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4 複数の素子を組み合わせた場合

16のように,抵抗 R とコンデンサ C を直列に接続し, 電圧 vi を加えます. このとき,コンデンサの両端を出力として,この電圧 vo = vC を求めます.

図 16: 抵抗とコンデンサを直列に接続した場合
\begin{figure}\input{figs/rc_sch}
\end{figure}

この回路はローパスフィルターです. 同じ入力電圧 vi を与えても, 周波数によって出力の大きさ(と位相)が変わってきます.

このように素子が直列に組み合わされている場合, 流れる電流は共通ですから,電流に着目して解析するのが簡単です. vi として何ボルトかけたのか不明ですが, この回路に振幅が 1mA の電流が流れたとしましょう. 周波数は 1kHz とします.

抵抗 R の両端には,オームの法則により,

VRm = ImR = 1 x 10-3 . 15.9 x 103 = 15.9 [V] (23)
の電圧が生じています. この電圧の位相は,電流の位相と同じです.
図 17: 各部の波形
\begin{figure}\input{figs/rc_wave}
\end{figure}

コンデンサ C の両端の電圧は, コンデンサのリアクタンス XC

XC = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 \pi f C}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{6.28 \cdot 1000 \cdot 0.01\times 10^{-6}}}}$ $\displaystyle \approx$ 15.9 [kΩ] (24)
より,

VCm = ImXC = 1 x 10-3 . 15.9 x 103 = 15.9 [V] (25)
となります. ただし,コンデンサの両端の電圧の位相は,電流よりも 90o 遅れています.

この回路に加えられていた電圧の瞬時値 vi は, 抵抗の両端の電圧の瞬時値 vR と, コンデンサの両端の電圧の瞬時値 vC を加えたものになります.

vi = vR + vC (26)

まずは,数値的に調べてみましょう. ここでは,Rを使います.

function ()
{
    f <- 1e3                    # 周波数
    T <- 1/f                    # 周期
    t <- seq(0, 2*T, len=201)           # 2周期分
    i <- 1e-3 * sin(2 * pi * f * t)     # 電流の瞬時値
    vR <- 15.9 * sin(2 * pi * f * t)    # 抵抗の両端の電圧の瞬時値
    vC <- -15.9 * cos(2 * pi * f * t)   # コンデンサの両端の電圧の瞬時値
    vi <- vR + vC                       # 入力電圧の瞬時値
    par(mfrow=c(2, 1))          # グラフを2行1列にならべて描く
    plot(t, i, type="l")        # 電流の波形
    matplot(t, cbind(vR, vC, vi), type="l", lty=1, col=2:4,
        ylab="vR, vC, vi")      # 電圧の波形
}
実行結果は,図18のようになります. 赤い線が抵抗の両端の電圧,緑の線がコンデンサの両端の電圧,青い線が入力電圧です.

rc_wave_R.png

図 18: Rによる合成波形
\begin{figure}.
%
\end{figure}
この結果を見ると, 入力電圧の振幅は 22.5V くらいに見えます. したがって,入力電圧を 1V とすれば, 出力電圧(コンデンサの両端の電圧)は 15.9/22.5 = 0.71 V くらいになります.

演習3

16の回路で,

回答例3

Rを使って,先ほどの関数を少し変えて, 周波数や抵抗などの値を変更しやすくします.

function(f=1e3, R=15.9e3, C=0.01e-6)
{
    # f: 周波数(Hz)
    # R: 抵抗値(ohm)
    # C: 容量(F)

