この節では,6L6-GCを使ったシングル出力段の設計方法を検討します. 6L6-GCのプレート特性図を,図2.18に示します. ただし,プレート損失(青い点線)は,オリジナルのメタル管6L6の 19W で描いてあります.
まず,GEが発表している動作例を見てみます. GEのデータシートによれば,
Ep0 | 250V |
Eg20 | 250V |
Ip0 | 72mA |
Ig20 | 5mA |
Eg0 | - 14V |
RL | 2500 Ω |
三極管の場合と同様に計算します.
式(2.22)より,最大出力は,
Po | |||
= | = 5.64 [W] |
正確な出力は,5.92W でした. 三極管の場合は,簡易的な計算方法と正確な出力がほぼ一致しましたが, 多極管の場合は3次歪みが多いため,無帰還時の出力は大きくなります. 負帰還をかけると歪みが減り,三極管と同様に,
Po = = = 5.38 [W] | (2.33) |
3次歪みの発生は,Eg = 0 に近づくにつれ, ロードラインと特性曲線の曲がっている部分が交差するようになるからです. 伝達特性を求めると,図2.19のようになり, Eg = 0 に近づくと,プレート電流の増え方が鈍くなっているようすがよくわかります.
図2.20では,負荷インピーダンスを標準動作例の 1/2 と2倍にした場合のロードラインを描いています.
負荷インピーダンスを高くすると, ロードラインは A' OB' となり, 入力の正のサイクルで著しくクリップするようになります.
一方,負荷インピーダンスを低くしていくと, ロードラインは A'' OB'' となり, プレート電流が増えない割に電圧の振幅が減り,出力も減ることになります. 三極管の場合とは異なり,カットオフが生じることはまずありません.
出力がもっとも大きくなるのは, ロードラインが湾曲しているニーポイントを通る場合で, GEの動作例がほぼ最適であることがわかります.
プレート電圧とプレート電圧を一定にして, 負荷インピーダンスを変化させた場合に 取り出しうる最大出力やその時の歪率をグラフにしたものが, 図2.21です.
負荷インピーダンスを高くしていくと出力が増えるように見えますが, この時の波形は激しく歪んでおり,実用になりません. 最適な負荷は 2 4 kΩ でしょう.
多極管シングルの場合,負荷の範囲は非常に限定されます. 特に,シングルでは多くの場合において Ep0 = Eg20 としますが, このとき,ニーポイントが 2Ip0 にあるのが理想的です. 6L6-GCで Ep0 = 250 V とすると, ニーポイントは Ep = 50 V , Ip = 150 mA ですから, Ip0 = 75 mA となります. このときプレート損失は, 250 . 0.075 = 18.75 W で, 6L6-GCの最大定格 30W を大幅に下回っています. これは,メタル管の6L6のプレート損失の定格に合うよう設計されているためで, シングルでは6L6-GCの大きくなったプレート損失を生かせません.
プレート損失いっぱいの動作としては, 次のようなものが考えられます.
Ep0 | 300V |
Eg20 | 300V |
Ip0 | 90mA |
Ig20 | 6.1mA |
Eg0 | - 16.1V |
RL | 2500 Ω |
このとき出力は 9.83W,歪率は10.9%です. プレートとスクリーングリッドの電流と損失の波形は, 図2.23のようになります. スクリーングリッド損失が最大になるのは最大出力時で, 3.13W ですから定格(5W)内であることがわかります.
ayumi