next up previous index
Next: 2. 電圧増幅回路 Up: 1. 静特性と三定数 Previous: 1.3 三定数

1.4 真空管による増幅と三定数

真空管は,実際には図1.3のような回路で使われることはありません. グリッド電圧の変化は,プレート電流の変化となりますが, 通常は,これを電圧の変化として取り出します. そのために,図1.8のように 電源 Ebb とプレートの間に負荷抵抗 RL を入れ, プレート電圧の変化を出力とします.
図 1.8: 三極管による電圧増幅回路
\begin{figure}\input{figs/amp_circuit}
\end{figure}

eg は信号入力電圧で, Egeg が加わった場合でも つねにグリッド電圧が負になるようにするための バイアス電圧(グリッドバイアス)です, グリッド電圧が負であれば,グリッドに電流は流れませんが, グリッド電圧が正になるとグリッド電流が流れだし, 入力インピーダンスが下がるため, 電圧増幅段ではグリッド電圧が常に負になるようにして使います.

さて,図1.8の回路で, プレート電流が Ip 流れたとき, プレート電圧 Ep は,電源電圧 Ebb から 負荷抵抗 RL の電圧降下 IpRL を引いた電圧になります. すなわち,

Ep = Ebb - IpRL (1.11)
この,RL によって定まるプレート電圧とプレート電流の関係を プレート特性に書き込むと,図1.9の直線のようになります. この直線を負荷抵抗線(ロードライン: load line)といいます. 図に示したように,ロードラインは (Ebb, 0) と (0, Ebb/RL) を 通る直線です.
図 1.9: 静特性による増幅回路の解析
\begin{figure}\input{figs/amp}
\end{figure}
このように,負荷抵抗があると, プレートにかかる電圧はプレート電流によって変わってきます.

入力信号がない場合,グリッド電圧は Eg であり, そのグリッド電圧のプレート特性曲線とロードラインとの交点により プレート電圧とプレート電流が決まります. 図1.9ではA点です. この点を動作点といいます.

入力電圧が加わり,グリッド電圧が Eg + eg になった場合, プレート特性曲線とロードラインとの交点はBになります. このとき,eg > 0 なら,プレート電流は $ \Delta$Ip だけ増加し, プレート電圧は $ \Delta$Ep = ep だけ下がります. この増幅回路の増幅度 A は,

A = $\displaystyle {\frac{{e_p}}{{e_g}}}$ (1.12)
となります.

ここで,増幅度と三定数の関係を調べます. 増幅率 μ より,

$\displaystyle \vec{{\rm CA}} $ = μeg (1.13)
三角形BCDに注目すると,内部抵抗 rp より,
rp = $\displaystyle {\frac{{\vec{\rm CD}}}{{\vec{\rm DB}}}}$  
$\displaystyle \vec{{\rm CD}} $ = $\displaystyle \vec{{\rm DB}} $rp = $\displaystyle \Delta$Iprp (1.14)

三角形ABDに注目すると,負荷抵抗 RL によるロードラインより,

$\displaystyle \vec{{\rm DA}} $ = - ep = $\displaystyle \Delta$IpRL (1.15)
$ \vec{{\rm CA}} $ = $ \vec{{\rm CD}} $ + $ \vec{{\rm DA}} $ より,
μeg = $\displaystyle \Delta$Iprp + $\displaystyle \Delta$IpRL  
  = $\displaystyle \Delta$Ip(rp + RL)  
$\displaystyle \Delta$Ip = $\displaystyle {\frac{{\micro e_g}}{{r_p + R_L}}}$ (1.16)

式(1.16)を式(1.15)に代入して,

ep = - $\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_p + R_L}}}$μeg (1.17)
したがって,増幅度 A は,

A = $\displaystyle {\frac{{e_p}}{{e_g}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{R_L}}{{r_p + R_L}}}$μ (1.18)
となります.

さて,式(1.17)は,電圧 - μeg を,rpRL で 分圧していると見ることができます. 負荷抵抗 RL の両端に生じる出力電圧は, 開放電圧が - μeg で内部抵抗が rp の電圧源に RL をつないだ場合とまったく同じになります. これより図1.8の回路の信号成分の等価回路は 図1.10のように表せます.

図 1.10: 電圧源による等価回路
\begin{figure}\input{figs/equiv_vol}
\end{figure}

式(1.17)に, μ = gmrp を代入すると,

ep = - $\displaystyle {\frac{{r_p R_L}}{{r_p + R_L}}}$gmeg (1.19)
となり,rpRL が並列になった回路に電流 - gmeg を 流したときに生じる電圧が ep になります. これは,内部抵抗が rp の電流源と等価です. これより図1.8の回路の信号成分の等価回路は 図1.11のようにも表せます.
図 1.11: 電流源による等価回路
\begin{figure}\input{figs/equiv_cur}
\end{figure}

next up previous index
Next: 2. 電圧増幅回路 Up: 1. 静特性と三定数 Previous: 1.3 三定数
Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日