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3.1 P-K分割

P-K分割回路は, 真空管のカソードとプレートに同じ値の負荷抵抗を入れることにより, 同じ大きさの出力を得る回路です(図3.1 (1)参照). 位相は,カソード側が入力と同相で,プレート側が逆相になります. カソードの電位が高くなるので,前段と直結する場合が多く, 低域の時定数を1つ減らせることから, もっぱら直結形式が使われます(図3.1 (2)参照).
図 3.1: P-K分割回路
\begin{figure}\input{figs/pk}
\end{figure}

カソード側は,カソードフォロワと同等な動作をするので, ゲインは1以下となります. また最大出力は,カソードフォロワのそれを カソード側とプレート側の2つに分けるため,1/2になります. したがって,入力電圧が大きな出力管をドライブする用途には あまり向いていません. 比較的新しい(gm の高い)多極管をドライブするのに向いています.

3.1.1 ゲイン

P-K分割回路の等価回路は,図3.2のようになります. この等価回路では, カソード側,プレート側の負荷がそれぞれ Zk, Zp となっていますが, これには,次段のグリッド抵抗や浮遊容量が含まれているものとします.
図 3.2: P-K分割回路の等価回路
\begin{figure}\input{figs/pk_equiv}
\end{figure}
これより,
ek = - iZk (3.1)
ep = iZp (3.2)
- μeg = i(rp + Zk + Zp) (3.3)
ei = eg + ek (3.4)

という関係が成り立ちます. したがって,
eg = ei - ek = ei + iZk  
- μ(ei + iZk) = i(rp + Zk + Zp)  
- μei = {rp + (1 + μ)Zk + Zp}i  
i = $\displaystyle {\frac{{-\micro e_i}}{{r_p+(1+\micro)Z_k+Z_p}}}$  
ep = - μei$\displaystyle {\frac{{Z_p}}{{r_p+(1+\micro)Z_k+Z_p}}}$ (3.5)
ek = μei$\displaystyle {\frac{{Z_k}}{{r_p+(1+\micro)Z_k+Z_p}}}$ (3.6)

となり,ゲインは以下の式になります.
Ap = - μ$\displaystyle {\frac{{Z_p}}{{r_p+(1+\micro)Z_k+Z_p}}}$ (3.7)
Ak = μ$\displaystyle {\frac{{Z_k}}{{r_p+(1+\micro)Z_k+Z_p}}}$ (3.8)

通常は,Zk = Zp とするので,負荷を Z とすれば, カソード側,プレート側ともゲイン(の絶対値)は,

| A| = μ$\displaystyle {\frac{{Z}}{{r_p + (2+\micro)Z}}}$ (3.9)
となります.

3.1.2 出力インピーダンス

3.1.2.1 プレート側

プレート側の出力インピーダンスを求めるための等価回路は, 図3.3になります.
図 3.3: P-K分割回路のプレート側の出力インピーダンスを求める等価回路
\begin{figure}\input{figs/pk_zp}
\end{figure}

i1 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{Z_p}}}$ (3.10)
i2(rp + Zk) = μeg + eo = - μek + eo = - μi2Zk + eo  
{rp + (1 + μ)Zk}i2 = eo  
i2 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{r_p+(1+\micro)Z_k}}}$  
Zop = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{i_1+i_2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{Z_p}+\frac{1}{r_p+(1+\micro)Z_k}}}}$  
  = Zp//{rp + (1 + μ)Zk} (3.11)

3.1.2.2 カソード側

プレート側の出力インピーダンスを求めるための等価回路は, 図3.4になります.
図 3.4: P-K分割回路のカソード側の出力インピーダンスを求める等価回路
\begin{figure}\input{figs/pk_zk}
\end{figure}

i1(rp + Zp) = eo - μeg = (1 + μ)eo (3.12)
i2 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{Z_k}}}$ (3.13)
i1 = $\displaystyle {\frac{{1+\micro}}{{r_p+Z_p}}}$eo  
Zok = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{i_1+i_2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{Z_k}+\frac{1+\micro}{r_p+Z_p}}}}$ (3.14)

このように,カソード側の出力インピーダンスと, プレート側の出力インピーダンスとは大幅に異なっています.

3.1.3 数値例

ここでは,12AU7を使ったP-K分割回路を解析します. 電源電圧 Ebb = 250 V, 負荷抵抗 Rk = Rp = 22 kΩ, グリッド電圧 Eg = - 6 V とします. 動作点は, Ep = 134.2252 V, Ip = 2.63125 mA で, この動作点における三定数は, gm = 1250.989 μS, rp = 12.88682 kΩ, μ = 16.12127 です.
| A| = 16.12127$\displaystyle {\frac{{22}}{{12.88682+(2+16.12127)22}}}$ = 0.8617758  
Zop = 22//{12.88682 + (1 + 16.12127)22} = 20.82397 [kΩ]  
Zok = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1}{22}+\frac{1+16.12127}{12.88682+22}}}}$ = 1.864904 [kΩ]  

3.1.4 シミュレーション例

さきほどの数値例の定数を使い,SPICEでシミュレートします. 回路は,図3.5のとおりです.
図 3.5: P-K分割回路(シミュレーション用)
\begin{figure}\input{figs/pk_spice}
\end{figure}

3.1.4.1 pk.cir

    1 P-K phase inverter with 12AU7
    2 .INCLUDE 12AU7.lib
    3 X1 1 2 3 12AU7
    4 RP 1 4 22k
    5 RK 3 0 22k
    6 *CP 1 0 0.01u
    7 *CK 3 0 0.01u
    8 *CP 1 0 220p
    9 *CK 3 0 200p
   10 VBB 4 0 250V
   11 RG 2 0 470k
   12 VI 2 0 DC 51.88741V AC 1V
   13 .control
   14 op
   15 print v(1,3) v(2,3) i(vbb)
   16 tf v(1) vi
   17 print all
   18 tf v(3) vi
   19 print all
   20 *ac dec 10 1 1meg
   21 *plot db(v(1)) db(v(3)) ylimit -5 0
   22 .endc
   23 .END

