Subsections

5.3 CSPPのゲインと出力インピーダンス

マッキントッシュに代表されるCSPP回路では, 原理的には真空管のグリッド-カソード間に入力を加えますが, 実際の回路でそれを実現するのは,段間トランスを使う場合を除いては困難であり, 一般に対グラウンドでグリッドに信号を与えます. そのようにすると,各真空管には出力の50%の帰還がカソードにかかり, 半カソードフォロアとして働きます. それに伴い,大きな励振電圧が必要になり, 高いドライブ電圧を得るために ドライブ段にブートストラップが用いられることが多くなります. CSPP出力段とドライブ段を同時に解析することにより, 回路設計の指針を得ることが本節の目的です.

5.3.1 対グラウンドドライブ,ブートストラップなしの場合

プッシュプルのままで回路を解析するのは大変なので, シングルの回路で検討します. 回路図は,図5.18となります.
図 5.18: CSPPの片側を取り出した回路
\begin{figure}\input{figs/cspp_single_sch}
\end{figure}
P-K間の負荷インピーダンスを RL1 とします. この負荷インピーダンスは,プッシュプルの場合の2倍になります.

5.3.1.1 ゲイン

ゲインを求める等価回路は,図5.19となります.
図 5.19: CSPPの等価回路
\begin{figure}\input{figs/cspp_equiv}
\end{figure}
CSPPの負荷はプレートとカソードに分割されていますが, 三極管であればスクリーングリッド電流がないため, プレート電流とカソード電流が等しくなり, それぞれ RL1/2 の抵抗負荷と考えることができます. また,多極管であっても,スクリーングリッドがカソードに交流的に接続してあれば (図5.29のような場合), スクリーン電流は2つの巻線を逆方向に流れるため,無視することができ, 三極管の場合と同様に考えることができます.

等価回路より,

eg1 = e2 + e3 (5.1)
eo = - gm1eg1(rp1//RL1) (5.2)
e3 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{2}}}$ (5.3)

これより,
eg1 = e2 + $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{2}}}$  
eo = - gm1(rp1//RL1)$\displaystyle \Bigl($e2 + $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{2}}}$$\displaystyle \Bigr)$  
$\displaystyle \Bigl\{$1 + $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$gm1(rp1//RL1)$\displaystyle \Bigr\}$eo = - gm1(rp1//RL1)e2  
eo = - $\displaystyle {\frac{{g_{m1} (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}g_{m1} (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$e2  

したがって,出力段のゲイン A1 は,

A1 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{e_2}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{g_{m1} (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}g_{m1} (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ (5.4)
ここで,CSPP接続でない,普通の出力段のゲインを A1$\scriptstyle \prime$ とおくと,

A1$\scriptstyle \prime$ = - gm1(rp1//RL1) (5.5)
であるから,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\vert{A_1}'\vert}}{{\vert{A_1}'\vert/2 + 1}}}$ (5.6)
と表せます. これより負帰還量 F は,

F = $\displaystyle {\frac{{\vert{A_1}'\vert}}{{2}}}$ + 1 (5.7)
となります.

5.3.1.2 出力インピーダンス

プレート-カソード間に電圧 e0 を加えたときに, この電圧源から流れる電流 i を求め, Zo = e0/i により出力インピーダンスを求めます.
図 5.20: CSPPの出力インピーダンスを求める等価回路
\begin{figure}\input{figs/cspp_zo_equiv}
\end{figure}
このとき,プレート-グラウンド間には e0/2 が加わり, グラウンド-カソード間にも e0/2 が加わるので, 等価回路は図5.20となり,
eg1 = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ (5.8)
i1 = gm1eg1 = $\displaystyle {\frac{{g_{m1} e_0}}{{2}}}$ (5.9)
i2 = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{r_{p1}}}}$ (5.10)
i = i1 + i2 = $\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{g_{m1}}}{{2}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{r_{p1}}}}$$\displaystyle \Bigr)$e0 (5.11)

これらより,出力インピーダンス Zo は,
Zo = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{i}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{g_{m1}}{2} + \frac{1}{r_{p1}}}}}$ (5.12)
  = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{g_{m1} r_{p1}/2 + 1}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{\mu_1/2 + 1}}}$ (5.13)

となります. また,出力インピーダンスは,rp1 と電流源のインピーダンスが並列になったもの,と解釈できるので,式(5.12)を変形して,

Zo = rp1//$\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$ (5.14)
としても求められます. これより,内部抵抗の高い多極管の場合,rp1 を無視して,

Zo $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$ (5.15)
と近似することができます.

5.3.1.3 数値例

ここでは,3.5節の6L6-GCの例と同じ負荷,動作点の例を取り上げます.

5.3.1.3.1 三極管接続の場合

動作点は,Ep = 250 V,Eg = - 20 V,Ip = 39.48 mAで, 三定数は, gm1 = 4.142 mS, rp1 = 1808 Ω $ \mu_{1}^{}$ = 7.489 です. 負荷は RL1 = 5 kΩ です.