    T <- 1/f                # 周期
    t <- seq(0, 2*T, len=201)       # 2周期分
    Im <- 1e-3                      # 電流の振幅
    VRm <- Im * R                   # 抵抗の両端の電圧の振幅
    XC <- 1 / (2 * pi * f * C)      # コンデンサのリアクタンス
    VCm <- Im * XC                  # コンデンサの両端の電圧の振幅
    cat("VRm=", VRm, "\n", sep="")  # 表示
    cat("XC=", XC, "\n", sep="")
    cat("VCm=", VCm, "\n", sep="")
    i <- Im * sin(2 * pi * f * t)   # 電流の瞬時値
    vR <- VRm * sin(2 * pi * f * t) # 抵抗の両端の電圧の瞬時値
    vC <- -VCm * cos(2 * pi * f * t)# コンデンサの両端の電圧の瞬時値
    vi <- vR + vC                   # 入力電圧の瞬時値
    Vim <- max(vi)                  # 入力電圧の振幅
    cat("Vim=", Vim, "\n", sep="")
    cat("Vo/Vim=", VCm/Vim, "\n", sep="")   # ゲイン
    par(mfrow=c(2, 1))              # グラフを2行1列に並べて描く
    plot(t, i, type="l")            # 電流の波形
    matplot(t, cbind(vR, vC, vi), type="l", lty=1, col=2:4,
        ylab="vR, vC, vi")          # 電圧の波形
}
function のかっこの中に書かれている変数は, 仮引数で,関数を実行する際に変更することができます. = の後ろにある値は,引数が指定されなかった場合のデフォルトの値となります. この関数を ac42 という名前で作成したとすると, ac42(R=22e3) のように仮引数の名前(一部でよい)と値を指定してやれば, その引数だけ値を変更できます. 指定しなかった引数は,デフォルトの値が使用されます.

> ac42(2e3)
VRm=15.9
XC=7957.747
VCm=7.957747
Vim=17.77499
Vo/Vim=0.4476934
> windows()         # もう一つグラフウィンドウを開く    
> ac42(500)
VRm=15.9
XC=31830.99
VCm=31.83099
Vim=35.57143
Vo/Vim=0.894847
関数 windows() (Linuxの場合は X11())を使えば, グラフウィンドウを追加で開くことができ, 複数のグラフを比較できます.

4.1 SPICEによるシミュレーション

19に,SPICEによるシミュレーションを示します.

scr_RC.png

図 19: ローパスフィルタのシミュレーション
\begin{figure}.
%
\end{figure}
CircuitMakerでは,私が不慣れなせいかもしれませんが, 2点間の電圧のグラフを表示する方法がないようです. VcVs1 を使って,2点間の電位差を対グラウンドの電圧に変換しています. また念のため,回路を流れる電流は,IcVs1 で電圧に変換して取り出しています. この係数として10000を指定しているので,1mA が 10V としてグラフに表示されます.

波形をみると,2周期目でほぼ定常状態になっているようです. 電流の波形(D)と抵抗の両端の電圧の波形(B)は位相が合っています. コンデンサの両端の波形(C)は,電流に比べて位相が 90o 遅れています. 入力電圧の波形(A)は,電流に比べて位相が 45o 遅れているようです. 振幅の関係は,Rで計算したものと同じになっています.

4.2 波形を使わずに振幅を求める

このように,瞬時値を使えば,この回路の入力電圧や出力電圧を求めることができますが, とても手間がかかります. 一度,三角関数の性質を使って,各部の電圧や電流の振幅や位相の関係を検討しておけば,簡単に計算することができるようになります. ただし,この節で説明した方法で実際の計算をすることもありません.

電流を基準にとり,その初期位相を0とすれば,電流の瞬時値は,

i = Imsin($\displaystyle \omega$t) (27)
で表すことができます. 抵抗の両端の電圧の瞬時値は,オームの法則から,

vR = iR = ImR sin($\displaystyle \omega$t) (28)
となります. コンデンサの両端の電圧の瞬時値は,式(3)に式(27)を代入して,

vC = $\displaystyle {\frac{{1}}{{C}}}$$\displaystyle \int$i dt = $\displaystyle {\frac{{I_m}}{{C}}}$$\displaystyle \int$sin($\displaystyle \omega$t) dt = - $\displaystyle {\frac{{I_m}}{{\omega C}}}$cos($\displaystyle \omega$t) (29)
となります. これらから,入力電圧の瞬時値は,

vi = vR + vC = ImR sin($\displaystyle \omega$t) - $\displaystyle {\frac{{I_m}}{{\omega C}}}$cos($\displaystyle \omega$t) = VRmsin($\displaystyle \omega$t) - VCmcos($\displaystyle \omega$t) (30)
となります. この式は,周波数が同じ正弦波と余弦波(符号がマイナスですが)を足し合わせたものであり, 結果はさまざまな位相をとる正弦波になります.

