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5.2 トランスの等価回路

実際のトランスには,巻線抵抗,1次インダクタンス(励磁インダクタンス), 漏洩インダクタンス,鉄損などがあり, 周波数特性やインピーダンス特性に影響してきます. これらの影響を考慮したトランスの等価回路として, 図5.3が一般に使われます5.1

図 5.3: トランスの等価回路(1)
\begin{figure}\input{figs/tr_eq}
\end{figure}
ここで,
r1 : 1次巻線抵抗  
r2 : 2次巻線抵抗  
Cs1 : 1次巻線浮遊容量  
Cs2 : 2次巻線浮遊容量  
Ll1 : 1次巻線漏洩インダクタンス  
Ll2 : 2次巻線漏洩インダクタンス  
LP : 1次インダクタンス  
Ri : 鉄損  

です.

2次側のインピーダンスは,1次側からみると n2 倍になるので, 2次巻線抵抗,2次漏洩インダクタンス,2次巻線浮遊容量をすべて1次側に換算すると, 図5.4の等価回路が得られます.

図 5.4: トランスの等価回路(2)
\begin{figure}\input{figs/tr_eq2}
\end{figure}

また,負荷インピーダンス ZL の両端に生じる電圧が変化しますが, ZL を1次側から見た値 Z'L = n2ZL に換算すれば, 理想トランスを取り除くことができ,図5.5の等価回路が得られます.

図 5.5: トランスの等価回路(3)
\begin{figure}\input{figs/tr_eq3}
\end{figure}

5.2.1 中域の等価回路

中域では浮遊容量 Cs は開放とみなせます. 一般に漏洩インダクタンス Ll は, 1次インダクタンスの 1/1000 以下と微小なので, Ll は短絡とみなせます. 1次インダクタンス LP のインピーダンスは, 中域では Z'L と比べると十分に大きいので,開放とみなせます.

したがって,中域の等価回路は,図5.6の左のようになります. ここで,r'2Ri と比べると十分に小さいので, 右のように r1r'2 をまとめたほうが,解析が容易になり, また影響もほとんどありません.

図 5.6: トランスの中域の等価回路
\begin{figure}\input{figs/tr_eq_m}
\end{figure}

1次に与えられた電力のうち,巻線抵抗 r と鉄損 Ri によって消費される分だけ 損失が発生します. これがトランスの定損失といわれるものです.

等価回路より, トランスの1次側の電圧 e1 と 1次側に換算した負荷にかかる電圧 e2m の関係は,

e1 = e$\displaystyle {\frac{{r + R_i//Z_L'}}{{R_s + r + R_i//Z_L'}}}$ (5.6)
e2m = e$\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L}}{{R_s + r + R_i//Z'_L}}}$ (5.7)

となります. したがって,トランスの中域における利得 Am は,
Am = $\displaystyle {\frac{{e_{2m}}}{{e_1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L}}{{r + R_i//Z'_L}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \frac{r}{R_i//Z'_L}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + r \frac{R_i+Z'_L}{R_i Z'_L}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_i Z'_L}}{{R_i Z'_L + r(R_i+Z'_L)}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{R_i Z'_L}}{{r R_i + Z'_L(r + R_i)}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_i}}{{r+R_i}}}$ . $\displaystyle {\frac{{Z'_L}}{{\frac{r R_i}{r+R_i}+Z'_L}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{R_i}}{{r+R_i}}}$ . $\displaystyle {\frac{{Z'_L}}{{r//R_i+Z'_L}}}$ (5.8)

となります. 一般に r $ \ll$ Ri ですから,

Am $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{Z'_L}}{{r+Z'_L}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1+r/Z_L'}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1+r/n^2 Z_L}}}$ (5.9)
と近似できます. すなわち,定損失は巻線抵抗によってほぼ決まることがわかります.

電力効率 $ \eta$ は,入力電力 pi に対する出力電力 po の比で, この等価回路では,Ri を無視すれば流れる電流は同一ですから,

$\displaystyle \eta$ = $\displaystyle {\frac{{p_o}}{{p_i}}}$ = $\displaystyle {\frac{{e_{2m}}}{{e_1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{Z'_L}}{{r+Z'_L}}}$ (5.10)
となります.

伝送損失は,r がないと仮定したときの出力電圧 e2m' に対する 出力電圧で定義され,

伝送損失 = $\displaystyle {\frac{{e_{2m}}}{{e_{2m}'}}}$ = $\displaystyle {\frac{{e \frac{Z_L'}{R_s+r+Z_L'}}}{{e \frac{Z_L'}{R_s+Z_L'}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_s+Z_L'}}{{R_s+r+Z_L'}}}$ (5.11)
一般に, Rs = Zp $ \approx$ ZL' のときの値が公表されているので,

伝送損失 = $\displaystyle {\frac{{2Z_p}}{{r+2Z_p}}}$ (5.12)
となります.