プレート特性図とロードラインは,図5.21のようになります.

図 5.21: 6L6(T)のプレート特性図とロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_6L6T_ll.ps}

出力段のゲインは,式(5.4)より,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m1} (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}g_{m1} (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{4.142 \times (1.808 // 5)}}{{\frac{1}{2} \times 4.142 \times (1.808 // 5) + 1}}}$ = - 1.467

負帰還量は,

F = $\displaystyle {\frac{{\vert{A_1}'\vert}}{{2}}}$ +1 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$gm1(rp1//RL1) + 1 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$ x 4.142 x (1.808//5) + 1 = 3.750 = 11.48 dB

となります.

出力インピーダンスは,

Zo = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{\mu_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1808}}{{7.489/2 + 1}}}$ = 381.1 $\displaystyle \mbox{[$\ohm$]}$

となります.

尖頭値が87.414Vの入力を加えた時, カソードの電圧は67.414Vとなりますので, グリッド電圧は -20 + 87.414 - 67.414 = 0 V となり, フルスイング状態になります. このときのプレート電圧は115.2V,プレート電流は66.45mAとなります. -87.414 Vの入力を加えた時, カソードの電圧は-60.710 Vとなりますので, グリッド電圧は -20 - 87.414 + 60.71 = - 46.704 V となります. グリッドバイアス-20 Vの2倍とはならないことに注意してください. 入力の負側では出力波形が潰れるので,カソードに生じる負の電圧が小さくなり, 入力の打ち消しが少なくなるためです. このときのプレート電圧は371.4V,プレート電流は15.20mAとなります. 出力電圧(プレート電圧)の実効値は90.65V, 出力電力は 90.652/5000 = 1.643 W , 歪率は2.62%でした.

5.3.1.3.2 ビーム管接続の場合

動作点は,Ep = 250 V,Eg = - 20 V, Eg2 = 250 V,Ip = 36.92 mAで, 三定数は, gm1 = 3.873 mS, rp1 = 55.97 kΩ $ \mu_{1}^{}$ = 216.8 です. 負荷は RL1 = 5 kΩ です.

プレート特性図とロードラインは,図5.22のようになります.

図 5.22: 6L6のプレート特性図とロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_6L6_ll.ps}

出力段のゲインは,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m1} (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}g_{m1} (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{3.873 \times (55.97 // 5)}}{{\frac{1}{2} \times 3.873 \times (55.97 // 5) + 1}}}$ = - 1.798

負帰還量は,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$gm1(rp1//RL1) + 1 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2}}}$ x 3.873 x (55.97//5) + 1 = 9.889 = 19.90 dB

となります.

出力インピーダンスは,

Zo = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{\mu_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{55970}}{{216.8/2 + 1}}}$ = 511.7 $\displaystyle \mbox{[$\ohm$]}$

となります.

尖頭値が110.08Vの入力を加えた時, カソードの電圧は100.0Vとなりますので, グリッド電圧は -20 + 110.08 - 100.0 = - 9.92 V となります. このときのプレート電圧は50.00V,プレート電流は76.92mAとなります. -110.08 Vの入力を加えた時, カソードの電圧は-89.47 Vとなりますので, グリッド電圧は -20 - 110.08 + 89.47 = - 40.61 V となります. 三極管接続の場合と同じように,入力のマイナス側で グリッド電圧の波形が伸びるようになります. このときのプレート電圧は428.9V,プレート電流は1.13mAとなります. 出力電圧(プレート電圧)の実効値は136.2V, 出力電力は 136.22/5000 = 3.712 W , 歪率は2.97%でした.

5.3.1.4 シミュレーション

CSPPの片側をシミュレートするのに使用する出力トランスは, 一次巻線が3組で,二次巻線が1組の理想トランスを使用します. パラメータの設定を図5.23に示します.
図 5.23: 出力トランスのパラメータ
Image CSPP_single_transformer
一次と二次の巻数比は 1 : 2 で,二次に規定の負荷を接続すれば, P-K間のインピーダンスが規定の値となります. 一次巻線間の結合係数は0.99999, 一次巻線と二次巻線の結合係数は0.99998としていますが, ドライブ段が五極管,出力段がビーム管接続のときに, 過渡解析で発振してしまう場合があるので, その場合には,一次巻線間の結合係数を1とすれば発振しないようです.

5.3.1.4.1 三極管接続の場合

ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.24に示します.
図 5.24: 三極管接続のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 6L6T_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.25に示します.
図 5.25: 三極管接続のゲイン
Image 6L6T_CSPP_gain_ac
図より,ゲインは1.467倍となりました.

尖頭値が87.24Vの入力を加えた時の各部の波形を, 図5.26に示します.

図 5.26: 三極管接続の各部の波形
Image 6L6T_CSPP_gain_tran
図より,出力電圧の実効値が90.72Vなので, 出力は Po = Vo2/RL = 90.722/5000 = 1.646 W となりました.

出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路を, 図5.27に示します.