ここで,正弦波と余弦波を任意の比率で足し合わせた波形がどうなるかを 見てみましょう.瞬時値 v を式で表すと,

v = a sin$\displaystyle \theta$ + b cos$\displaystyle \theta$ (31)
となります. a, b は負であっても構いません.

ax 軸に,by 軸にとると,図20のような長方形ができます. 対角線OCの長さは,三平方の定理より,

OC = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ (32)
となります. OCと x 軸のなす角度 $ \phi$ は,

tan$\displaystyle \phi$ = $\displaystyle {\frac{{b}}{{a}}}$ (33)
です.
図 20: 正弦波,余弦波の振幅と合成波の振幅
\begin{figure}\input{figs/sincosrect}
\end{figure}

これらを使って a, b を表すと,

a = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ cos$\displaystyle \phi$  
b = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ sin$\displaystyle \phi$  

となりますから, 式(31)は,
v = a sin$\displaystyle \theta$ + b cos$\displaystyle \theta$  
  = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ cos$\displaystyle \phi$sin$\displaystyle \theta$ + $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ sin$\displaystyle \phi$cos$\displaystyle \theta$  
  = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ sin($\displaystyle \theta$ + $\displaystyle \phi$)  
  = $\displaystyle \sqrt{{a^2 + b^2}}$ sin$\displaystyle \Bigl($$\displaystyle \theta$ + tan-1$\displaystyle {\frac{{b}}{{a}}}$$\displaystyle \Bigr)$ (34)

となり, 合成波の振幅は $ \sqrt{{a^2+b^2}}$, 初期位相は tan-1(b/a) であることがわかります.

ここで,正弦波と余弦波を任意の比率で足し合わせた波形がどうなるかを, Rで確かめてみましょう. プログラムは少々長くなりますが,以下の通りです.

function (a=1, b=1)
{
    # a: 正弦波の振幅
    # b: 余弦波の振幅

    th <- seq(-2*pi, 2*pi, len=201)         # 位相
    s <- a * sin(th)                        # 正弦波波形
    c <- b * cos(th)                        # 余弦波波形
    z <- s + c                              # 合成波波形
    cat("max(z)=", max(z), "\n", sep="")    # 合成波の振幅(波形から)
    Vm <- sqrt(a^2 + b^2)                   # 合成波の振幅(解析的)
    cat("Vm=", Vm, "\n", sep="")
    phi <- atan2(b, a)*180/pi               # 合成波の初期位相
    cat("phi=", phi, "\n", sep="")

    par(mfrow=c(2, 1))                      # グラフを2行1列で描く

    # 波形
    matplot(th*180/pi, cbind(s, c, z), type="l", lty=1, col=2:4,
        xaxs="i", xaxt="n",
        xlab="Phase (deg)", ylab="Instantaneous value")
    axis(1, at=seq(-360, 360, by=90), lab=FALSE, tck=1, col="gray")
    axis(1, at=seq(-360, 360, by=90))       # 目盛を自分の好みで描く
    box()                                   # 周りが灰色になるのでワクを描き直す
    abline(h=0)                             # 水平線を引く
    abline(v=-phi, col=4)                   # 合成波の立ち上がり点
    arrow(0, -Vm, -phi, -Vm, col=4)
    text(-phi/2, -0.9*Vm, format(round(phi, 1)), col=4)

    # ベクトル図
    m <- max(abs(c(a, b)))                  # ベクトル図のスケールを決める
    lim <- m * c(-1.2, 1.2)
    par.org <- par(pty="s")                 # 正方形のグラフを描く
    plot(0, 0, type="n", xlim=lim, ylim=lim,
        xlab="x", ylab="y")                 # スケールの設定のみ
    abline(h=0)                             # 水平線
    abline(v=0)                             # 垂直線
    arrow(0, 0, a, 0, col=2)                # 正弦波のベクトル表示
    text(a, -0.1*m, format(signif(a, 3)), col=2)
    arrow(0, 0, 0, b, col=3)                # 余弦波のベクトル表示
    text(-0.1*m, b, format(signif(b, 3)), col=3, adj=1)
    arrow(0, 0, a, b, col=4)                # 合成波のベクトル表示
    text(a*1.1, b*1.1, format(signif(Vm, 3)), col=4)
    par(par.org)                            # グラフパラメータを元に戻す
}
このプログラムでは,いくつか標準ではない関数が使われています. この関数を使うために,メニューの ファイル $ \to$ Rコードのソース...を使用して,http://ayumi.cava.jp/audio/elec_win.r を読み込んでください(図21).

