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6 伝達関数--1次の場合

これまで,伝達関数には,変数として j$ \omega$ を使ってきましたが, これからは,これを s で表します. 今回は扱いませんが,この s はラプラス変数で, ラプラス変換を使えば過渡応答を求めることもできます. 正弦波に対する定常的な応答を求めるには,sj$ \omega$ を代入してやります.

この記号を使うと,コンデンサのインピーダンス ZC は,

ZC = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sC}}}$ (131)
と表せ,コイルのインピーダンス ZL は,

ZL = sL (132)
と表せます.

これから基本となる4つの1次の伝達関数を見ていきます.

6.1 ローパス特性

次の2つの回路は,1次のローパス特性になります.
図 35: ローパス特性の回路
\begin{figure}\input{figs/lowpass_sch}
\end{figure}

左側のCRによるローパスフィルタの伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{Z_C}}{{R+Z_C}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\frac{1}{sC}}}{{R + \frac{1}{sC}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sCR + 1}}}$ (133)
CR = TC とおくと,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sT_C + 1}}}$ (134)
となります.この TC時定数(time constant)と呼ばれます.

右側のLRによるローパスフィルタの伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{R}}{{Z_L + R}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R}}{{sL + R}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sL/R + 1}}}$ (135)
L/R = TL とおくと,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sT_L + 1}}}$ (136)
となり,CRの場合と同じ形になりました.

一般に,1次のローパス特性の伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{sT + 1}}}$ (137)
となり,p = - 1/T とおけば,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 - s/p}}}$ (138)
となります. この p は伝達関数の極(ポール) (pole)といいます. s = p のとき,T が無限大になるからです. 現実には,p は複素数ではありませんので, この伝達関数 T が無限大になることはありません.

一般に,伝達関数の分母 D(s) が0となる解をポールといいいます. 伝達関数の分母の多項式は,ポール p1, p2,... によって,次のように変形できます.

D(s) = 1 + a1s + a2s2 + a3s3 + ... (139)
  = (1 - s/p1)(1 - s/p2)(1 - s/p3) ... (140)

この伝達関数の,ゲインと位相の周波数特性を調べてみましょう. そのために, $ \omega_{0}^{}$ = - p とおき,s = j$ \omega$ を代入し,有理化します.

T(j$\displaystyle \omega$) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + j\omega/\omega_0}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + j\omega/\omega_0}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1 - j\omega/\omega_0}}{{1 - j\omega/\omega_0}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1 - j\omega/\omega_0}}{{1 + (\omega/\omega_0)^2}}}$ (141)

ゲインは,

| T(j$\displaystyle \omega$)| = $\displaystyle {\frac{{\sqrt{1^2+(\omega/\omega_0)^2}}}{{1 + (\omega/\omega_0)^2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\sqrt{1 + (\omega/\omega_0)^2}}}}$ (142)
となります. $ \omega$ $ \ll$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ $ \ll$ 1 となり,分母はほぼ 1 ですので, | T| $ \approx$ 1 となります. $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき,分母は $ \sqrt{{2}}$ となるので, | T| = 1/$ \sqrt{{2}}$ となります. これをデシベルで表すと約 -3 dB で, fc = $ \omega_{0}^{}$/2$ \pi$カットオフ周波数と呼ばれます. $ \omega$ $ \gg$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ $ \gg$ 1 となり,分母の根号の中の 1 を無視することができるので, | T| $ \approx$ 1/($ \omega$/$ \omega_{0}^{}$) = $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ となります. したがって,周波数が10倍となるごとにゲインは1/10になり, -20 dB/dec または -6 dB/oct でゲインが直線的に下がります.

位相は,

arg T(j$\displaystyle \omega$) = tan-1$\displaystyle {\frac{{-\omega/\omega_0}}{{1}}}$ = tan-1$\displaystyle \Bigl($ - $\displaystyle {\frac{{\omega}}{{\omega_0}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (143)
となり, $ \omega$$ \to$ 0 で 0o $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ で -45o $ \omega$$ \to$$ \infty$ で -90o となります.

グラフで表すと,図36のようになります.

