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5.9 プッシュプル

5.9.1 プッシュプルのロードライン

ここでは,1次インピーダンスが5 k$ \Omega$の プッシュプル用のトランスを例にします. ある瞬間,図5.33のような電圧,電流が1次側に現れたとします.

図 5.33: プッシュプル用のトランスの電圧・電流の例
\begin{figure}\input{figs/pp_trans2}
\end{figure}
この場合,1次側の各巻線を流れる電流は等しいので,B には電流が流れていません. したがって,シングル用のトランスの場合とまったく同じ動作をしています. 1次側の電圧と電流より,1次インピーダンス Z1 は,

Z1 = $\displaystyle {\frac{{100 + 100}}{{0.04}}}$ = 5000 $\displaystyle \Omega$ (5.86)
となり,確かに5 k$ \Omega$です. この点を E11-I1 平面上で示すと(ここで I1 = I11 + I12), 図5.34のA点になります. このとき,2次側には 200 x 0.04 = 8 W の(瞬時)電力が伝わっています.
図 5.34: プッシュプル用のトランスのロードライン
\begin{figure}\input{figs/pp_load}
\end{figure}
この直線の傾きは,

$\displaystyle {\frac{{100}}{{0.08}}}$ = 1250 $\displaystyle \Omega$ (5.87)
となります. このように,E11-I1 平面上でロードラインを引くと, インピーダンスが公称1次インピーダンス Z1 の1/4のように見えます. なぜなら,公称インピーダンスは P1-P2 間の電圧と電流で定まるのに対し, E11-I1 平面上では, 電圧はその半分になり,電流はそれぞれの巻線の電流の和(2倍)になるからです. これを式で表わすと,

Z1 = $\displaystyle {\frac{{E_{11}+E_{12}}}{{I_{1}/2}}}$ = 4$\displaystyle {\frac{{E_{11}}}{{I_1}}}$ = 4Zs (5.88)
ここで,ZsE11-I1 平面上でみた トランスの合成インピーダンスです. また, I1 = I11 + I12 より,
I1 = I11 + I12  
$\displaystyle {\frac{{I_1}}{{E_{11}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{I_{11}}}{{E_{11}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{I_{12}}}{{E_{11}}}}$  
$\displaystyle {\frac{{1}}{{Z_s}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{Z_{11}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{Z_{12}}}}$ (5.89)

となり,各巻線のインピーダンスの並列合成インピーダンスは, トランスの合成1次インピーダンス(公称1次インピーダンスの 1/4)となることがわかります.

ここでは,1次インピーダンスを確認するために I11 = I12 としてみました. 2次側の負荷インピーダンス Z2 が一定で, 2次側にある出力 Po が現れているというとき, 2次巻線の電圧 E2 は一意に定まります. このとき,1次巻線の電圧は,E2 と巻数比 n によって定まります. また電力のロスがないことから, 式(5.58)より I1 = I11 + I12 も一意に定まります. E2 が2倍になれば,I2 も2倍になりますが, 同時に E11 も2倍になり,I1 も2倍になります. すなわち,E11I1 は比例し,その軌跡は直線になります. 2次につながれた負荷に支配されるのは,E11I1 の関係であって, さまざまな I11I12 の組み合わせがあってよいのです.

ここまでで,プッシュプルのトランスでは, 1次の各巻線に流れる電流 I11, I12 ではなく, 電流の和 I1 が重要であることがわかりました.


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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日