scr_R4.png

図 21: Rコードの読み込み
\begin{figure}.
%
\end{figure}
このようにして読み込まれた関数は, Rを終了するときに作業スペース(image)を保存しておけば, 次回からは自動的に使えるようになります(図22).

scr_R5.png

図 22: 作業スペースの保存
\begin{figure}.
%
\end{figure}

位相を求めるのに,atan() ではなく atan2(y, x) を使っていますが, こちらを使うと角度を - $ \pi$ から $ \pi$ の範囲で求められます. グラフを描くときに xaxt="n" とすると,x 軸の目盛は自動で描かれません. axis() で自分の好きなように目盛を付けられます. abline() で,垂直線(v=)や水平線(h=), あるいは任意の y = a + bx という直線を描くことができます. text() で,グラフ上に文字列を描けます. format() は,表示用に適切に丸めた文字列を返します. ふつう,format() は複数の数値の表示桁数を揃えるのに使い, 桁数が少ない場合は,先頭に空白が付加されます. par(pty="s") で,グラフを実際に描く領域が正方形になります.

この関数の名前を ac43 とすると,

> ac43(1.732, 1)
max(z)=1.999517
Vm=1.999956
phi=30.00073
のようにして使います. 実行結果を図23に示します.
図 23: 正弦波,余弦波の合成
\includegraphics{figs/sincosR.ps}

さて,この結果を使うと,式(30)を次のように書き換えることができます.

vi = VRmsin($\displaystyle \omega$t) - VCmcos($\displaystyle \omega$t)  
  = $\displaystyle \sqrt{{V_{Rm}^2+V_{Cm}^2}}$ sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi$)  
  = Vimsin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi$)  
Vim = $\displaystyle \sqrt{{V_{Rm}^2+V_{Cm}^2}}$ = $\displaystyle \sqrt{{(I_m R)^2 + (\frac{I_m}{\omega C})^2}}$ = Im$\displaystyle \sqrt{{R^2 + \frac{1}{(\omega C)^2}}}$  
tan$\displaystyle \phi$ = - $\displaystyle {\frac{{V_{Cm}}}{{V_{Rm}}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{\frac{I_m}{\omega C}}}{{I_m R}}}$ = - $\displaystyle {\frac{{1}}{{\omega C R}}}$  

これを図で表すと,図24のようになります (図中の電圧は,必ずしも最大値でなくても(たとえば実効値)よいので, m を付けていません).

図 24: 合成波の振幅と位相は,ベクトル図で求められる
\begin{figure}\input{figs/vec1}
\end{figure}

電流を基準にしたとき,入力電圧は $ \phi$ だけ進んでいます. この場合,$ \phi$ の符号は負になるので,入力電圧は電流よりも位相が遅れています.

求めたかったのは,入力と出力の関係なので, 入力電圧を基準にすると,電流は $ \phi$ だけ遅れており(実際は $ \phi$ が負なので進んでおり),出力の位相は電流よりも 90o 遅れます. つまり,図24の矢印の向きは,それぞれの電圧の初期位相を表していることになります.

ここで基準を入力電圧にします. つまり,Vi を右向きにします. すると図25のようになります.

図 25: 入力電圧を基準にする
\begin{figure}\input{figs/vec2}
\end{figure}
この図からわかるように, 抵抗の両端の電圧は,入力電圧より $ \phi_{1}^{}$ = tan-1(VC/VR) だけ進んでおり, コンデンサの両端の電圧は,入力電圧より $ \phi_{2}^{}$ = tan-1(VR/VC) 遅れています. この回路のゲイン A は,入力に対する出力の大きさで定義され,

A = $\displaystyle {\frac{{V_o}}{{V_i}}}$ = $\displaystyle {\frac{{V_C}}{{V_i}}}$ (35)
です. これらを,抵抗値や容量,周波数によって表すと,
A = $\displaystyle {\frac{{V_C}}{{V_i}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{I_m X_C}}{{I_m \sqrt{R^2 + \frac{1}{(\omega C)^2}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{\frac{1}{\omega C}}}{{\sqrt{R^2 + \frac{1}{(\omega C)^2}}}}}$ (36)
$\displaystyle \phi_{2}^{}$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{V_R}}{{V_C}}}$  
  = tan-1$\displaystyle {\frac{{I_m R}}{{I_m X_C}}}$  
  = tan-1$\displaystyle {\frac{{R}}{{1/\omega C}}}$  
  = tan-1($\displaystyle \omega$CR) (37)

ここでは,$ \phi_{2}^{}$遅れを表していることに注意してください. また,入力電圧 Vi を流れる電流 I で割ったものは, この回路の抵抗(正確にはインピーダンス)であり,

Z = $\displaystyle {\frac{{V_i}}{{I}}}$ = $\displaystyle {\frac{{I_m \sqrt{R^2 + X_C^2}}}{{I_m}}}$ = $\displaystyle \sqrt{{R^2 + X_C^2}}$ (38)
となります.