図 36: ローパス特性
\includegraphics{figs/lowpass_chara.ps}

6.2 ハイパス特性

次の2つの回路は,1次のハイパス特性になります.
図 37: ハイパス特性の回路
\begin{figure}\input{figs/highpass_sch}
\end{figure}

左側のCRによるハイパスフィルタの伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{R}}{{Z_C + R}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R}}{{\frac{1}{sC} + R}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{sCR} + 1}}}$ (144)
CR = TC とおくと,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{sT_C} + 1}}}$ (145)
となります.

右側のLRによるハイパスフィルタの伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{Z_L}}{{R + Z_L}}}$ = $\displaystyle {\frac{{sL}}{{R + sL}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{sL/R} + 1}}}$ (146)
L/R = TL とおくと,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{sT_L} + 1}}}$ (147)
となり,CRの場合と同じ形になりました.

一般に,1次のハイパス特性の伝達関数は,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{sT} + 1}}}$ (148)
となり,p = - 1/T とおけば,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 - p/s}}}$ (149)
となります.

この伝達関数,のゲインと位相の周波数特性を調べてみましょう. そのために, $ \omega_{0}^{}$ = - p とおき,s = j$ \omega$ を代入し,有理化します.

T(j$\displaystyle \omega$) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \omega_0/j\omega}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \omega_0/j\omega}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1 - \omega_0/j\omega}}{{1 - \omega_0/j\omega}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1 - \omega_0/j\omega}}{{1 + (\omega_0/\omega)^2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1 + j\omega_0/\omega}}{{1 + (\omega_0/\omega)^2}}}$ (150)

ゲインは,

| T(j$\displaystyle \omega$)| = $\displaystyle {\frac{{\sqrt{1^2+(\omega_0/\omega)^2}}}{{1 + (\omega_0/\omega)^2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\sqrt{1+(\omega_0/\omega)^2}}}}$ (151)
となります. $ \omega$ $ \gg$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ $ \ll$ 1 となり,分母はほぼ 1 ですので, | T| $ \approx$ 1 となります. $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき,分母は $ \sqrt{{2}}$ となるので, | T| = 1/$ \sqrt{{2}}$ となります. これをデシベルで表すと約 -3 dB です. $ \omega$ $ \ll$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ $ \gg$ 1 となり,分母の根号の中の 1 を無視することができるので, | T| $ \approx$ 1/($ \omega_{0}^{}$/$ \omega$) = $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ となります. したがって,周波数が1/10となるごとにゲインは1/10になり, -20 dB/dec または -6 dB/oct でゲインが直線的に下がります.

位相は,

arg T(j$\displaystyle \omega$) = tan-1$\displaystyle {\frac{{\omega_0/\omega}}{{1}}}$ = tan-1$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{\omega_0}}{{\omega}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (152)

となり, $ \omega$$ \to$ 0 で 90o $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ で 45o $ \omega$$ \to$$ \infty$ で 0o となります.

グラフで表すと,図38のようになります.

図 38: ハイパス特性
\includegraphics{figs/highpass_chara.ps}

6.3 ハイブースト特性

現実の回路では,無限にゲインが上昇する回路はあり得ないのですが, 解析に便利なため,ある周波数からゲインが上昇していく伝達関数を考えます.

T(s) = 1 - $\displaystyle {\frac{{s}}{{z}}}$ (153)
z は,この伝達関数のゼロ(zero)で, s = z のとき,伝達関数が0になります. 実際には,z は複素数ではないので, この伝達関数の値が0になることはありません. $ \omega_{0}^{}$ = - z とおき,sj$ \omega$ を代入すると,

T(j$\displaystyle \omega$) = 1 + $\displaystyle {\frac{{j\omega}}{{\omega_0}}}$ (154)
となります.

一般に,伝達関数の分子 N(s) が0となる解をゼロといいいます. 伝達関数の分母の多項式は,ゼロ z1, z2,... によって,次のように変形できます.

N(s) = 1 + a1s + a2s2 + a3s3 + ... (155)
  = (1 - s/z1)(1 - s/z2)(1 - s/z3) ... (156)

これより,ゲインは,

| T(j$\displaystyle \omega$)| = $\displaystyle \sqrt{{1 + (\omega/\omega_0)^2}}$ (157)
となります. したがって, $ \omega$ $ \ll$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ $ \ll$ 1 ですから,ゲインは | T| $ \approx$ 1 となります. $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき, | T| = $ \sqrt{{2}}$ となり,これは約 +3 dB です. $ \omega$ $ \gg$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ $ \gg$ 1 ですから,根号の中の1を無視できて,ゲインは | T| $ \approx$ $ \omega$/$ \omega_{0}^{}$ となり,周波数が10倍になればゲインも10倍になります.