図 5.27: 三極管接続の出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路
Image 6L6T_CSPP_zo_sch
AC解析の結果を, 図5.28に示します.
図 5.28: 三極管接続の出力インピーダンス
Image 6L6T_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは 381.1Ω となりました.

5.3.1.4.2 ビーム管接続の場合

ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.29に示します.
図 5.29: ビーム管接続のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 6L6_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.30に示します.
図 5.30: ビーム管接続のゲイン
Image 6L6_CSPP_gain_ac
図より,ゲインは1.798倍となりました.

尖頭値が110.08Vの入力を加えた時の各部の波形を, 図5.31に示します. この入力電圧は,プレート-カソード間の最小電圧が50Vとなる電圧です.

図 5.31: ビーム管接続の各部の波形
Image 6L6_CSPP_gain_tran
図より,出力電圧の実効値が136.4Vなので, 出力は Po = Vo2/RL = 136.42/5000 = 3.721 W となりました. ビーム管接続のネイティブ動作の場合,出力は2.9W程度でしたが, それよりはるかに大きな出力が得られています. カソード帰還により,出力波形に含まれる2次歪が減っており, プレート-カソード間の電圧が高くなる場合に潰れていた波形が伸びたため, 出力が大きくなったものです.

出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路を, 図5.32に示します.

図 5.32: ビーム管接続の出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路
Image 6L6_CSPP_zo_sch
AC解析の結果を, 図5.33に示します.
図 5.33: ビーム管接続の出力インピーダンス
Image 6L6_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは 511.7Ω となりました.

5.3.2 ドライブ段にブートストラップをかけた場合

CSPP出力段のゲインは2弱であり, ドライブに高電圧を必要とします. 大きな出力電圧を得るためにはドライブ段の電源電圧を高くすればよいのですが, 電源回路を簡単にするため, 出力段からブートストラップをかけることがよく行われます. ブートストラップは,出力点とほぼ同じ波形が生じている点の電圧を ドライブ段のプレート負荷抵抗の電源側に重畳させることにより 達成されます. ドライブ段の出力点は出力段のグリッドに接続されており, それと同相でほぼ等しい波形が出力段のカソードに生じています. そこで,出力段のカソードからブートストラップ用のコンデンサを経由して ドライブ段のプレート側に加えればよいのですが, プッシュプル出力段の場合,反対側のプレートにはカソードと同位相の波形が 生じているので,これをそのままドライブ段の電源とすれば, ブートストラップ用のコンデンサも不要となるので, この形式の回路がよく使われています(図5.46参照).

5.3.2.1 ゲイン

5.3.2.1.1 簡易版--バッファ付き

ブートストラップをかけると, ドライブ段のプレート負荷抵抗 RL2 を流れる電流が出力信号の一部となりますが, 解析が難しくなるため, 出力段とドライブ段の間にバッファを入れています. 等価回路は,図5.34のようになります.
図 5.34: ドライブ段にブートストラップをかけた場合の等価回路(バッファ付き)
\begin{figure}\input{figs/cspp_bs_equiv}
\end{figure}
ブートストラップをかけても,出力段のゲインは変わりませんが, ドライブ段のゲインは変わります.

等価回路より,

- gm2e1 = i1 + i2 (5.16)
  = $\displaystyle {\frac{{e_2}}{{r_{p2}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{e_2 + e_3}}{{R_{L2}}}}$ (5.17)
e3 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{A_1}}{{2}}}$e2 (5.18)

これを式(5.17)に代入して,
- gm2e1 = $\displaystyle {\frac{{1}}{{r_{p2}}}}$e2 + $\displaystyle {\frac{{A_1/2 + 1}}{{R_{L2}}}}$e2 = $\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{1}}{{r_{p2}}}}$ + $\displaystyle {\frac{{A_1/2 + 1}}{{R_{L2}}}}$$\displaystyle \Bigr)$e2  
  = $\displaystyle {\frac{{e_2}}{{r_{p2} // \frac{R_{L2}}{A_1/2 + 1}}}}$  
e2 = - gm2$\displaystyle \Bigl($rp2//$\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$$\displaystyle \Bigr)$e1  
A2 = $\displaystyle {\frac{{e_2}}{{e_1}}}$ = - gm2$\displaystyle \Bigl($rp2//$\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (5.19)

これは,ブートストラップにより, 負荷抵抗の値が 1/(A1/2 + 1) 倍に大きくなったことと 等価であることを表しています.

この式をさらに変形していくと,

A2 = - gm2$\displaystyle {\frac{{\frac{r_{p2} R_{L2}}{A_1/2 + 1}}}{{r_{p2} + \frac{R_{L2}}{A_1/2 + 1}}}}$ = - gm2$\displaystyle {\frac{{r_{p2} R_{L2}}}{{\frac{A_1}{2} r_{p2} + r_{p2} + R_{L2}}}}$ = - gm2$\displaystyle {\frac{{\frac{r_{p2} R_{L2}}{r_{p2} + R_{L2}}}}{{\frac{\frac{A_1}{2} r_{p2} + r_{p2} + R_{L2}}{r_{p2} + R_{L2}}}}}$  
  = - gm2$\displaystyle {\frac{{r_{p2} // R_{L2}}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$  

ブートストラップをかける前のドライブ段のゲインを A2$\scriptstyle \prime$ = - gm2(rp2//RL2) とおけば,

A2 = $\displaystyle {\frac{{{A_2}'}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ (5.20)
したがって,ブートストラップによるPFB量 F は,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ (5.21)
となります.

