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5.7 プッシュプル用トランスの1次巻線のインピーダンス

プッシュプル用のトランス(図5.22)には, 1次側にセンタータップ B があり,ここからB電源を供給して使います. 1次側の公称インピーダンスは P1-P2 間の値で表します.

図 5.22: プッシュプル用のトランス
\begin{figure}\input{figs/pp_trans}
\end{figure}

P1-B の巻数と B-P2 の巻数が等しいので,常に

e11 = e12 (5.56)
となります. また,2次の出力は1次の総入力と等しいので,

e11i11 + e12i12 = e2i2 (5.57)
が成り立ちます. この式は,式(5.56)を使って,

e11(i11 + i12) = e2i2 (5.58)
と表せることになります.

ここで注意しておきたいのは, i11i12 が等しくなくてもよいということです. それぞれの1次巻線のインピーダンス Z11, Z12 を求めてみると

Z11 = $\displaystyle {\frac{{e_{11}}}{{i_{11}}}}$ (5.59)
Z12 = $\displaystyle {\frac{{e_{12}}}{{i_{12}}}}$ (5.60)

となりますが,両者は必ずしも一致するわけではありません. プッシュプル用のトランスの1次側の各巻線のインピーダンスは, シングル用のように簡単には求められないことになります.

これを確認する実験をしてみましょう.

あり合わせのオペアンプ(NJM2114D)を使って, ゲインが2の非反転アンプとゲインが1の反転アンプを作り, Rs ( 2.2 kΩ または 3.7 kΩ)を介して, トランス(F-2021, Zpp = 5 kΩ)に加えます. トランスの2次側には,ダミーロード(実測 8.68 Ω)を接続します. 回路図は,図5.23の通りです.

図 5.23: ドライブ電圧と内部抵抗が異なる場合のプッシュプル用OPTのテスト
\begin{figure}\input{figs/optpp_test}
\end{figure}

アンプの入力に 400Hz の正弦波を加え, オシロをつないで,各部の位相がずれていないことを確認します. 位相が狂っていない(抵抗性)ので,インピーダンスを求めるのに,ふつうのオームの法則を使えます. その上で,各部の電圧を記録します.

1次巻線のそれぞれのインピーダンスは Zp1, Zp2 で示してあります. トランスの合成インピーダンスは,各巻線のインピーダンスを並列にしたもので, Z'pp で示してあります. カッコのない数値は実測値, カッコ内の数値はSPICEでシミュレーションした値です.


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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日