位相は,

arg T(j$\displaystyle \omega$) = tan-1$\displaystyle {\frac{{\omega/\omega_0}}{{1}}}$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{\omega}}{{\omega_0}}}$ (158)
で, $ \omega$$ \to$ 0 のとき 0o $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき 45o $ \omega$$ \to$$ \infty$ のとき 90o となります.

グラフで表すと,図39のようになります.

図 39: ハイブースト特性
\includegraphics{figs/highboost_chara.ps}

6.4 ローブースト特性

ある周波数以下でゲインが上昇していく伝達関数を考えます.

T(s) = 1 - $\displaystyle {\frac{{z}}{{s}}}$ (159)
$ \omega_{0}^{}$ = - z とおき,sj$ \omega$ を代入すると,

T(j$\displaystyle \omega$) = 1 + $\displaystyle {\frac{{\omega_0}}{{j\omega}}}$ = 1 - j$\displaystyle {\frac{{\omega_0}}{{\omega}}}$ (160)
となります.

これより,ゲインは,

| T(j$\displaystyle \omega$)| = $\displaystyle \sqrt{{1 + (\omega_0/\omega)^2}}$ (161)
となります. したがって, $ \omega$ $ \gg$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ $ \ll$ 1 ですから,ゲインは | T| $ \approx$ 1 となります. $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき, | T| = $ \sqrt{{2}}$ となり,これは約 +3 dB です. $ \omega$ $ \ll$ $ \omega_{0}^{}$ のとき, $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ $ \gg$ 1 ですから,根号の中の1を無視できて,ゲインは | T| $ \approx$ $ \omega_{0}^{}$/$ \omega$ となり,周波数が1/10倍になればゲインは10倍になります.

位相は,

arg T(j$\displaystyle \omega$) = tan-1$\displaystyle {\frac{{-\omega_0/\omega}}{{1}}}$ = tan-1$\displaystyle \Bigl($ - $\displaystyle {\frac{{\omega_0}}{{\omega}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (162)
で, $ \omega$$ \to$ 0 のとき -90o $ \omega$ = $ \omega_{0}^{}$ のとき -45o $ \omega$$ \to$$ \infty$ のとき 0o となります.

グラフで表すと,図40のようになります.

図 40: ローブースト特性
\includegraphics{figs/lowboost_chara.ps}

6.5 微分補償3回目

伝達関数は,式(109)より,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{R_2}}{{R_1+R_2}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1+sCR_1}}{{1+sC(R_1//R_2)}}}$ (163)
で,
z = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{CR_1}}}$ (164)
p = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{C(R_1//R_2)}}}$ (165)

とおけば,

T(s) = $\displaystyle {\frac{{R_2}}{{R_1+R_2}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1-s/z}}{{1-s/p}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_2}}{{R_1+R_2}}}$ . (1 - s/z) . $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 - s/p}}}$ (166)
と書けます. この式の第1項は,周波数に依存しません. 第2項はハイブースト特性で,| z| より周波数が高くなるとゲインが上昇します. 第3項はハイカット(ローパス)特性で,| p| より周波数が高くなるとゲインが下降します. 伝達関数の積は,ゲインに関してはそれぞれの積に,位相に関しては和になります. ゲインをデシベルで表した場合は,ゲインも和になります. この場合, R1 > (R1//R2) なので,| z| < | p| となります. したがってゲインの周波数特性は,低域では R2/(R1 + R2) で, | z| からゲインが dB/oct で上昇し,| p| で平坦に戻ります. このようすを漸近線で示したものが,図41です.
図 41: 微分型位相補償の特性(漸近線による)
\begin{figure}\input{figs/diff_line}
\end{figure}

ゼロ,ポールの値は,

z = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{CR_1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{1000\times10^{-12}\cdot 1\times10^3}}}$ = - 1 x 106 [rad /s] = - 159 [kHz] (167)
p = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{C(R_1//R_2)}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{1000\times10^{-12}\cdot (1\times10^3//100)}}}$ = - 11 x 106 [rad /s] = - 1.75 [MHz] (168)

です.