5.3.2.1.2 ブートストラップによる出力段の動作の変化

5.34)において, ドライブ段の負荷抵抗 RL2 を流れる電流 i2 は, 出力トランスのカソード側の巻線に流れますが,プレート側の巻線には流れません. このように巻線間で流れる電流が異なるとき, プッシュプル出力段のように,各巻線のインピーダンスは異なります. i2 を半分に分け,プレート側,カソード側を通して流れるようにすれば, 巻線がひとつのシングルのOPTと同様に扱えます. したがって,等価回路を図5.35のようにすれば, 出力トランスを流れるブートストラップ電流を正しく反映したことになります.
図 5.35: ドライブ段にブートストラップをかけた場合の等価回路
\begin{figure}\input{figs/cspp_bs_equiv2}
\end{figure}
ドライブ段の動作は変わりません.

等価回路より,

eg1 = e2 + e3 (5.22)
eo = - $\displaystyle \Bigl($gm1eg1 + $\displaystyle {\frac{{i_2}}{{2}}}$$\displaystyle \Bigr)$(rp1//RL1) = - $\displaystyle \Bigl($gm1eg1 + $\displaystyle {\frac{{e_{g1}}}{{2 R_{L2}}}}$$\displaystyle \Bigr)$(rp1//RL1) (5.23)
e3 = $\displaystyle {\frac{{e_o}}{{2}}}$ (5.24)

が得られ,この式から eg1 , e3 を消去すればゲインを求められますが, 出力段の gm が,gm1 から gm1 +1/2RL2 に増えた, と考えることもできるので, 式(5.4)の gm1 gm1 +1/2RL2 に置き換えて,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ (5.25)
が得られます.

5.3.2.2 出力インピーダンス

5.3.2.2.1 簡易版--バッファ付き

出力インピーダンスを求めるとき,ドライブ段のグリッドはグラウンドに接続し, ドライブ段のカソードはグラウンドであるため, ドライブ段V2の電流源は除去できます. したがって,等価回路は図5.36のようになります.
図 5.36: ブートストラップをかけた場合の出力インピーダンスを求める等価回路(バッファ付き)
\begin{figure}\input{figs/cspp_bs_zo_equiv}
\end{figure}

等価回路より,

eg1 = e2 + $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ (5.26)
i1 = gm1eg1 (5.27)
i2 = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{r_{p1}}}}$ (5.28)
e2 = - $\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{r_{p2} + R_{L2}}}}$ . $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ (5.29)

これより,
eg1 = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ - $\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{r_{p2} + R_{L2}}}}$ . $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ = $\displaystyle \Bigl($1 - $\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{r_{p2} + R_{L2}}}}$$\displaystyle \Bigr)$$\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{r_{p2} + R_{L2}}}}$ . $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$  
i1 = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{r_{p2} + R_{L2}}}}$ . gm1$\displaystyle {\frac{{e_0}}{{2}}}$  
Zo = $\displaystyle {\frac{{e_0}}{{i}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{R_{L2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{g_{m1}}{2} + \frac{1}{r_{p1}}}}}$ (5.30)
  = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{\frac{R_{L2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{r_{p1} g_{m1}}{2} + 1}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{r_{p1}}}{{\frac{R_{L2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{\mu_1}{2} + 1}}}$ (5.31)

ブートストラップがない場合と同様に, 式(5.30)を変形すると,

Zo = rp1//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ (5.32)
となります. 多極管の場合は,rp1 が大きいので,

Zo $\displaystyle \approx$ $\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$ (5.33)
と近似できます.

5.3.2.2.2 ブートストラップ電流を考慮する場合

5.36において,バッファがないとすると, ドライブ段の負荷抵抗 RL2 を流れる電流 i3 は, 下側の電圧源のみから供給されます. 上下の電圧源から等しい電流が流れるようにするには, この半分の電流 i3/2 が上下の電圧源を通して流れるようにすればよく, P-K間に 4(rp2 + RL2) の抵抗が接続された,と考えます.
図 5.37: ブートストラップをかけた場合の出力インピーダンスを求める等価回路
\begin{figure}\input{figs/cspp_bs_zo_equiv2}
\end{figure}
このようにしてできた等価回路は,図5.37のようになります. したがって,出力インピーダンスは,

Zo = rp1//4(rp2 + RL2)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ (5.34)
となります.