5.2.2 低域の等価回路

低域では1次インダクタンス LP のインピーダンスが低くなり,無視できなくなります. 等価回路は,図5.7のようになります. 1次インダクタンスが負荷と並列に入るので, ローカットの特性となります.
図 5.7: トランスの低域の等価回路
\begin{figure}\input{figs/tr_eq_l}
\end{figure}

等価回路より,

e1 = e$\displaystyle {\frac{{r+R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}{{R_s+r+R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}}$ (5.13)
eLl = e$\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}{{R_s+r+R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}}$ (5.14)

となるので,トランスの低域の利得 Al は,

Al = $\displaystyle {\frac{{e_{2l}}}{{e_1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}{{r+R_i//Z'_L//Z_{L_P}}}}$

となりますが,中域と同様の式変形を行なうことにより,
Al = $\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L}}{{r + R_i//Z'_L}}}$ . $\displaystyle {\frac{{Z_{L_P}}}{{r//R_i//Z'_L+Z_{L_P}}}}$ = Am$\displaystyle {\frac{{Z_{L_P}}}{{r//R_i//Z'_L+Z_{L_P}}}}$  
  = Am$\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \frac{r//R_i//Z'_L}{Z_{L_P}}}}}$ = Am$\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \frac{r//R_i//Z'_L}{s L_P}}}}$  
  = Am$\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + \frac{1}{s \frac{L_P}{r//R_i//Z'_L}}}}}$ (5.15)

が得られます. これは,時定数が Tl = LP/(r//Ri//Z'L) $ \approx$ LP/r のローカットの特性を表しています.

5.2.3 高域の等価回路

高域では1次インダクタンスのインピーダンスが高くなり開放とみなせます. 周波数が高くなっていくと,まず漏洩インダクタンスの影響が出てきて, 次に浮遊容量の影響が出てきます. いずれも高域を減衰させる働きがあります. LP は開放とみなせるので,Ll をまとめ, さらに Cs をまとめて Ll の右側に置くと, 図5.7の等価回路が得られます. Cs の位置は,実際の出力トランスの作動条件では, どちらにあっても大差ないようです.
図 5.8: トランスの高域の等価回路
\begin{figure}\input{figs/tr_eq_h}
\end{figure}

等価回路より,

e1 = e$\displaystyle {\frac{{r+Z_{L_l}+R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}{{R_s+r+Z_{L_l}+R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}}$ (5.16)
e2h = e$\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}{{R_s+r+Z_{L_l}+R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}}$ (5.17)

ですから,トランスの高域の利得 Ah は,
Ah = $\displaystyle {\frac{{e_{2h}}}{{e_1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}{{r+Z_{L_l}+R_i//Z'_L//Z_{C_s}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + (r + Z_{L_l})\frac{1}{R_i//Z_L'//Z_{C_s}}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + (r + Z_{L_l})\bigl(\frac{1}{R_i//Z_L'}+\frac{1}{Z_{C_s}}\bigr)}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{1 + (r + s L_l)\bigl(\frac{1}{R_i//Z_L'}+s C_s\bigr)}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{s^2 L_l C_s + s\bigl(\frac{L_l}{R_i//Z_L'} + C_s r\bigr) 1 + \frac{r}{R_i//Z_L'}}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{s^2 L_l C_s + s\bigl(\frac{L_l}{R_i//Z_L'} + C_s r\bigr) + \frac{r+R_i//Z_L'}{R_i//Z_L'}}}}$ (5.18)
  = $\displaystyle {\frac{{R_i//Z_L'}}{{r+R_i//Z_L'}}}$ . $\displaystyle {\frac{{1}}{{s^2 L_l C_s\frac{R_i//Z_L'}{r+R_i//Z_L'} + s\bigl(\frac{L_l}{r+R_i//Z_L'} + C_s r//R_i//Z_L'\bigr) + 1}}}$  
  = Am$\displaystyle {\frac{{1}}{{s^2 L_l C_s\frac{R_i//Z_L'}{r+R_i//Z_L'} + s\bigl(\frac{L_l}{r+R_i//Z_L'} + C_s r//R_i//Z_L'\bigr) + 1}}}$ (5.19)

となります. これは,2次のローパスの伝達関数で,固有周波数 $ \omega_{0}^{}$Q は,
$\displaystyle \omega_{0}^{}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\sqrt{L_l C_s\frac{R_i//Z_L'}{r+R_i//Z_L'}}}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{\sqrt{L_l C_s A_m}}}}$ $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{1}}{{\sqrt{L_l C_s}}}}$ (5.20)
Q = $\displaystyle {\frac{{\sqrt{L_l C_s \frac{R_i//Z_L'}{r+R_i//Z_L'}}}}{{\frac{L_l}{r+R_i//Z_L'}+C_s(r//R_i//Z_L')}}}$  
  = $\displaystyle {\frac{{\sqrt{L_l C_s A_m}}}{{A_m\bigl(\frac{L_l}{R_i//Z_L'}+C_s r\bigr)}}}$  
  $\displaystyle \approx$ $\displaystyle {\frac{{\sqrt{L_l C_s}}}{{\frac{L_l}{R_i//Z_L'}+C_s r}}}$ (5.21)

となり, Q > 1/$ \sqrt{{2}}$ で周波数特性にピークが生じるようになります.


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Ayumi Nakabayashi
平成19年6月28日