位相は,

$\displaystyle \phi$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{\omega}}{{\vert z\vert}}}$ - tan-1$\displaystyle {\frac{{\omega}}{{\vert p\vert}}}$ (169)
となります. 位相がもっとも進むのは,証明は省略しますが $ \omega$ = $ \sqrt{{\vert z\vert\cdot\vert p\vert}}$ の時で, このときの角周波数を $ \omega_{m}^{}$ とすると,

$\displaystyle \omega_{m}^{}$ = $\displaystyle \sqrt{{1\times10^6 \cdot 11\times10^6}}$ = 3.3 x 106 [rad /s] = 525 [kHz] (170)
なので,

$\displaystyle \phi_{m}^{}$ = tan-13.3 - tan-1$\displaystyle {\frac{{3.3}}{{11}}}$ = 56.4 [o] (171)
となります. 特性を図42に示します.
図 42: 微分型位相補償の特性
\includegraphics{figs/diff_bode.ps}

6.6 CR型RIAAイコライザ

RIAAイコライザの特性は,図43のようになっており, 時定数は,

T1 = 3180 [μs]  
T2 = 318 [μs]  
T3 = 75 [μs]  

と定められています. この特性を実現する伝達関数は,

T(s) = A0$\displaystyle {\frac{{1-s/z_2}}{{(1-s/p_1)(1-s/p_3)}}}$ (172)
のようになります. ここで,
p1 = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{T_1}}}$ = - 314.5 [rad /s] = - 50 [Hz]  
z2 = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{T_2}}}$ = - 3145 [rad /s] = - 500 [Hz]  
p3 = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{T_3}}}$ = - 13333 [rad /s] = - 2120 [Hz]  

です.
図 43: RIAAイコライジング特性
\begin{figure}\input{figs/riaa}
\end{figure}

この特性を実現するには,たとえば図44のような回路を使います.

図 44: CR型RIAAイコライザ
\begin{figure}\input{figs/riaa_sch}
\end{figure}

この回路の伝達関数を求めます. R2, C1, C2 の部分のインピーダンスを Z とおくと,

Z = (R2 + ZC1)//ZC2  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{R_2 + \frac{1}{sC_1}} + sC_2}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{sC_1}{sC_1R_2+1}+sC_2}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{sC_1R_2+1}}{{sC_1+sC_2(sC_1R_2+1)}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{sC_1R_2+1}}{{s^2C_1C_2R_2+s(C_1+C_2)}}}$  

これを使うと,この回路の伝達関数は,
T(s) = $\displaystyle {\frac{{Z}}{{R_1 + Z}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{\frac{sC_1R_2+1}{s^2C_1C_2R_2+s(C_1+C_2)}}}{{R_1+\frac{sC_1R_2+1}{s^2C_1C_2R_2+s(C_1+C_2)}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{sC_1R_2+1}}{{s^2C_1C_2R_1R_2+s(C_1R_1+C_1R_2+C_2R_1)+1}}}$ (173)

となります. 一方,式(172)より,

$\displaystyle {\frac{{1-s/z_2}}{{(1-s/p_1)(1-s/p_3)}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1-s/z_2}}{{1-s(1/p_1+1/p_3)+s^2/(p_1p_3)}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1+sT_2}}{{1+s(T_1+T_3)+s^2T_1T_3}}}$ (174)
ですから,s の各係数を比較することにより,
C1R2 = T2 (175)
C1C2R1R2 = T1T3 (176)
C1R1 + C1R2 + C2R1 = T1 + T3 (177)

という関係が成り立つことがわかります. 式(175)を式(176)に代入することにより,
C2R1T2 = T1T3  
C2R1 = $\displaystyle {\frac{{T_1T_3}}{{T_2}}}$ (178)

これらを式(177)に代入することにより,
C1R1 + T2 + $\displaystyle {\frac{{T_1T_3}}{{T_2}}}$ = T1 + T3  
C1R1 = T1 + T3 - T2 - $\displaystyle {\frac{{T_1T_3}}{{T_2}}}$ (179)

となります.