5.3.2.3 数値例

5.3.2.3.1 ドライブ段が三極管の場合

ドライブ段として12AU7を使い, 動作点を,Ep = 200.9 V, Eg = - 9.942 V,Ip = 3.013 mAとすると, 三定数は, gm2 = 1.153 mS, rp2 = 13.44 kΩ $ \mu_{2}^{}$ = 15.49 となります. 負荷は RL2 = 13 kΩ ,出力段のグリッド抵抗は 100 kΩ とします.

5.3.2.3.1.1 出力段が三極管接続の場合
出力段のロードラインを,図5.38に示します.
図 5.38: 12AU7-6L6(T)の出力段のロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_12AU7_6L6T_bs_ll.ps}
青色の線が5kΩ のロードライン, 水色の線が6L6(T)のプレート電圧とプレート電流です. 水色の線が青色の線よりも寝ています. すなわち,出力管の負荷は,実際のトランスのインピーダンスよりも高くなっています. 水色の線と青色の線の差が,ドライブ段の電流寄与分の1/2となっています.

入力に,87.8007Vを加えた時, プレート電圧は114.3986Vとなり, 250 - 114.3986 = 135.6014 V 下降します. この半分がカソード電圧の上昇となり,カソードの電圧は67.8007Vとなります. グリッド電圧は 87.8007 - 67.8007 - 20 = 0 V となって, フルスイングの状態です. このとき,プレート電流は65.8354mAで, 65.8354 - 39.4842 = 26.3512 mA 増えています. kΩ のロードラインによる電流の増加は, 135.6014/5 = 27.1203 mA となるはずですから, したがって,ドライブ段のプレート電流の変化(減少)は 0.7691 x 2 = 1.5382 mA です.

同様に,入力に -87.8007 V を加えた時, プレート電圧は372.6701Vとなり, 372.6701 - 250 = 122.6701 V 上昇します. この半分がカソード電圧の下降となり,カソードの電圧は -61.3350 V となります. グリッド電圧は -87.8007 + 61.3350 - 20 = - 46.4657 V となります. このとき,プレート電流は15.9681mAで, 39.4842 - 15.9681 = 23.5161 mA 減っています. kΩ のロードラインによる電流の減少は, 122.6701/5 = 24.5340 mA となるはずですから, 差の 24.5340 - 23.5161 = 1.0179 mA がドライブ段のプレート電流の変化の半分ということになります. したがって,ドライブ段のプレート電流の変化(増加)は 1.0179 x 2 = 2.0358 mA です.

このように,出力段に対称な波形を加えた時であっても, 出力の波形は対称にならず,それがカソードに帰還されるため, グリッド電圧の波形も対称にならず,ロードライン(水色)はわずかに湾曲します. この場合の例では,プラスの入力の時にグリッド電圧は20V上昇し, マイナスの入力の時に26.4657V下降していることになります.

実際には,ドライブ段に対称な波形を加えても, ドライブ段の出力には歪んだ波形が生じるので, 状況はさらに複雑になります.

出力段のゲインは,式(5.25)より,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(4.142 + \frac{1}{2 \times 13}\bigr) (1.808 // 5)}}{{\frac{1}{2}\bigl(4.142 + \frac{1}{2 \times 13}\bigr) (1.808 // 5) + 1}}}$ = - 1.470

となります.

このとき,ドライブ段の負荷抵抗は,ブートストラップにより,

RL2$\scriptstyle \prime$ = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{13}}{{-1.470/2 + 1}}}$ = 49.06 [kΩ]

となるため,交流負荷は 49.06//100 = 32.92 kΩ となります.

ドライブ段のプレート特性図とロードラインは, 図5.39のようになります.

図 5.39: 12AU7のプレート特性図とロードライン(出力段が三極管接続の場合)
\includegraphics{figs/pow_para_12AU7_6L6T_drive_ll.ps}
緑色の線は 13 kΩ の直流ロードライン, 青色の線は交流ロードラインです. ブートストラップがないときの交流ロードラインは破線で示してあります.

出力段のグリッド抵抗は,ブートストラップされていないので,ドライブ段の内部抵抗と並列に接続されるとして計算します. したがって,ここでは rp2 = 13.44//100 = 11.84 kΩ として計算します.

ドライブ段のゲインは,式(5.20)より,

A2 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m2} (r_{p2} // R_{L2})}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{1.153 \times (11.84 // 13)}}{{\frac{11.84}{11.84 + 13} \cdot \frac{-1.470}{2} + 1}}}$ = - 11.00

PFB量は,式(5.21)より,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{11.84}{11.84 + 13} \cdot \frac{-1.470}{2} + 1}}}$ = 1.540 = 3.75 dB

となります.

出力インピーダンスは,式(5.34)より,

Zo = rp1//4(rp2 + RL2)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$  
  = 1808//4 x (11, 840 + 13, 000)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{11.84}}{{13}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{0.004142}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ = 607.2 [Ω]  

となります.