3.1.4.2 結果

    1 
    2 Circuit: P-K phase inverter with 12AU7
    3 
    4 v(1,3) = 1.342252e+02
    5 v(2,3) = -6.00000e+00
    6 i(vbb) = -2.63125e-03
    7 transfer_function = -8.61776e-01
    8 output_impedance_at_v(1) = 2.082397e+04
    9 vi#input_impedance = 4.700000e+05
   10 transfer_function = 8.617758e-01
   11 output_impedance_at_v(3) = 1.864904e+03
   12 vi#input_impedance = 4.700000e+05

3.1.5 負荷がバランスしている場合の等価出力インピーダンス

P-K分割回路の負荷は,次段のグリッド抵抗と電極間容量・浮遊容量であり, ほぼ等しい値で一定になっているはずです. こうした時に出力インピーダンスを調べる目的は, 電極間容量・浮遊容量が高域特性へどのような影響を与えるかを検討するためです.

ここで,負荷抵抗と次段のグリッド抵抗の並列抵抗値を R, 電極間容量・浮遊容量を C とすると, 負荷インピーダンスは Z = R//C より Z = 1/(1/R + j$ \omega$C) = R/(1 + j$ \omega$CR) となるので, P-K分割回路のゲインは,式(3.9)より,

| A| = μ$\displaystyle {\frac{{Z}}{{r_p + (2+\micro)Z}}}$ = μ$\displaystyle {\frac{{1}}{{r_p/Z + (2+\micro)}}}$  
  = μ$\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{1+j\omega CR}{R}r_p + (2+\micro)}}}$ = μ$\displaystyle {\frac{{R}}{{r_p+(2+\micro)R +j\omega C r_p R}}}$  
  = μ$\displaystyle {\frac{{R}}{{\{r_p+(2+\micro)R\}(1+j\omega C \frac{r_p R}{r_p+(2+\micro)R})}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{\micro R}}{{r_p+(2+\micro)R}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1}}{{1+j\omega C \frac{r_p R}{r_p+(2+\micro)R}}}}$ (3.15)

となって,カットオフ周波数を決める出力インピーダンス Z'o は,

Z'o = $\displaystyle {\frac{{r_p R}}{{r_p+(2+\micro)R}}}$ (3.16)
となります. これは,プレート側,カソード側共通です. さきほどの数値例の場合, Z'o = 688.8756 [Ω] となって, インピーダンスが非常に低いことがわかります. したがって,高域特性はかなり良くなります.

しかし,少しでもアンバランスがある場合, カソード側とプレート側でその影響は大きく異なり, 周波数特性が大きく変わってしまいます.

たとえば,カソード側の容量が大きくなると, カソード側はバイパスされ出力が減り, プレート側は電流帰還が少なくなるためゲインが上がります. 逆に,プレート側の容量が大きくなると, プレート側はバイパスされ出力が減りますが, カソード側には十分な電流帰還がかかったままですから, ゲインはあまり変わらないはずです.

3.6に, カソードおよびプレートに 100 pF または 0.01 μF を 付加した場合の周波数特性を示します. 赤い線がプレート側のゲイン, 青い線がカソード側のゲインを表わしています. 実線は,カソード,プレートとも 100 pF を付加した場合, 破線は,カソードに 100 pF, プレートに 0.01 μF を付加した場合, 点線は,カソードに 0.01 μF, プレートに 100 pF を付加した場合, 一点鎖線は,カソード,プレートとも 0.01 μF を付加した場合です.

図 3.6: P-K分割回路の周波数特性
\includegraphics{figs/pk1.ps}

実際の回路ではこれほどの差がつくことはないにしろ, 浮遊容量をピッタリ同じにできるものではありません. 例えば,プレート側に 220 pF, カソード側に 200 pF を付加した場合の 周波数特性は図3.7のようになり, 100 kHz 近辺で約 1 dB の差が付いています. カットオフ周波数も 920 kHz と 1.2 MHz のように差がでます.

図 3.7: P-K分割回路の周波数特性
\includegraphics{figs/pk2.ps}

3.1.6 設計

ロードラインの引き方は,カソードフォロワと同じです. ただし,負荷抵抗を Rk + Rp として作図します. このようにして得られた最大出力の1/2が,P-K分割回路の出力となります. 図3.8に,P-K分割のロードラインを示します.
図 3.8: P-K分割回路のロードライン
\includegraphics{figs/pk3.ps}

青い色の直線(A-O-B)が Rk + Rp のロードラインで, 動作点はこのロードラインに対して定めます. 緑色(A''-O''-B'')およびオレンジ色(A'-O'-B')の直線は, それぞれカソード,プレートの対アース電圧を表わします. これらの直線の傾き(の逆数)は,RkRp そのものです.

伝達特性のグラフは,Rの関数 trans.vol を使用して作成できます.

> Eg <- seq(0, 100, len=21)
> Eg
 [1]   0   5  10  15  20  25  30  35  40  45  50  55  60  65  70  75  80  85  90
[20]  95 100
> z <- trans.vol(t12AU7, ei=0, Ebb=250, Eg=Eg, Rp=22e3, Rk=22e3)
> matplot(Eg, cbind(z$Eo, z$Ek), type="l", lty=1)
3.9のようなグラフが描かれます.
図 3.9: P-K分割回路の伝達特性
\includegraphics{figs/pk4.ps}


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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日