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ここでは,1次インピーダンスが5
k
の
プッシュプル用のトランスを例にします.
ある瞬間,図5.33のような電圧,電流が1次側に現れたとします.
図 5.33:
プッシュプル用のトランスの電圧・電流の例
 |
この場合,1次側の各巻線を流れる電流は等しいので,B には電流が流れていません.
したがって,シングル用のトランスの場合とまったく同じ動作をしています.
1次側の電圧と電流より,1次インピーダンス Z1 は,
Z1 = = 5000
|
(5.86) |
となり,確かに5
k
です.
この点を E11-I1 平面上で示すと(ここで
I1 = I11 + I12),
図5.34のA点になります.
このとき,2次側には
200 x 0.04 = 8 W の(瞬時)電力が伝わっています.
図 5.34:
プッシュプル用のトランスのロードライン
 |
この直線の傾きは,
= 1250
|
(5.87) |
となります.
このように,E11-I1 平面上でロードラインを引くと,
インピーダンスが公称1次インピーダンス Z1 の1/4のように見えます.
なぜなら,公称インピーダンスは P1-P2 間の電圧と電流で定まるのに対し,
E11-I1 平面上では,
電圧はその半分になり,電流はそれぞれの巻線の電流の和(2倍)になるからです.
これを式で表わすと,
Z1 = = 4 = 4Zs
|
(5.88) |
ここで,Zs は E11-I1 平面上でみた
トランスの合成インピーダンスです.
また,
I1 = I11 + I12 より,
I1 |
= |
I11 + I12 |
|
 |
= |
+  |
|
 |
= |
+  |
(5.89) |
となり,各巻線のインピーダンスの並列合成インピーダンスは,
トランスの合成1次インピーダンス(公称1次インピーダンスの 1/4)となることがわかります.
ここでは,1次インピーダンスを確認するために
I11 = I12 としてみました.
2次側の負荷インピーダンス Z2 が一定で,
2次側にある出力 Po が現れているというとき,
2次巻線の電圧 E2 は一意に定まります.
このとき,1次巻線の電圧は,E2 と巻数比 n によって定まります.
また電力のロスがないことから,
式(5.58)より
I1 = I11 + I12 も一意に定まります.
E2 が2倍になれば,I2 も2倍になりますが,
同時に E11 も2倍になり,I1 も2倍になります.
すなわち,E11 と I1 は比例し,その軌跡は直線になります.
2次につながれた負荷に支配されるのは,E11 と I1 の関係であって,
さまざまな I11 と I12 の組み合わせがあってよいのです.
ここまでで,プッシュプルのトランスでは,
1次の各巻線に流れる電流 I11, I12 ではなく,
電流の和 I1 が重要であることがわかりました.
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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日