水色の線は,尖頭値が9.3189Vの入力を加えた時の, 出力段の非線形性を考慮に入れたドライブ段のロードラインです. これは,ドライブ段のプラス側の出力が87.8Vとなる入力電圧です. これにより,出力段のグリッド電圧が0Vとなります. 一方で,マイナス側の振幅は120.7Vとなりますが, カットオフには至らないようです.

動作点付近では,青色の線と水色の線が接していますが, 水色の線はやや弓なりに反っています. このときのドライブ段の歪率は7.92%, 出力の歪率は4.71%ですので, ドライブ段と出力段で歪の打ち消しが起こっていますが, ドライブ段の歪率が優勢となっています. 出力段の出力電圧は106.2V, 出力は2.257Wとなりました.

5.3.2.3.1.2 出力段がビーム管接続の場合
出力段のロードラインを,図5.40に示します.
図 5.40: 12AU7-6L6の出力段のロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_12AU7_6L6_bs_ll.ps}
青色の線が5kΩ のロードライン, 水色の線が振幅110.0187Vの入力を加えた時の6L6のプレート電圧とプレート電流です.

出力段のゲインは,式(5.25)より,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(3.873 + \frac{1}{2 \times 13}\bigr) (55.97 // 5)}}{{\frac{1}{2}\bigl(3.873 + \frac{1}{2 \times 13}\bigr) (55.97 // 5) + 1}}}$ = - 1.800

となります.

このとき,ドライブ段の負荷抵抗は,ブートストラップにより,

RL2$\scriptstyle \prime$ = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{13}}{{-1.800/2 + 1}}}$ = 129.7 [kΩ]

となるため,交流負荷は 129.7//100 = 56.47 kΩ となります.

ドライブ段のプレート特性図とロードラインは, 図5.41のようになります.

図 5.41: 12AU7のプレート特性図とロードライン(出力段がビーム管接続の場合)
\includegraphics{figs/pow_para_12AU7_6L6_drive_ll.ps}
緑色の線は 13 kΩ の直流ロードライン, 青色の線は交流ロードラインです. ブートストラップがないときの交流ロードラインは破線で示してあります.

ドライブ段のゲインは,

A2 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m2} (r_{p2} // R_{L2})}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{1.153 \times (11.84 // 13)}}{{\frac{11.84}{11.84 + 13} \cdot \frac{-1.800}{2} + 1}}}$ = - 12.51

PFB量は,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{11.84}{11.84 + 13} \cdot \frac{-1.800}{2} + 1}}}$ = 1.750 = 4.86 dB

となります.

出力インピーダンスは,

Zo = rp1//4(rp2 + RL2)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$  
  = 55, 970//4 x (11, 840 + 13, 000)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{11.84}}{{13}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{0.003873}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ = 960.4 [Ω]  

となります.

水色の線は,尖頭値が8.16Vの入力を加えた時の, 出力段の非線形性を考慮に入れたドライブ段のロードラインです. ドライブ段の2次歪により,出力段には負側が伸びた波形が加えられるため, プレート電圧の最低値が50Vに達する前にカットオフしてしまいます. 動作点付近では,青色の線と水色の線が接していますが, 水色の線はやや弓なりに反っています. このときのドライブ段の歪率は3.86%, 出力の歪率は1.86%ですので, ドライブ段と出力段で歪の打ち消しが起こっていますが, ドライブ段の歪率が優勢となっています. 出力段の出力電圧は126.8V, 出力は3.215Wとなりました.

プレート損失には余裕があるため, バイアスを浅くすれば,より大きな出力を得られます.

5.3.2.3.2 ドライブ段が五極管の場合

ドライブ段として6AU6を使い, 動作点を,Ep = 175.1 V,Eg = - 2.32 V, Eg2 = 120 V Ip = 2.2 mAとすると, 三定数は, gm2 = 2.281 mS, rp2 = 2378 kΩ $ \mu_{2}^{}$ = 5423 となります. 負荷は RL2 = 33 kΩ ,出力段のグリッド抵抗は 100 kΩ とします.

5.3.2.3.2.1 出力段が三極管接続の場合
出力段のロードラインを,図5.42に示します.
図 5.42: 6AU6-6L6(T)の出力段のロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_6AU6_6L6T_bs_ll.ps}
青色の線が5kΩ のロードライン, 水色の線が振幅87.5664Vの入力を加えた時の6L6のプレート電圧とプレート電流です.

出力段のゲインは,式(5.25)より,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(4.142 + \frac{1}{2 \times 33}\bigr) (1.808 // 5)}}{{\frac{1}{2}\bigl(4.142 + \frac{1}{2 \times 33}\bigr) (1.808 // 5) + 1}}}$ = - 1.468

となります.

このとき,ドライブ段の負荷抵抗は,ブートストラップにより,

RL2$\scriptstyle \prime$ = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{33}}{{-1.468/2 + 1}}}$ = 123.7 [kΩ]

となるため,交流負荷は 123.7//100 = 55.31 kΩ となります.

ドライブ段のプレート特性図とロードラインは, 図5.43のようになります.