この回路では,流れている電流がどこでも同じため, 各部の電圧の比率は,そのまま各部のインピーダンスの比率になります(図25の右側). つまり,回路を流れる電流を仮定しなくても, インピーダンスの比率を求め,ベクトル図を作図できます. そして,

Vo = $\displaystyle {\frac{{X_C}}{{Z}}}$Vi = $\displaystyle {\frac{{X_C}}{{\sqrt{R^2+X_C^2}}}}$Vi (39)
で,入力電圧に対する出力電圧を求めることができます.

これで,このローパスフィルタのゲインと位相の周波数特性を描くことができます. Rで描いてみましょう.

function ()
{
    R <- 15.9e3         # 抵抗値
    C <- 0.01e-6        # 容量

    f <- dec(10, 100e3, 30)     # 周波数(対数で,10倍あたり30点ずつ)
    w <- 2 * pi * f             # 角周波数(omega と書くのは大変なので w を使用)
    XC <- 1/(w * C)             # コンデンサのリアクタンス
    A <- XC / sqrt(R^2 + XC^2)  # ゲイン
    phi <- atan(-w * C * R)     # 位相(進みが正)

    par(mfrow=c(2, 1))
    semilogplot(f, dB(A), type="l", col="red",
        xlab="Frequency (Hz)", ylab="Gain (dB)")
    semilogplot(f, phi*180/pi, type="l", col="red",
        xlab="Frequency (Hz)", ylab="Phase (deg)")
}
dec(from, to, n) は,周波数などとして使う等比数列を生成する関数で, from から to まで,10倍ごとに n 点きざみの等比数列を生成します. semilogplot は,横軸が対数で,縦軸が通常のグラフを描く関数です. dB(x) は, 20 log10(x) を返す関数です.

4.3 任意の位相の2つの波形を加算する

前節の回路では,互いに 90o 位相の異なる波形を足し合わせました. その結果の波形の振幅は,それぞれの波形の振幅が縦と横の長さである長方形の 対角線の長さであり, 位相差は,対角線とそれぞれの辺とでなす角で表されます. この節では,任意の初期位相を持つ2つの波形の加算が, 同様に平行四辺形の対角線で表されることを示します.

振幅が V1 初期位相が $ \phi_{1}^{}$ の正弦波 v1 と, 振幅が V2 初期位相が $ \phi_{2}^{}$ の正弦波 v2 を加えた結果を v3 とします. この v3 の振幅 V3 と初期位相 $ \phi_{3}^{}$ を求めます.

v1 = V1sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{1}^{}$) (40)
v2 = V2sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{2}^{}$) (41)
v3 = V3sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{3}^{}$) (42)

v3 = v1 + v2 より,
v3 = V1sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{1}^{}$) + V2sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{2}^{}$)  
  = V1cos$\displaystyle \phi_{1}^{}$sin($\displaystyle \omega$t) + V1sin$\displaystyle \phi_{1}^{}$cos($\displaystyle \omega$t)  
      + V2cos$\displaystyle \phi_{2}^{}$sin($\displaystyle \omega$t) + V2sin$\displaystyle \phi_{2}^{}$cos($\displaystyle \omega$t)  
  = (V1cos$\displaystyle \phi_{1}^{}$ + V2cos$\displaystyle \phi_{2}^{}$)sin($\displaystyle \omega$t) + (V1sin$\displaystyle \phi_{1}^{}$ + V2sin$\displaystyle \phi_{2}^{}$)cos($\displaystyle \omega$t) (43)

