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5.2 並列合成プッシュプル出力段の設計

標準プッシュプルの合成 Ep -Ip 特性(第4.1.2節)の 横軸は一方の真空管のプレート電圧で, 縦軸は2本の真空管のプレート電流の差, すなわち2本の真空管を逆向きに接続した場合のプレート電流の合計となっています. これは,並列合成プッシュプル回路の負荷の電圧と電流の関係そのものですから, 合成 Ep -Ip 特性に負荷抵抗のロードラインを引いて設計すればよいわけです.

標準プッシュプルの出力トランスの巻数比を 2n : 1 とすれば, 並列合成プッシュプルの出力トランスの巻数比は n : 1 となるので, 標準プッシュプルの出力トランスの一次インピーダンス(プレート-プレート間)と 並列合成プッシュプルの出力トランスの一次インピーダンス(プレート-カソード間)の 比は 4 : 1 となります. 標準プッシュプルの合成ロードラインは,一次インピーダンスの 1/4 で引きましたが, 並列合成プッシュプルではその必要はなく,負荷インピーダンスそのものでよいわけです.

このように,並列合成プッシュプルでは, 同じ真空管を用いても負荷インピーダンスを標準プッシュプルの 1/4 にできるので, 巻数比の小さい,高域の性能をより良くできる出力トランスを使えます. また,最適負荷のインピーダンスが 1/4 と小さくなることから, OPTには有利となります.

6L6のA級プッシュプルを例にとって, DEPPを含む各種回路のシミュレーションを行っていきます. 動作点は Ep0 = 270 V , Eg10 = - 17.5 V , Eg20 = 270 V で,プレート-プレート間の負荷は5kΩ です. データシートによれば,17.5Wの出力が得られ, 歪率は2%となっています. ロードラインは,図5.9のようになります.

図 5.9: 6L6 A級プッシュプルのロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_6L6_depp_ll.ps}
緑色の線が合成プレート特性です. 青色の線は合成ロードラインで,1.25kΩ で引いてあります. 水色の線は各管のロードラインです.

5.2.1 DEPPのシミュレーション

トランスの巻数比は 2 : 1 です. シミュレーションでは,一次巻線の左上の一つに対する巻数比を指定するので, Prim. 2, Sec. 1とも1を指定します. 一次巻線のインダクタンスは100H, 一次巻線間の結合係数は0.99995, 一次と二次の結合係数は0.9999としました.

図 5.10: DEPPのシミュレーション回路
Image 6L6_depp_sch
図 5.11: DEPPのプレート電流波形
Image 6L6_depp_tran_ip
図 5.12: DEPPの電圧波形
Image 6L6_depp_tran_ep
出力電圧の実効値は150.4V, 出力は 150.42/1250 = 18.1 W , 歪率は(10周期で) 1.44%でした.

5.2.2 直列給電SEPPのシミュレーション

図 5.13: 直列給電SEPPのシミュレーション回路
Image 6L6_sepp1_sch
ここでは,出力トランスレスとし, スクリーン電源は,独立の電源を使用しています. 電流波形や電圧波形はDEPPとまったく同じなので,省略します. 出力および歪率もDEPPと変わりません.

5.2.3 並列給電SEPPのシミュレーション

DEPPと同じトランスを使用しています.
図 5.14: 並列給電SEPPのシミュレーション回路
Image 6L6_sepp2_sch

この回路では,U1のスクリーングリッド電流が, 出力トランスの上側の巻線に流れて出力に影響しそうに思われますが, 信号成分はC1を流れ,出力トランスには流れません.

5.2.4 マッキントッシュ回路のシミュレーション

片側の真空管の負荷となる一次側の巻線2つと二次巻線の巻数比が 1 : 1 となります. シミュレーションでは,一次巻線の左上の一つに対する巻数比を指定するので, Prim. 2〜4は1を,Sec. 1は2を指定します. 一次巻線のインダクタンスは25H, 一次巻線間の結合係数は0.99998, 一次と二次の結合係数は0.99992としました.
図 5.15: マッキントッシュ回路のシミュレーション回路
Image 6L6_mcintosh_sch

スクリーングリッドは,反対側のプレートに接続して給電しています. スクリーングリッド電流は,2つの巻線を逆方向に流れるので, 直流成分も信号成分もキャンセルされ,出力に影響しません.

5.2.5 CSPPのシミュレーション

トランスの巻数比は 1 : 1 です. Prim. 2は1を,Sec. 1は2を指定します. 一次巻線のインダクタンスは25H, 一次巻線間の結合係数は0.99995, 一次と二次の結合係数は0.9999としました. カソードにはチョークコイルを使用しています.
図 5.16: CSPPのシミュレーション回路
Image 6L6_cspp_sch

スクリーングリッドは,反対のプレートから供給しています. U1のスクリーングリッドの信号電流はC1を流れ,出力トランスを流れません.

5.2.6 サークロトロンのシミュレーション

図 5.17: サークロトロンのシミュレーション回路
Image 6L6_circlotron_sch
スクリーングリッドは,反対側のプレートに接続して給電しています. U1のスクリーングリッド電流は,Vb2を通り,負荷には流れません.

ayumi
2016-03-07