図 5.43: 6AU6のプレート特性図とロードライン(出力段が三極管接続の場合)
\includegraphics{figs/pow_para_6AU6_6L6T_drive_ll.ps}
緑色の線は 33 kΩ の直流ロードライン, 青色の線は交流ロードラインです. ブートストラップがないときの交流ロードラインは破線で示してあります.

計算上の内部抵抗は rp2 = 2378//100 = 95.96 kΩ として計算します.

ドライブ段のゲインは,

A2 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m2} (r_{p2} // R_{L2})}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{2.281 \times (95.96 // 33)}}{{\frac{95.96}{95.96 + 33} \cdot \frac{-1.468}{2} + 1}}}$ = - 123.3

PFB量は,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{95.96}{95.96 + 33} \cdot \frac{-1.468}{2} + 1}}}$ = 2.201 = 6.85 dB

となります.

出力インピーダンスは,

Zo = rp1//4(rp2 + RL2)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$  
  = 1808//4 x (95, 960 + 33, 000)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{95.96}}{{33}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{0.004142}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ = 921.7 [Ω]  

となります.

水色の線は,尖頭値が0.8736Vの入力を加えた時の, 出力段の非線形性を考慮に入れたドライブ段のロードラインです. 動作点付近では,青色の線と水色の線が接していますが, 水色の線はやや弓なりに反っています. このときのドライブ段の歪率は7.15%, 出力の歪率は4.39%ですので, ドライブ段と出力段で歪の打ち消しが起こっていますが, ドライブ段の歪率が優勢となっています. 出力段の出力電圧は106.1V, 出力は2.250Wとなりました.

5.3.2.3.2.2 出力段がビーム管接続の場合
出力段のロードラインを,図5.44に示します.
図 5.44: 6AU6-6L6の出力段のロードライン
\includegraphics{figs/pow_para_6AU6_6L6_bs_ll.ps}
青色の線が5kΩ のロードライン, 水色の線が振幅110.0571Vの入力を加えた時の6L6のプレート電圧とプレート電流です.

出力段のゲインは,式(5.25)より,

A1 = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1})}}{{\frac{1}{2}\bigl(g_{m1} + \frac{1}{2R_{L2}}\bigr) (r_{p1} // R_{L1}) + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\bigl(3.873 + \frac{1}{2 \times 33}\bigr) (55.97 // 5)}}{{\frac{1}{2}\bigl(3.873 + \frac{1}{2 \times 33}\bigr) (55.97 // 5) + 1}}}$ = - 1.798

となります.

このとき,ドライブ段の負荷抵抗は,ブートストラップにより,

RL2$\scriptstyle \prime$ = $\displaystyle {\frac{{R_{L2}}}{{A_1/2 + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{33}}{{-1.798/2 + 1}}}$ = 326.3 [kΩ]

となるため,交流負荷は 326.3//100 = 76.54 kΩ となります.

ドライブ段のプレート特性図とロードラインは, 図5.45のようになります.

図 5.45: 6AU6のプレート特性図とロードライン(出力段がビーム管接続の場合)
\includegraphics{figs/pow_para_6AU6_6L6_drive_ll.ps}
緑色の線は 33 kΩ の直流ロードライン, 青色の線は交流ロードラインです. ブートストラップがないときの交流ロードラインは破線で示してあります.

計算上の内部抵抗は rp2 = 2378//100 = 95.96 kΩ として計算します.

ドライブ段のゲインは,

A2 = - $\displaystyle {\frac{{g_{m2} (r_{p2} // R_{L2})}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{2.281 \times (95.96 // 33)}}{{\frac{95.96}{95.96 + 33} \cdot \frac{-1.798}{2} + 1}}}$ = - 169.1

PFB量は,

F = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{r_{p2}}{r_{p2} + R_{L2}} \cdot \frac{A_1}{2} + 1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\frac{95.96}{95.96 + 33} \cdot \frac{1.798}{2} + 1}}}$ = 3.020 = 9.60 dB

となります.

出力インピーダンスは,

Zo = rp1//4(rp2 + RL2)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{r_{p2}}}{{R_{L2}}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{g_{m1}}}}$$\displaystyle \Bigr\}$  
  = 55, 970//4 x (95, 960 + 33, 000)//$\displaystyle \Bigl\{$$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle {\frac{{95.96}}{{33}}}$ +1$\displaystyle \Bigr)$ . $\displaystyle {\frac{{2}}{{0.003873}}}$$\displaystyle \Bigr\}$ = 1940 [Ω]  

となります.

水色の線は,尖頭値が0.6851Vの入力を加えた時の, 出力段の非線形性を考慮に入れたドライブ段のロードラインです. 動作点付近では,青色の線と水色の線が接していますが, 水色の線はやや弓なりに反っています. このときのドライブ段の歪率は4.31%, 出力の歪率は4.42%でした. 出力段の出力電圧は132.5V, 出力は3.512Wとなりました.