一方,

v3 = V3sin($\displaystyle \omega$t + $\displaystyle \phi_{3}^{}$) = V3cos$\displaystyle \phi_{3}^{}$sin($\displaystyle \omega$t) + V3sin$\displaystyle \phi_{3}^{}$cos($\displaystyle \omega$t) (44)
より,係数を比較して,
V3cos$\displaystyle \phi_{3}^{}$ = V1cos$\displaystyle \phi_{1}^{}$ + V2cos$\displaystyle \phi_{2}^{}$ (45)
V3sin$\displaystyle \phi_{3}^{}$ = V1sin$\displaystyle \phi_{1}^{}$ + V2sin$\displaystyle \phi_{2}^{}$ (46)

26より明らかなように, V3 の大きさと初期位相は,V1, V2 をベクトルと見立てて加えたもので表せます.
図 26: 2つの正弦波の加算
\begin{figure}\input{figs/vadd}
\end{figure}
つまり,任意の時刻の瞬時値を加え合わせた波形の振幅と位相は, 2つの波形の振幅と初期位相の情報だけで決まり, ベクトルとみて加え合わせたものが, 合成された波形の振幅と初期位相になります. 時間とともに変化する部分($ \omega$t)は,影響しません.

具体的に振幅と位相を求めると,図より,

V3 = $\displaystyle \sqrt{{(V_1 \cos \phi_1 + V_2 \cos \phi_2)^2 + (V_1 \sin \phi_1 + V_2 \sin \phi_2)^2}}$  
  = $\displaystyle \sqrt{{V_1^2 \cos^2 \phi_1 + 2 V_1 V_2 \cos \phi_1 \cos \phi_2 + ...
...V_1^2 \sin^2 \phi_1 + 2 V_1 V_2 \sin \phi_1 \sin \phi_2 + V_2^2 \sin^2 \phi_2}}$  
  = $\displaystyle \sqrt{{V_1^2 + V_2^2 + 2 V_1 V_2 (\cos \phi_1 \cos \phi_2 + \sin \phi_1 \sin \phi_2)}}$  
  = $\displaystyle \sqrt{{V_1^2 + V_2^2 + 2 V_1 V_2 \cos(\phi_1 - \phi_2)}}$ (47)
$\displaystyle \phi_{3}^{}$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{V_1 \sin \phi_1 + V_2 \sin \phi_2}}{{V_1 \cos \phi_1 + V_2 \cos \phi_2}}}$ (48)

となります.

4.4 ベクトルによる計算例

先に進む前に,ここで示したベクトルによる計算をいくつかやってみましょう.

4.4.1 抵抗とコンデンサの並列回路

次のような,抵抗とコンデンサが並列に接続された回路に, 400Hz, 5V の交流電圧を加えたときに流れる電流を求めます.
図 27: 抵抗とコンデンサを並列に接続した回路に流れる電流
\begin{figure}\input{figs/rc_para_sch}
\end{figure}

この回路の場合,各素子にかかっている電圧は,すべて等しく v ですので, この位相を基準にします. 抵抗を流れる電流 iR の位相は電圧の位相と同じで,大きさは,

IR = $\displaystyle {\frac{{V}}{{R}}}$ = $\displaystyle {\frac{{5}}{{1000}}}$ = 5 [mA] (49)
です. コンデンサのリアクタンス XC は,

XC = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 \pi f C}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{6.28 \cdot 400 \cdot 0.22\times 10^{-6}}}}$ = 1810 [Ω] (50)
ですから,コンデンサを流れる電流の大きさは,

IC = $\displaystyle {\frac{{V}}{{X_C}}}$ = $\displaystyle {\frac{{5}}{{1810}}}$ = 2.76 [mA] (51)
コンデンサを流れる電流は,電圧より位相が 90o 進んでいるので, ベクトル図は28のようになります.
図 28: 抵抗とコンデンサを並列に接続した回路のベクトル図
\begin{figure}\input{figs/rc_para_vec}
\end{figure}

流れる電流の大きさ I は,

I = $\displaystyle \sqrt{{I_R^2 + I_C^2}}$ = $\displaystyle \sqrt{{5^2 + 2.76^2}}$ = $\displaystyle \sqrt{{32.6}}$ = 5.7 [mA] (52)
であり, 電流の位相は電圧より

$\displaystyle \phi$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{I_C}}{{I_R}}}$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{2.76}}{{5}}}$ = 29 [o] (53)
進んでいます.

4.4.2 負帰還の微分補償

29は,負帰還の微分補償で使われる回路です. R1 は帰還抵抗で,これに並列に C を入れることにより, 高域の負帰還量が増えます. この回路の入力(アンプの出力)と出力(アンプの入力部に帰還される信号)の関係を調べましょう. あらかじめ断っておきますが,この解析は大変複雑になります. ベクトル図による方法は,この程度の回路で,もはや使い物にならないことがわかるでしょう.