まとめると,

C1R2 = T2 = 318 [μs] (180)
C2R1 = $\displaystyle {\frac{{T_1T_3}}{{T_2}}}$ = 750 [μs] (181)
C1R1 = T1 + T3 - T2 - $\displaystyle {\frac{{T_1T_3}}{{T_2}}}$ = 2187 [μs] (182)

を満たす定数をもとめればよいことになります. C1 としてE6系列の 0.047 μF を選ぶと,
R2 = $\displaystyle {\frac{{318\times10^{-6}}}{{0.047\times10^{-6}}}}$ $\displaystyle \approx$ 6.8 [kΩ]  
R1 = $\displaystyle {\frac{{2187\times10^{-6}}}{{0.047\times10^{-6}}}}$ $\displaystyle \approx$ 47 [kΩ]  
C2 = $\displaystyle {\frac{{750\times10^{-6}}}{{47\times10^3}}}$ $\displaystyle \approx$ 0.016 [μF]  

となります. C2 としては, 0.015 μF 0.001 μF を並列にすればよいでしょう.

この回路の特性とRIAA偏差を調べましょう.

function ()
{
    f <- dec(10, 100e3, 30)     # 周波数
    s <- (0+1i) * 2 * pi * f

    # 正しいRIAA特性
    T1 <- 3180e-6
    T2 <- 318e-6
    T3 <- 75e-6
    TT <- (1+s*T2)/((1+s*T1)*(1+s*T3))

    # 容易に入手可能な定数によるRIAA特性
    R1 <- 47e3
    R2 <- 6.8e3
    C1 <- 0.047e-6
    C2 <- 0.016e-6
    T <- (1+s*C1*R2)/(1 + s*(C1*R1+C1*R2+C2*R1) + s^2*C1*C2*R1*R2)

    # 次段の入力インピーダンスが1Mohmの場合の特性
    Z <- (R2 + 1/(s*C1)) %p% (1/(s*C2)) %p% 1e6
    Tp <- Z / (R1 + Z)

    par(mfrow=c(2, 1))
    semilogplot(f, dB(cbind(T, Tp)), type="l", lty=1, col=c("red", "blue"),
        xlim=c(20, 20e3), ylim=c(-40, 0), yaxs="i",
        xlab="Frequency (Hz)", ylab="Gain (dB)")

    d <- T / TT                 # RIAA偏差
    d <- d / d[near(f, 1e3)]    # 偏差の基準を1kHzにする
    dp <- Tp / TT               # RIAA偏差(次段のZin=1Mohm)
    dp <- dp / dp[near(f, 1e3)]
    semilogplot(f, dB(cbind(d, dp)), type="l", lty=1, col=c("red", "blue"),
        xlim=c(20, 20e3), ylim=c(-1, 1), yaxs="i",
        xlab="Frequency (Hz)", ylab="RIAA error (dB)")
}
関数 near(x, v) は,値 v にもっとも近い配列 x の要素の番号(添字)を返します. したがって,d[near(f, 1e3)] は,1kHz にもっとも近い周波数のRIAA偏差の値になります. この値ですべてのRIAA偏差を割っていますから,1kHz の偏差が 1 (0dB)になります.

赤い線は次段の入力インピーダンスが無限大の場合で, 青い線は次段の入力インピーダンスが 1 MΩ の場合です. このように,次段の入力インピーダンスが低くなると, 低域のRIAA偏差がマイナス方向に大きくなります. この偏差を小さくするには,最初から次段の入力インピーダンスを含めて伝達関数を求めます.

図 45: RIAA特性
\includegraphics{figs/riaa_freq.ps}
図 46: RIAA偏差
\includegraphics{figs/riaa_error.ps}

47 (a)では,次段の入力インピーダンスとして R3 を含めました.

図 47: CR型RIAAイコライザに次段の入力インピーダンスを付加
\begin{figure}\input{figs/riaa_sch2}
\end{figure}
この R3 を(b)のように R1 の直後に移します. 点線から左側を見たインピーダンスは R1//R3 であり, この点線で切り離した時の開放電圧は viR3/(R1 + R3) ですから, テブナンの定理により,(c)のように書き直せます. したがって,R1//R3 47 kΩ になるようにすれば, RIAA特性が得られます.

たとえば, R3 = 470 kΩ とすると,R1 の値は,

R1 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{47}-\frac{1}{470}}}}$ = 52.2 [kΩ] (183)
ですから, 51 kΩ を使えばよいでしょう.

演習4

R1 = 51 kΩ, R3 = 470 kΩ とした場合のRIAA特性と, 偏差をグラフに描きましょう.
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Ayumi Nakabayashi
平成19年12月8日