5.3.2.4 シミュレーション

5.3.2.4.1 ドライブ段が三極管の場合

5.3.2.4.1.1 出力段が三極管接続の場合
ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.46に示します.
図 5.46: 12AU7-6L6(T)のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 12AU7_6L6T_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.47に示します.
図 5.47: 12AU7-6L6(T)のゲイン
Image 12AU7_6L6T_CSPP_gain_ac
図より,ドライブ段のゲインは11.00倍, 出力段のゲインは1.470倍となりました.

出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路を, 図5.48に示します.

図 5.48: 12AU7-6L6(T)の出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路
Image 12AU7_6L6T_CSPP_zo_sch
以下,出力インピーダンスを求めるシミュレーション回路は, ゲインを求める回路から負荷抵抗RL1を取り除き,そこに1Aの電流源を入れ, 入力の電圧源を除去して短絡したものですので,省略します. AC解析の結果を, 図5.49に示します.
図 5.49: 12AU7-6L6(T)の出力インピーダンス
Image 12AU7_6L6T_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは607.2Ω となりました.

5.3.2.4.1.2 出力段がビーム管接続の場合
ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.50に示します.
図 5.50: 12AU7-6L6のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 12AU7_6L6_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.51に示します.
図 5.51: 12AU7-6L6のゲイン
Image 12AU7_6L6_CSPP_gain_ac
図より,ドライブ段のゲインは12.51倍, 出力段のゲインは1.799倍となりました.

出力インピーダンスのAC解析の結果を, 図5.52に示します.

図 5.52: 12AU7-6L6の出力インピーダンス
Image 12AU7_6L6_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは960.6Ω となりました.

5.3.2.4.2 ドライブ段が五極管の場合

5.3.2.4.2.1 出力段が三極管接続の場合
ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.53に示します.
図 5.53: 6AU6-6L6(T)のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 6AU6_6L6T_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.54に示します.
図 5.54: 6AU6-6L6(T)のゲイン
Image 6AU6_6L6T_CSPP_gain_ac
図より,ドライブ段のゲインは123.4倍, 出力段のゲインは1.468倍となりました.

出力インピーダンスのAC解析の結果を, 図5.55に示します.

図 5.55: 6AU6-6L6(T)の出力インピーダンス
Image 6AU6_6L6T_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは921.9Ω となりました.

5.3.2.4.2.2 出力段がビーム管接続の場合
ゲインを求めるシミュレーション回路を, 図5.56に示します.
図 5.56: 6AU6-6L6のゲインを求めるシミュレーション回路
Image 6AU6_6L6_CSPP_gain_sch
AC解析の結果を, 図5.57に示します.
図 5.57: 6AU6-6L6のゲイン
Image 6AU6_6L6_CSPP_gain_ac
図より,ドライブ段のゲインは169.3倍, 出力段のゲインは1.798倍となりました.

出力インピーダンスのAC解析の結果を, 図5.58に示します.

図 5.58: 6AU6-6L6の出力インピーダンス
Image 6AU6_6L6_CSPP_zo_ac
図より,出力インピーダンスは1.940kΩ となりました.

5.3.3 ブートストラップとPFB,出力インピーダンスの関係

ブートストラップを使用した場合のPFBと出力インピーダンスは, 式(5.21),式(5.31)によって算出できますが, 例えばドライブ段の負荷抵抗 RL2 を変化させたときに, PFBや出力インピーダンスがどのように変化するかは, 式を見ただけではわかりにくいと思います.

そこで,一般的な場合にPFBや出力インピーダンスがどのように変化するかをつかむため, RL2 rp2 の何倍にするかを横軸に, PFBや出力インピーダンスを縦軸にとって,グラフにしてみました(図5.59).

図 5.59: 負荷抵抗とPFB,出力インピーダンスの関係
\includegraphics{figs/pow_para_pfb_zo.ps}

赤い線がPFBで,PFBは出力段のゲインによって変わるので, | A1| が1.4, 1.6, 1.8, 2.0の場合について描いてあります. 出力段が三極管の場合は1.4から1.6, 多極管の場合は1.6から1.8程度が参考になるでしょう.

青い線が出力インピーダンスの様子を表しており, 縦軸の目盛りは,1/gm1 (カソードフォロワとしたときの出力インピーダンス)を1としています. または,縦軸の値を gm1 で割れば,出力インピーダンスが求められます. 出力インピーダンスは出力段の増幅率によって変わるので, $ \mu_{1}^{}$ が5, 10, 100, $ \infty$ の場合について描いてあります. 出力段が三極管の場合は5から10, 多極管の場合は100程度が参考になるでしょう.

なお,rp2 にはドライブ段の真空管の内部抵抗と, 出力段のグリッド抵抗の並列合成値を使ってください.

先ほどの12AU7の例では, rp2 = 13.44//100 = 11.84 kΩ RL2 = 13 kΩ ですから, 横軸は1.1程度になります.

6AU6の例では, rp2 = 2378//100 = 96 kΩ RL2 = 33 kΩ ですから, 横軸は0.34程度になります.

ayumi
2016-03-07