通常のプッシュプル接続(図5.1)では, 出力トランスの一次側の巻線は2つの部分に分かれています. 動作点を深いAB級やB級にすると, 片側の真空管のプレート電流がカットオフする瞬間が生じます. このとき,片側の巻線はどこにも接続されない状態となり, 出力トランスの高域特性に悪影響を与えます. 特に,片側の真空管がカットオフした瞬間に, 巻線の浮遊容量と漏れインダクタンスにより共振が生じることがあり, これをスイッチング・トランジェントと呼んでいます.
このスイッチング・トランジェントを防ぐには, 出力トランスの一次巻線間の結合係数を高めればよいのですが, 出力トランスの構造を工夫するのにも限界があるため, 出力回路を含めた改善が1940年代の終わりから1950年代の始めにかけて 研究されました. こうした回路としては, マッキントッシュ(ユニティー・カップル)回路, シングル・エンデッド・プッシュプル(SEPP)回路, クロス・シャント・プッシュプル(CSPP)回路, サークロトロン(Circlotron)回路などがあります. これらはいずれも プッシュプルの2本の出力管のプレートと相手のカソードを接続し, その接続点から出力を取り出す,という共通点があります. ここでは,これらの回路をまとめて並列合成プッシュプルと呼ぶことにします.