52 } 53 cat("\n") 54 eo <- Ebb - ip * RL 55 ep2 <- eo - ek2 56 eg2 <- Eg2 - ek2 57 ep1 <- ek2 - ip * Rk 58 eg1 <- Eg - ip * Rk 59 list(Ip=ip, Eo=eo, Ep1=ep1, Eg1=eg1, Ep2=ep2, Eg2=eg2) 60 }
この関数を使って,カスコード接続の動作を調べます.
> trans.cascode(t12AU7, ei=c(0, 2, -2), Ebb=250, Eg1=-3, Eg2=72, RL=22e3) Ek2max=85.30461 -3 -1 -5 $Ip [1] 0.0021153245 0.0052434383 0.0004876885 $Eo # 出力ポイント(V2のプレート)の電圧 [1] 203.4629 134.6444 239.2709 $Ep1 [1] 77.89354 72.50324 82.12975 $Eg1 [1] -3 -1 -5 $Ep2 [1] 125.56932 62.14111 157.14110 $Eg2 [1] -5.8935443 -0.5032431 -10.1297507
伝達特性のグラフは,次のようにして作成します.
> eg <- seq(-7, 0, by=0.25) > ip <- trans.cascode(t12AU7, ei=0, Ebb=250, Eg1=eg, Eg2=72, RL=22e3)$Ip Ek2max=85.30461 -7 -6.75 ... ... -0.75 -0.5 -0.25 0 > plot(eg, ip, type="l")図2.36のようなグラフが作成されます. カスコード接続では gm による電流増幅を利用しているため, 入力電圧が大きいと, gm の変化(プレート電流の0.6乗に比例)に起因する増幅度の変化により, 歪みが大きくなります. 伝達特性の曲線が大きく曲がっているのはこのためです.