図 29: 負帰還の微分補償
\begin{figure}\input{figs/diff_sch}
\end{figure}

この回路は複雑なので,部分部分に分けて解析していきます. まず,R1 の両端の電圧を v1 として,R1C の並列接続に注目します. v1 の位相を基準とすると,R1 を流れる電流 iR1 の位相は v1 と同じです. コンデンサを流れる電流の位相は v1 より 90o 進んでいます. したがってベクトル図は,図30の左のようになります.

図 30: 微分補償のベクトル図
\begin{figure}\input{figs/diff_vec}
\end{figure}

ここまでの関係から,

XC = $\displaystyle {\frac{{1}}{{2 \pi f C}}}$  
IC = $\displaystyle {\frac{{V_1}}{{X_C}}}$  
IR1 = $\displaystyle {\frac{{V_1}}{{R_1}}}$  
I = $\displaystyle \sqrt{{I_{R_1}^2 + I_C^2}}$ = V1$\displaystyle \sqrt{{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}}$  

となります.

出力 vo は,iR2 を流れて生じる電圧なので, その位相は i と同じで,v1 よりも $ \phi_{1}^{}$ 進んでいます. 入力電圧 vi は,v1vo を加えた物ですから, そのベクトル図は,図30の右のようになります. 出力の位相は,入力よりも ($ \phi_{o}^{}$ - $ \phi_{i}^{}$) だけ進んでいます.

Vo = IR2 (54)
Vi = $\displaystyle \sqrt{{V_o^2 + V_1^2 + 2 V_o V_1 \cos \phi_o}}$ (55)
$\displaystyle \phi_{i}^{}$ = tan-1$\displaystyle {\frac{{V_o \sin \phi_o}}{{V_1 + V_o \cos \phi_o}}}$ (56)

最後の2つの式は,式(47)と式(48)を使っています.

ゲインを求めてみましょう. 式(54)より,

Vo = V1R2$\displaystyle \sqrt{{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}}$  
V1 = $\displaystyle {\frac{{V_o}}{{R_2\sqrt{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}}}}$  

これを式(55)に代入して,

Vi = $\displaystyle \sqrt{{V_o^2 + \frac{V_o^2}{R_2^2(\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2})}
+ \frac{2 V_o^2}{R_2\sqrt{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}} \cos \phi_o}}$

30より,

cos$\displaystyle \phi_{o}^{}$ = $\displaystyle {\frac{{I_{R_1}}}{{I}}}$ = $\displaystyle {\frac{{\frac{V_1}{R_1}}}{{V_1 \sqrt{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{R_1\sqrt{\frac{1}{R^2}+\frac{1}{X_C^2}}}}}$

なので,
Vi = $\displaystyle \sqrt{{V_o^2 + \frac{V_o^2}{R_2^2(\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})}
+ \frac{2 V_o^2}{R_1 R_2(\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})}}}$  
  = Vo$\displaystyle \sqrt{{1 + \frac{1}{R_2^2(\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})}
+ \frac{2}{R_1 R_2(\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})}}}$  
  = Vo$\displaystyle \sqrt{{\frac{R_1 R_2^2 (\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})+R_1+2R_2}{R_1 R_2^2(\frac{1}{R_1^2}+\frac{1}{X_C^2})}}}$  
  = Vo$\displaystyle \sqrt{{\frac{\omega^2R_1^2R_2^2C^2+(R_1+R_2)^2}{\omega^2R_1^2R_2^2C^2+R_2^2}}}$  
Vo = Vi$\displaystyle \sqrt{{\frac{\omega^2R_1^2R_2^2C^2+R_2^2}{\omega^2R_1^2R_2^2C^2+(R_1+R_2)^2}}}$  
  = Vi$\displaystyle {\frac{{R_2}}{{R_1+R_2}}}$ . $\displaystyle \sqrt{{\frac{\omega^2R_1^2C^2+1}{\omega^2(R_1//R_2)^2C^2+1}}}$ (57)

となります. もっとうまい整理のしかたがあるとは思いますが, このように任意の周波数に対する応答を求めようとするのは,大変な作業になります.
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Ayumi Nakabayashi
平成19年12月8日