スタガ比を大きくするには,
狭帯域化およびラグリード補償は,第一ポール p1 を生じている箇所で行います.
微分型補償は,負帰還回路( 回路)で行うため,
一般に p1 とも p2 とも干渉せずに定数を決めることができます.
狭帯域化と同様な周波数特性を得るために,p1 以外の箇所で補償をすることもでき,ステップ補償と呼ばれます.
狭帯域化およびラグリード補償では, p1 を構成している定数をよく知る必要があります. 図7に,QUAD IIタイプの位相反転段と出力段の段間の等価回路を示します.
ここで,Co は位相反転段の出力容量,Cs はミラー効果を含めた出力段の入力容量,また,rp | ![]() |
3000 kΩ | |
Rp | = | 150 kΩ | |
Rg | = | 470 kΩ |
R1 = 2rp//2Rp//2Rg = 219 kΩ | (5) |
p1 = ![]() |
(6) |
C1 = ![]() ![]() |
(7) |
= 20 とするためには,移動後の第一ポール p1' を,
p1' = ![]() ![]() |
(8) |
C2 = (4 - 1)C1 = 3 . 36 = 108 [pF] | (9) |
インピーダンスが低く,補償容量が大きくなる場合は, 出力段のプレート-グリッド間にコンデンサをつければ, ミラー効果により増幅度の分大きなコンデンサの働きをしますから, 小さな容量で同等な効果を得ることができます.
第一ポール p1 がある部分の特性を,図8の左上から右上のように変更できれば,全体の特性を右下のようにすることができ, 必要なスタガ比を得ることができます. すなわち,もともとあったポール p1 を p1' に移動し, p2 にゼロを作り,p2' に新たにポールを作ります.
このような特性を得るには,図9のように, 抵抗とコンデンサを直列にしたものを,第一ポールを生じている部分に入れます.
p1 を p1' へと低くする比率と,
p2 を p2' へと高くする比率は等しく,
これを とします.
つまり,
![]() ![]() ![]() |
(10) |
さて,希望のスタガ比を とすると,
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
(11) |
![]() ![]() |
(12) |
![]() ![]() |
(13) |
具体的な定数の求め方ですが,
導出方法は理論編でやることにして,
ここでは結果だけを書いておきます.
ポールの単位は周波数ではなく,角周波数(
= 2
f)を使います.
R2 | = | ![]() |
(14) |
C2 | = | ![]() |
(15) |
R2 | = | ![]() |
(16) |
C2 | = | ![]() |
(17) |
簡単に定数の目安をつけるには,次のようにします. p1' は,C1 と C2 の並列合成値と R1 によって概ね決まります. 今回の場合,p1' を p1 の半分にしたいので, C2 としては C1 と同じ値を使えばよいことがわかります.
p2' は,R2 と C2 によって決まります. 今回の場合,これが p2 の2倍となるように,R2 の値を決めます.
負帰還量 F を変えたときの,
R2, C2 の値の変化を図10に示します.
丸が付いているところは,例として取り上げた = 20 の場合です(T = 10, F = 11).
微分型補償は,図11のように, 帰還抵抗 Rf に補償用のコンデンサ Cf を並列に接続し, 第二のポール p2 をさらに高域に移動させるものです.
この帰還回路( 回路)には,ゼロ zf とポール pf があり,
その位置は,
zf | = | ![]() |
(18) |
pf | = | ![]() |
(19) |
こちらも,導出は理論編に譲り,結論だけ書きます.
![]() |
= | ![]() |
(20) |
zf | = | ![]() |
(21) |
Cf | = | ![]() |
(22) |
負帰還を 20 dB かけることにすると,
F = 10, T = 9 で,
バタワース特性にするには
= 0.707 で,
ポールの配置は,
p1 = 2
. 20 x 103 = 125700,
p2 = 2
. 100 x 103 = 628300 ですから,
Rf = 470 Ω とすれば,
![]() |
= | ![]() |
|
zf | = | ![]() |
|
Cf | = | ![]() |
位相補償前のボーデ線図と,位相補償後のボーデ線図を, 図12に示します.
補償前のゲイン交点周波数(ループゲインが1 (0 dB)となる周波数)は, 115.9 kHz で, その時の位相は -129.4o であり, 位相余裕は 180 - 129.4 = 50.6o となります. このとき,閉ループのゲイン(緑色)の周波数特性にはピークが生じています.
これに微分型の位相補償を行うと,図の右側のようになります.
回路の周波数特性は,図の青線のように zf から上昇し,
最終的にはゲインが1となります.
回路の位相は,
10 kHz あたりから進みはじめ,
600 kHz あたりで進みが最大となり,
再び0に戻っていきます.
この位相の進みにより,ループ全体の位相の遅れが
100 kHz から 1 MHz あたりで止まり,位相余裕が確保されます.
ゲイン交点周波数は,
126.3 kHz で,
その時の位相は
-107.4o であり,
位相余裕は
180 - 107.4 = 72.6o となります.
閉ループのゲインの周波数特性はフラットになっています.
負帰還量 F を変えたときの, Rf, Cf の値の変化を図13に示します. Rs = 68 Ω としています.